9.神に決められた番、彼女に選ばれなかった男(ミハエル・ミスト・シルフィ視点)
次の日、番の家の近くに行くと、物陰から家の様子をうかがった。
この辺りでひときわ豪華な屋敷の中から、確かに番の匂いがする。
俺の国では貴族令嬢なら男とは違って、座学や魔法の講師がメインだし、おとなしく部屋の中にいることが多かった。
…………番の匂いはせわしなく屋敷の中のあちこちを移動しているようだ。
動き回るくらい元気なようでよかったが、召使か下働きか、そんなような身分なのだろうか。
貴族の屋敷の中にいるから、初めは貴族令嬢かと思ったがそうではなさそうだ。
それなら金で解決できるかもしれない。
俺は、番が一生懸命働いているであろう様子を想像してそんな下種なことを考えてしまった。
ずっと自分の番を探して来たから、色々な事を考えてしまったのだ。
番の身分が高かったら、一緒に住むのにも時間がかかるだろうし、どうしようとか。
宗教施設とかにいるなど、その建物から出られないシスターなどであればどうしようとか。
番とは神から決められた運命の相手だ。
愛し合えないはずはないけれど、一緒になるには色々気持ちだけではなく環境的な要因もあるだろう。
でも、召使や下働きなどなら、番本人の家族も一緒に楽な暮らしができるとなればどうだろう?
俺の国にスムーズに一緒に来てくれるのではないだろうか。
俺は、はやる気持ちを抑えて、いったん屋敷の近くから引き下がることにした。
貴族の屋敷をいきなり訪問しても不審者なだけだ。
出入りの商人か何かに金を渡して、話をつけてもらうことにしようと思った。
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番に会うまでに時間はかかると思ったが、出入りの宝石商人に金を積むと話は早かった。
一応、俺は外国の貴族であるし、金で両替してこの国の通貨はそこそこ持っている。
この屋敷の主である伯爵の妻、つまり貴族の伯爵夫人は驚くほど早く会ってくれた。
伯爵夫人は、獣人への差別というよりは、俺が魔法収納カバンに仕舞っている金が気になるのか、カバンをジロジロ見てきた。
『この屋敷で働いている女性が、獣人である自分の番である可能性が高い。匂いからして今、2階の一番隅の部屋で一人で働いているようだ。礼はするので、よければ会わせてくれないだろうか?』
というような事を端的に伯爵夫人に伝えた。
伯爵夫人は微妙な顔をしている。
まあ、人間には不思議な話だろうし、そこらへんはそういう顔をするだろうなということは今までの旅で学んだ。
だけれどまずは、話はそこからだ。
会って、そして話をして。
段々、番が近くにいるという事実に蕩けそうになる頭を冷静に保とうとする。
いくら番だからといって、早急な男は好みではないだろう。
しかし、俺の思惑を超えて、伯爵夫人は、2階の一番隅の部屋に誰がいるかを確認させた使用人から耳打ちされると、表情を一変させてニヤニヤしだした。
「あんな子、貴族のジジイに売り飛ばしてお金を稼ごうかと思ったけれど、あなたがそれ以上のお金を出すなら連れてってもいいのよ」
と、伯爵夫人は耳を疑うような言葉を口にした。
提示された金額は、大金だけれども払えなくはない額だった。
迷ったけれど、俺の番を救う金だ。
魔法収納カバンにまだ金は入っている。
俺は早急に両替してくることにして、伯爵夫人の申し出に頷いた。
使用人ではなく奴隷なのだろうか?
売り飛ばすとの物言いにまずは番の安全を確保した方が良いと思ったのだ。
金が用意できた翌日、今度は伯爵夫人の方から俺が泊っている宿に、女性の身柄を引き渡すとの連絡があった。
ついでにというように金額の増額の申し出もあった。
伯爵夫人はそうとう金が欲しいらしい。
あまり番が恋しい感じを出すと、手持ちの金額以上に増額されて番を連れて帰れないかもしれない。
そんな危機感を抱いた。もう手遅れかもしれないが。
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伯爵家の応接室にまた伯爵夫人と対峙した。
「じゃあ、連れてこさせるわね。ねえ、アメリアを連れてきて」
伯爵夫人がそういって使用人の一人に声をかける。
番に会えるという興奮で忘れていたけれど、俺の番の名前はアメリアというのか。
綺麗な名前だ。美しい女性なのだろうな。
しばらくして部屋の外から何かを引きずるような音と、押し殺した悲鳴が聞こえた。
番の匂いが近づいてくる。
まさか、俺の番を手荒に扱っているのでは?
抗議しようとしたが、伯爵夫人が俺の顔をニヤニヤしながら確認しているので、平静を装った。
しかし、番がドサッと投げ出されて目の前に現れたとたん、番を手荒に扱われた怒りもあったはずなのに、それすら押し流され喜びで頭が埋め尽くされた。
金髪に濃い菫色の瞳の少女アメリアがこちらを見上げている。
番の視界に自分が映ったのだ。
もう、金はいくらでもかまわない。
古びた灰色の服を着て、許せないことに髪をつかまれていた。
きっとこの家の奴隷かなにかなのだ。
「あなたの番のミハエル・ミスト・シルフィだ。迎えに来た」
俺は君を迎えにきた。
絶対に俺の腕の中に飛び込んでくれるはずだ。
もう一生苦労はさせないし、大事にする。
何一つ不自由はさせない。
だって、神様から認められた俺の運命の番なのだから。
アメリアは、混乱したような眼をこちらに向けた後、
「あっ……!」
と何かに気づいたように声を上げた。
そして、アメリアの雰囲気が変わり、アメリアの魔力が膨れ上がる気配を感じた。
そして、数瞬のうちに、その目が俺を軽蔑するような視線に変わり………………、
「番ですか。そうですか。……さようなら」
そう言って、魔法を発動し俺の目の前から消えた。
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