第三話:「指名依頼」
第三話:「指名依頼」
冒険者ギルドの依頼掲示板に、ひときわ目立つ札が貼られた。
――《緊急指名依頼》
案件:薬師の護衛と山道の撃退任務
報酬:金貨5枚+成功報奨
その横に、貼り紙がもう一枚。
指名先:チーム【セーフライン】
※断る場合は午前中までにギルドへ
アマデオが吹き出す。
「はは、来ちまったよ“指名”。まさか三戦目でくるとはな」
「誰が? なんで俺たち?」
ランハートが訝しむのも無理はない。
だがルディは、受付に目をやると淡々と言った。
「……昨日、あの受付嬢が俺たちを推薦してた。目が合った時、礼の意味で頷かれた」
「マジかよ……!」
依頼内容と依頼人
依頼主は薬師ギルドの一員、エルナ・メルダ。
淡い赤髪の女性で、年齢は二十代後半。性格は快活、だが目が鋭い。
「山道で盗賊が出るの。魔物より怖いのは人間よ。
薬草採取に護衛がほしくて……ベテランより、信用できる新人がいいって言ったら、あなたたちが挙がった」
「理由を聞いていいか?」
ルディが静かに聞くと、エルナは少し笑って答えた。
「……“殺さなかった”からよ。ワーバット、わざわざ生け捕りしたでしょ? ああいう判断、私は信じる」
ランハートが小さく息を吐いた。
「納得した。行こう」
山道:奇襲と駆け引き
依頼は単純だった。目的地までの護衛、そして戻るまでの道警戒。
……のはずだったが、三日目の下山中に事件が起こる。
「止まれ。荷物置いてけ」
霧の中、4人の盗賊が道を塞いでいた。
武装はまばらだが、全員手慣れている。しかも一人、弓手がいる。
「アマデオ、右上。ラン、前。俺が話す」
ルディが前に出た。
「金はやらん。ただし命が惜しいなら、今すぐ引き返せ」
「は? オッサン、なめてんのか?」
「いや。こっちは命を守る仕事で、そっちは奪う仕事。守る側が負けるのは、事故だけだ。
お前たちの“実績”が事故レベルか、確認してやる」
言い終わる前に、弓が放たれた。
だがルディのロングソードが刃ではなく柄で矢を叩き落とす。
「こっちは金も命も、全部“任されてる”。責任ってやつがあるんだ」
その一言で、二人が動いた。
アマデオ vs 弓手
霧の中を縫うように動くアマデオ。地を蹴り、弓手の背にナイフを突きつける。
「やっぱ矢は、後ろから飛ばすもんじゃねえな」
一人、脱落。
ランハート vs 前衛二人
一撃。一太刀ごとに重心が無駄なく流れる。剣の“型”ではなく“制圧”の剣術。
若き剣士が、真正面から二人を押し切った。
ルディ vs 盗賊リーダー
短剣同士の打ち合い。だがルディの攻撃は狙いすぎない。
体のライン、肘、足首。護身術ベースの戦い方が盗賊には理解不能。
リーダーが倒れ、四人は制圧された。
エルナの言葉
帰路、エルナが呟いた。
「……私ね、昔、護衛に裏切られて痛い目にあったの。信頼って、命より重いってこと、知ってる」
ルディは一歩、前を見据えたまま答えた。
「俺たちは“守る側”に生きてた。裏切るって選択肢が、初めからない」
報酬と評価
指名依頼は完遂+盗賊捕縛の功績で、ランクがまた一段階アップ。
しかも、薬師ギルドからの推挙で、【セーフライン】は“信頼リスト”に入った。
つまり、重要任務や大口依頼が優先的に回るポジションに。
ラスト一文
ルディはギルドの裏庭で、夜風を浴びながら一人剣を振っていた。
鉄アレイではない。だが“重さ”は、変わらない。
「誠実に、生きて、稼ぐ。それだけだ」
その姿は、誰より冒険者らしくなかった。
けれど誰より、“誰かの命を預かる者”の背だった。