第2-2話 ドルシー
「あ、トリーシャさん!」
セオドアはいつも通りの笑顔でトリーシャの元へ駆け寄って来た。
幻想のしっぽがパタパタと元気に揺れるのが見えた気がした。
犬系よね。
そんなセオドアを見て愛らしい方の女神様が目を丸くしている。
「お友達って女性だったのね」
唇の端を持ち上げて笑顔を作ってセオドアに小首を傾げて聞いてみる。
トリーシャの悪役顔の笑顔は結構迫力満点だ。
見た人をギョッとさせて、萎縮させる効果を持つ。
しかし、ワンコなセオドアには威圧は効かなかった。
トリーシャの不吉な笑顔を輝く笑顔で受け止める。
「ん?ああ……友人の妹ですよ。
友人は急用で来れなくなったから代わりに面倒見てるんです。
妹みたいなもんですね。
レオ〜お母さん困らせてないか?
お父さんがいない時はお前がお母さん守るんだからな〜」
セオドアはレオの頭をクシャクシャと撫で回す。
レオは頭を振って面倒くさそうにしている。
レオの扱いたまに下手よね。
妹分の可愛子ちゃんが紹介されるのを待っている。
私も待っている。
「ほーら、レオ〜高い高ーい!」
「うわーーーーい!!!」
「ほーら!もっと高ーい!!」
「あはははは!!!」
「…………………………」
ダメだ。男二人きりの世界に入ってしまった。
レオを放り投げ始めてる。
セオドアは軍属で筋力体力があるせいか、トリーシャなら何回も出来ない高い高いも無限に出来てしまうのだ。
そこまでゴリゴリのムキムキには見えないけど、異世界なのでその程度の不思議は目を瞑ろう。
頭良さそうなのに脳筋なのもご愛嬌だ。
「…………セオドア、こちらの方はどちら様かしら?」
流石に痺れを切らした様だ。
花の様な笑顔を萎れさせない様に頑張ってるのをトリーシャだけはちゃんと気付いている。
トリーシャの方はだいぶ早めに呆れ切った目線をセオドアに向けているが、セオドアは気が付なかった。
「ああ……トリーシャさん、こっちはドルシー。
ドルシー……この女神の様に美しく、宝石よりも眩く輝く一輪の花はトリーシャさん。
神より賜りし運命の婚約者なんだ」
紹介の仕方が変な気がしたが、トリーシャの知らないタイプの貴族社会の作法があるのかも知れないので黙っておく。
「そ、そう……。
あ、でも女神ってもしかして……」
ドルシーは口元を両手で押さえて可愛らしく上目遣いでトリーシャの目を見る。
ベールで隠された瞳の色を確認しようとしているのか。
トリーシャの容姿については結構有名になって来ている。
アイバン公爵んところの次男坊が邪悪な女神にそっくりな女に騙されてるぞーってね。
「そう……彼女は私の愛の女神なんだ」
セオドアが真面目くさった顔で頷く。
「そうだよ!お母さんはとっても可愛いお姫様の女神様なんだよ!」
レオも参戦した。
「えっと……あの……そうなのね」
ドルシー撃沈。
致し方ない。なんならトリーシャも男達の過分にも程がある表現に現在居た堪れない。
俯き加減で帽子のベールで顔を隠す。
多分今のトリーシャは羞恥で顔が真っ赤だ。
通りすがりの人がセオドアの言葉を聞いて口笛を吹いてトリーシャをからかってくる。
「……立ち話も何ですし家に帰りません?
ドルシーさん、歓迎するわ」
ライバルを威圧しつつ蹴散らそうと思ったのに……。
何故かトリーシャが往来で謎の羞恥プレイを受けている現状をとにかく今すぐ打破しなくてはいけない。
因みに、少し離れたところにいる護衛さんが口を引き結んでプルプル震えてしまっている。
くっ……もういっそ笑い飛ばして欲しい。
馬車の中ではトリーシャの隣にセオドアが座り、レオは膝に座って狭くて大変なことになっていた。
まあ、いつもの事なので慣れて来た。
でも、夏場は暑苦しそうよね。
「レオ、私の方来る?」
ドルシーがニッコリ微笑みながらレオに手を伸ばす。
男なら一発で恋に落ちるだろう可憐な笑顔だ。
「やだ!」
レオはプイッとそっぽを向きつつ、トリーシャに体重をかける。ぐえっ……年齢の割に背が高めで結構重いのよ。
家に着いたらドルシーは多少元気になった。
「わあ!久しぶりに来るわ!
子供の頃はよく来てたものね!」
おおっと分かりやすいマウントだ。
お前より昔から私たちは知り合いなんだ!という奴ね。
さて、対ドルシー戦。
二戦目といきますか。
正直負ける気がしない。
がんばれドルシー!
誤字報告ありがとうございます!
作者とiPhoneの予測変換がどちらもアホな為に今後もご迷惑おかけします!