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ドアマットヒロインに番と名乗る獣人がやってきた。あなたの番が迎えに来たって? 番ですか、そうですか。さようなら  作者: ひとみんみん


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7.「もう大丈夫」

「早いものでリアさんが来てからもう2年ですねー」


 受付嬢のミレーネさんが、私の依頼票とダンジョンで獲得したモンスターの素材や魔石を処理しながらつぶやいた。


「あ、もうそんなになりますか。いやー、最初のころからお世話になりました」


 ミレーネさんはもうずっと私の担当でお世話になりっぱなしだ。

 あのギルドに入り始めのころが懐かしい。

 人に肩を叩かれたぐらいで悲鳴をあげてたっけ。


 今はもう大丈夫で、最初のころから声をかけてくれた人達と一緒に時間が合えば食事に行ったりもする。


 私の後に、何人も新人の冒険者が入ってきたりもした。


 私は地道に冒険者を続けていて、冒険者ランクも鉄級から更に一つランクがあがって銅級になったりもしたけれど、そこからは意欲的ににランクを上げていない。



 淡々と、毎日のようにダンジョンに潜り、モンスターを倒し、お金に換えて、この町で買い物をしたりする。

 ただ、住むところは15歳の成人になった時だいたいの住居が借りれるようになったが、まだギルドの寮にいる。

 この前も恐る恐るミレーネさんに、


「まだ、寮にいたいのですが、出ていった方がいいですかね? 新人の人が入りたかったりとかしますか?」


 と聞いたら、


「全然大丈夫ですよー! まだまだ空きもありますし、ギルドとしても寮に冒険者の方がいると仕事を頼みやすかったり、ギルド全体の治安もあがりますしね」

「あ、ありがとうございます」

「寮を気に入って頂けて良かったです。もともと国から補助が出ていますし、国もギルドも有能な冒険者の方を保護させていただきたいですから」


 ミレーネさんのにこにこの返答を聞いて安心した。

 この世界には魔法があるし、私は腕力のかわりに魔法が使えて、前世ほど『女の一人暮らしは危ない』とは言われないけれど、前世の記憶が異世界に生まれてから15年たっても抜けない。

 そもそもアイステリア王国では入り口で犯罪履歴をチェックする魔道具で犯罪者を弾いているから、そんな心配も本当ならないのだろうけれど。


 ………そして、住居の問題とは別に、最近、ダンジョンでのソロ活が行き詰っていた。


 ---


『……………………!!』


 鉱石ゴーレムが大きい体の割に機敏な動きで腕を振り下ろしてくる。


「わっ、あぶなっ…………!! ファイヤーアロー!」


 私の火の矢がゴーレムの体を溶かしながら穴をあけたが、振り下ろしの腕の勢いが止まらず、そのゴーレムの腕をギリギリのところで避けた。

 ゴーレムは私の炎の矢に核を貫かれて前のめりに倒れた。

 私はそれも更にギリギリで避ける。

 冒険者を2年やってきたとはいえ、基本魔法使いをやっていると身体能力はそこまで上がるわけではない。

 私が魔法を発動するまでなんとか時間を稼ぎたい。

 ソロ活だとここが限界かもしれない。


 別にダンジョンの攻略を誰かに無理強いをされているわけでもない。

 別にここら辺でもう足踏みして日々の生活を穏やかに送っていくだけでもいいのかもしれない。


 けれど、前世を覚えている身としては、冒険者は収入的にも身分的にも不安定だなあ、と思うし、老後が心配だ。


 この世界では年をとって働けなくなったら自己責任で、若い時の稼ぎを切り崩しながら細々と暮らしていくしかない。


 老人の面倒を見て死ぬまで世話してくれる施設もあるにはあるが、そうとうマイナーな施設で、もちろん巨額の入居金や月額費用が必要だった。

 庶民にはとうてい利用できる施設ではなく、主に家族に迷惑をかけたくない富裕層の商人や、貴族籍を抜けた元貴族の高齢の人たちが、利用するに留まってる。

 お金次第で入れる施設ではあるけれど、冒険者で入っている人はほとんどいない。


 そもそも自分の家に通ってきてくれるメイドとかの職業もあるから、老人になってもお金のある人は自分で家を建ててそこで面倒を見てもらう人もいるらしい。


 そこら辺の色々は予算次第という事か。


 ちなみに私は余裕でお一人様の人生を送るつもりなので、お金を私なりに溜めている。


 参考までに前世の事も思い出してみたけれど、もう異世界に生まれて15年にもなると前世の記憶はこの世界を舞台にした本『家族に虐げられていた私ですが、迎えに来た番と幸せになります~私と狼さんの幸せな結婚生活~』の大まかなあらすじや、毎日電車とバスを乗り継いで仕事にいき、情報サービス系の仕事をしていたぐらいしかなくなっていた。

 だから前世知識チートとかそういうのもなく、本のヒロインである証の火と水の魔法と空間魔法が使えるぐらいしかない。

 大体、虐げられていた主人公が迎えに来た狼の獣人に番だからと溺愛される甘々な話だから、ヒロインの能力がどうというのも特に関係ない。


 ヒロインが狼の獣人と仕事の都合上(狼の獣人はたしか貴族家の人みたいな設定だった)離れているのが寂しくて、空間魔法で会いに行って、そのチート能力に周りが驚くみたいな本の中の話も、本の中として読んでいるのは面白いけれど、実際にそうなってみると、『だからなに』みたいな。『魔力の無駄遣い』と思える。


 まあ、『溺愛日常系』の話だから仕方ないのだけれど。


 まあまあまあ、全てそんなお花畑の思考をしている主人公への嫉妬だ。

 認めよう。


 私はあの時迎えに来た狼の獣人の胸には飛び込めなかったし、初対面なのに結ばれることを疑っていない獣人を気持ち悪く思った。

 そんな汚れた思考の私は、とりあえず冒険者を頑張るしかない。


「目指せ! 悠々自適な老後生活!」


 そして、そんな老後への決意を固めた私の前に、更なるダンジョンの障害が立ちはだかった。


「わお、スイッチ」


 乾いた棒読みの独り言が口から出る。

 目の前にはダンジョンのギミックとして、壁に大きな赤い丸いボタンが突き出ていた。

 見たくなくて、見ないようにしていた。

 この階のダンジョンの向こう側でも同じようなボタンを見た。

 あっちのボタンは大きな丸い青いボタンだ。

 同時にボタンを押さないと、前に進む通路が出現しない。

 パーティーを組んでいるメンバーとの協力が必須だ。

 他の人が開けた通路を通ろうとしても、即座に閉まる。


 後、更に都合が悪いことに、この階層以降は宝箱にも解除ギミックがある場合が多くなってくる。

 二人で開ける宝箱、やたらに蓋が重い宝箱、毒矢が飛び出てくる宝箱。

 動きが素早い人食い宝箱などだ。


「仕方ない」


 前から、私を心配するミレーネさんに勧められていた。


『ソロも報酬を一人で獲得できて素晴らしいですが、誰かもう一人ぐらいパーティー仲間がいた方が、さらに効率よく稼げますよ』


 と。

 冒険者ギルドも、さすがに年取った冒険者の面倒は見てくれない。

 ミレーネさんは私の老後のたくわえの心配を聞いて、もっと儲かる方法を提案してくれた。


 そして、ちょうど後衛の火力のある魔法使いを探している『人間の剣士』がいるという。

 私は以前ミレーネさんに獣人が『番』として迎えに来て怖かった話も相談していた。ミレーネさんは遠い目をして『あー、そういうトラブルはありますね』と言っていた。もしかしてよくあるトラブルなのだろうか。

 だからあえて、獣人なら前衛をしたい拳闘士はそこそこいるが、人間の前衛を探してくれたのだろう。

 私の後1年半ぐらいで入ってきた新人で、剣の扱いはなかなかだという。

 自己申告では、身体強化系の魔法を持っているそうだ。


 私はその前衛希望の剣士と会ってみることにした。

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