第3話「先生」
第3話となります。
ついに、夕貴が先生として就任。黒ノ森学院での生活が始まります。
「っ!」
百合子のその一言に背中がぞっとするような感覚を覚えながら、夕貴は理事長室に足を踏み入れた。
「…こちらにお座り下さい。書類にサインをして頂きます。」
百合子は理事長室の大きな机に、何枚かの書類を置く。
部屋は非常に厳かな雰囲気を醸しており、学院の長がいるに相応しかった。
「…白井 夕貴さん。貴方は、本日よりこの黒ノ森学院の教師として働いてもらう、ということでお間違いないですか?」
「!はい、大丈夫です。」
「…分かりました。…では、ここと、ここ…あと、こちらにお名前を。」
「!はい。」
夕貴は、言われた通りに書類にサインをした。
「…白井 夕貴さん。…いえ、白井先生。貴方は、ここに来たことを後悔しませんか?」
ふと、百合子が夕貴の顔を見つめてそう呟いた。
ーその眼光は、何もかも見抜いてしまいそうな程に鋭い。
夕貴は怖気付いたが、すぐに百合子に向き直った。
「…はい。しません。」
「……そうですか。」
百合子はほんの少しだけ微笑み、書類の確認を始めた。
夕貴は、ここで怖気付いて引き下がる訳には行かなかった。
ー「あの子」との約束を守るために。
夕貴が昔の記憶を思い出していると、百合子が口を開いた。
「これで、手続きは終わりです。」
「え!?もう!?」
夕貴は素っ頓狂な声を上げる。
手続きと言うのだから、もっと時間のかかるものとばかり思っていたのだ。
「はい。貴方の荷物は既に教師陣の寮の部屋に送ってもらいましたし、事前に本人の確認書類等も受け取っていましたから。それに、校内の案内は代表生徒の4人にお任せしますし、学院のルールや設備の勝手などは全てこちらのマニュアルに載っています。」
「そ、そうでしたか……」
だからスムーズにいったのかと、納得し、何となく肩の荷がおりたような気がした。
「こちらがそのマニュアルです。そして、先生の初仕事は明後日からとなります。今日明日で、学院のことと生徒たちのことをある程度頭に入れて貰えれば。」
「!は、はい、分かりました。」
夕貴は百合子から渡されたマニュアルをパラパラとめくり、目を通す。
「…それでは、私からの説明は一旦以上となります。代表の生徒たちに、学院を案内してもらって下さいね。」
そう言うと、百合子は席を立ってガチャリと扉を開けた。
「!」
「…これからよろしくお願いしますね、白井先生。」
百合子の言葉に、夕貴は大きく頷いた。
「はい、よろしくお願いします!」