第四話:「裏組織からの勧誘」
第四話:「裏組織からの勧誘」
昼下がり、セーフラインの三人は久々に街で羽を伸ばしていた。
アマデオは市場の露店で軽食をつまみ、ランハートは剣の柄を磨いている。
ルディは鍛冶屋ハガンの店で、ロングソードのバランス調整を頼んでいた。
その帰り道、街外れの裏通りで声をかけられた。
不意の誘い
「ルディガーさん……で、よろしいでしょうか?」
スッと現れた男。
黒のコート、白手袋、柔らかい声。口元にだけ笑みを貼りつけた、ヴィート・カラッジオだった。
「少し、お話しを」
「どこの人間だ?」
「ご安心を。我々は、あなたの“働きぶり”に関心を持っている組織です」
言葉の選び方がプロだった。だが、匂いが違う。
ルディは返す。
「仕事の話か? それとも……買収か?」
「どちらでも構いません。
あなたほどの判断力と力を持つ方が、あんな雑多な依頼で手を汚すのは……どうにも、勿体ない」
条件提示
ヴィートは封筒を取り出す。
中には金貨50枚分の引換証と、特注武具の製造依頼状。
「これは、最初の誠意。あなたにしか渡せない物です」
ルディは受け取らなかった。ただ静かに問い返す。
「代わりに求めるのは?」
「たった一つ。特定の依頼を受けないこと。それだけでいい」
「つまり、“邪魔をするな”と」
「さすが、お察しが早い。……あなたなら、わかると思っていました」
誠実の意味
沈黙が落ちた。
だがルディの目には、怒りも迷いもなかった。ただ一つ、真っ直ぐな意志が灯っていた。
「俺のやり方は、昔から一つだけだ」
「ほう」
「金を受け取る時、命も受け取る。その意味が、わからない奴には一歩も譲らない。」
ヴィートの笑みが僅かに歪む。
「……なるほど。非常に、残念です」
「話は終わりだ。二度と声をかけるな。もし仲間に手を出したら――許さない」
その声は低く、どこまでも静かだったが、
ヴィートの背筋に走ったものは、間違いなく“戦場の気配”だった。
監視の始まり
その夜、アマデオが言う。
「……ヤバいのに目ぇつけられたな。あの黒コート、あいつ“裏の人間”だ」
「当然、わかってる」
「殺る? 俺、やろうか?」
「いや。誠実ってのはな、“手を出すな”じゃない。“出す時は、責任を持って潰し切れ”って意味だ」
ランハートがうなずいた。
「戦う準備、始めよう」
ルディが答える。
「いいか。俺たちは“守るために立ってる”。向こうがそれを壊しに来るなら――」
ロングソードの柄に、静かに手が乗せられる。
「徹底的に、折るだけだ」
ラスト一文
その夜、ギルドの屋根の上には黒い影が一人。
遠くからルディの姿を見下ろし、笑っていた。
「ふむ……“誠実”とは、何とも扱いにくい」「敵ながら手強い相手だな」