第二話:初陣「霧の遺跡」
第二話:初陣「霧の遺跡」
霧が立ち込める廃遺跡。地面はぬかるみ、視界は五メートルが限界。
「情報通りなら、獣魔ワーバットが1体。雑魚じゃないが、初手には悪くねえ」
アマデオが前を歩く。気配の読みと足音の処理が尋常じゃない。
盗賊というより、元スカウト部隊みたいな動きだ。
後方にはランハート。剣を抜かず、手は柄に添えたまま。目はいつでも動けるように集中している。
そして中衛がルディ。ロングソードを片手で持ち、反対の手に短剣。まるで警備時代の“盾と小太刀”の感覚を思い出している。
不意打ち
「来るぞ、右上!」
アマデオの声に即応し、ランハートが跳ねた。
霧の中から黒い影が弾ける。大きなコウモリのような魔物、ワーバット。
その瞬間、ルディが一歩踏み出した。
ガンッ!
ロングソードの柄で翼を打ち、バランスを崩させる。
地に落ちた瞬間、短剣が喉元に滑り込む――が、止めた。
「……こいつはまだ生きてる。どうする?」
ランハートが問う。
「殺すべきだ。生かせば後で戻ってくる」
「待て。アマデオ、賞金が出るか?」
「……おいマジか、こいつ生け捕りの方が金になるぞ。ギルドに特殊報告すりゃ倍はもらえる」
ルディは首肯する。
「じゃあ、縛って持ち帰る。俺が持つ。お前ら、周囲を見てろ」
初任務の帰還
帰り道。アマデオは妙に饒舌になっていた。
「いや〜、すげえなリーダーさんよ。剣の振りが変だと思ったら、あれ護身用って感じだ。どこで鍛えた?」
「金を運んでた。殺さず、守る。だからこうなる」
「へぇ。……あんた、他の連中とは違うな」
ランハートもぽつりと呟く。
「無駄がない。殺すべきところで殺さず、判断が早い。信じていいか迷ってたが、わかった」
「信じるな。ただ、俺のやり方は変わらん」
静かな、だが重い言葉に、二人とも黙った。
ギルドでの報酬と変化
帰還報告。生け捕りは予想以上に評価され、FランクからEランクに即昇格。
ギルドの職員も驚いた顔を隠せない。
「……初任務でワーバット生け捕りとか、バケモンかよ」
「チーム名とか、考えてんの?」
アマデオが聞く。
「チーム?」
「おう、三人で組むなら名前がいる。あんたらしいの、何かあるか?」
ルディは迷いなく口にした。
「【セーフライン】】」
「……は?」
「俺がいた世界じゃ、命を守る境界線を“セーフライン”って呼んでた。超えればアウト。守ればセーフ」
アマデオとランハートは顔を見合わせ、ニヤリと笑った。
「ダセぇけど……いいじゃん。俺たちらしくて」
ラスト一文
こうして、“誠実”と“強引”と“真っ直ぐ”が交差する三人組、
【セーフライン】は、バストレイドの荒野に小さな爪痕を残し始めた。