第5話「幼稚舎と初等部」
第5話になります。
ついに、黒ノ森学院の他の生徒たちと会うことになった夕貴。
最初に会ったのは、幼稚舎に通う女子生徒で……
「!あ、みくちゃんだ……!!」
階段を降りた途端、蒼真は誰かを見つけたらしく、声を上げた。
「…!そーまくん。それに、あきお姉さんたちも。」
そんな声と共に、小さな影が姿を現した。
「!!」
「…?あら?初めて見るお兄さんだ。」
夕貴の目の前に現れたのは、実に可愛らしい少女だった。
ミルクティー色の髪を黒いリボンで結っており、不思議の国のアリスのような洋服を着ている。
そして、手にはうさぎのぬいぐるみを持っていた。
「!初めまして。今日からこの学校の先生になった、白井 夕貴です。」
夕貴は自己紹介しつつ、屈んで少女に目線を合わせた。
「!新しい先生ね!こんにちは、私は渡 美紅。この子はラビーナよ。ほら、ラビーナもご挨拶して。」
美紅という少女は、ラビーナといううさぎのぬいぐるみの手を持って軽く振る。
「!美紅ちゃんと…ラビーナちゃんだね。これからよろしくね。」
夕貴は少々戸惑いつつ、美紅とラビーナに挨拶をした。
「蒼真くんと美紅ちゃんが、この学院の幼稚舎の生徒なんです。2人とも仲良しで…」
亜希がそこまで説明した時だった。
「!あれあれ!?もしかして、新しい先生!?」
やや興奮気味な声と共に、小さな影が2つ、夕貴の目の前に飛び込んできた。
「わ!!?」
「!あ、葵に翔吾!急に来たら先生がびっくりするでしょ?」
すると麻弥がその2人であろう名前を呼び、軽く窘めた。
「!やっぱり新しい先生なんだね!こんにちは!俺、相葉 葵だよ!」
「!急に、ごめんなさい…僕は、保内 翔吾です。」
茶色のサイドが長い髪型の少年は葵、紺色のショートヘアーの少年は翔吾と名乗った。
「!葵くんに、翔吾くんだね。こんにちは、白井 夕貴って言います。」
「夕貴先生だね!…あれれ、ちょっと緊張してる?」
目線を合わせて自己紹介した夕貴に、葵がそう聞いた。
「え……!?」
はっきり言って図星なのだが、何故分かったのだろう。
「そりゃあ緊張もするよー。先生、今日初めてここに来たんだから。」
すると、亜希が軽く笑いながら言う。
「!そっかぁ、そうだよね!ねえ先生、分からないことがあったら俺に何でも聞いてね!」
「!ぼ、僕にも聞いてね、先生!」
葵と翔吾は、競うようにして夕貴に話しかけた。
「!うん、ありがとう。頼もしいな。」
夕貴はにこりと笑い、2人の頭を軽く撫でた。
「…平和だなぁ……ここまでは、だけど……」
ふと、その様子を見ていた零がぽつりと呟いた。
「え?」
「…あ、いや……幼稚舎と小等部は、まだ見ての通り平和なんです…」
零はそう言うと、チラリと向こう側の教室を見た。
「…お次は、いよいよ案内しますね。中等部と高等部に……」
そんな風に言葉をこぼす零を見て、夕貴には再び緊張が走ったのだった。