かーくんのおはなし
でも、すぐに優しい顔に戻って、
「大丈夫。ちゃんとお話聞くからゆっくりでいいよ。」
「……っっ」
なんでかわからないけどまた涙が出てきて、うまく話せないことにもイライラして、それを伝えたいけどなんて言っていいかわからなくて…
もうわけがわからないことが多すぎてかーくんにぎゅっと抱きつく。
かーくんは急に僕が飛びついたのにしっかり抱きとめてくれて背中をトントンしてくれる。
でも、トントンじゃなくてぎゅーってしてほしくてさらに腕の力を強めて正面から羽交締めにしてしまう。
「…んーーっっ!!」
胸元に顔を押し当てて喋れないけどそれでも何か言いたくて…自分が自分じゃないような、胸の中のざわざわが余計に強くなってる気がしてさらに涙が出る。
かーくんはそんな僕を一度ぐいっと引き剥がして抱っこし直してくれた。更にぎゅーーーっと両腕を強く強く隙間を無くすように僕を抱きしめてくれた。
「そのままでいいからちょっと聞いてね」
かーくんは優しくあやすような声音で話しかける。
「千歳、ざわざわしてる?」
「ん。」
「そっか。じゃあ、いつからざわざわしてるの?」
「…」
「昨日から?」
「…」
「今朝から?」
「ん。」
「今朝かぁ…。何か怖い夢見た?」
「…」
「何か嫌なこと思い出しちゃった?」
「…」
「何もないけど怖くなっちゃった?」
「…ん。」
「そっかー。じゃぁ、千歳は聞いたことあるかな…【不安定期】って知ってる?」
「…??」
「知らないのか、んー、じゃあ簡単に説明するからお話終わったらクリニック行こうね。今日はぜーんぶお休み。」
思わずパッと顔を上げて彼を見上げた。
だっておやすみって…かーくんはお仕事ある。
そんな簡単に休めないし今は忙しい時なんじゃ…
僕がものすごく不安そうな顔をしていたのか、かーくんはふわりと笑って
「お前以外に最優先するものはないよ。俺にとってお前がいちばん大事。仕事も友達も後回しでいいの。」
「っ、でも!」
「俺の職場はそういう体制がしっかりしてるんだよ。そういうところを選んだの。パートナーに異変があった時すぐに駆けつけられないなんて嫌だからね。」
「…」
「まぁ、もし今の会社に就職してなくても、体制も整ってないところでも、お前に何かあれば別に解雇になってもお前を優先する。仕事なんてごまんとある。いくらでも働けるんだよ。でも、お前は1人しかいない。お前の替えはどこにもいないんだよ?」
「…」
「もし世界が突然…あー、この前お前が読んでた本みたいな…異世界と繋がった云々〜とかになってクローン技術が発達してお前と寸分違わず同じ人間ができたとしても、俺はお前じゃなきゃ嫌だよ。」
「クローンなんて見分けつかないんじゃないの?」
「絶対、100%見分けるよ」
「ほんとに?」
「本当だよ。俺は、お前が死んだら絶対に後を追う。
お前を1人にはしたくないし、
俺もお前のいない場所で生きていたくない。
だからね、千歳くん。君の責任重大よ〜?
だって俺の命お前にかかってるんだから」
そう話している間ずーっと頭や肩や背中を撫で続けてくれて僕が俯きそうになれば頬や額にキスが落ちてくる。
茶化しながらも目を細めて僕を見る優しい笑顔に不思議とざわついていた胸が落ち着いてきた。
「俺のお話聞けるようになった?」
「うん。なんだか落ち着いたみたい」
「よし、じゃぁ今から説明するからちゃんと聞いてな?」
「うん」