第7話 プロポーズ
「お母さん……僕あの人嫌いです」
レオが意を決したようにトリーシャに拳を握って、俯き加減に言った。
「あの人って……さっき来てた人?」
そう、最近セオドアが北に行って不在の間に、公爵家の親戚の男、イーデンが度々住まいを訪れるようになった。
時には猫を新しく飼わないかと連れてきたり、若い女性に流行りの店に誘われたりしたが、やんわりお断りしている。
猫はすでに三匹いるし、一応婚約者がいる身だ。
外出するのにレオは使用人に任せれば良いと言われたが、レオはまだ両親を亡くしてから日が浅いのだ。
独身男性には分からないかもしれないが、平気そうに見えてもレオの心の傷はまだ癒えていないに違いない。
今は寄り添うべき時期に違いない。
「そうね。それなら……セオドア様が帰ってくるまでは私の実家の方に行きましょう」
実家に行くと、それはもう両親に歓迎された。
レオが。
娘はどうでも良いらしく、両親はレオを構い倒している。
そして、実家にも勿論猫が大量にいた。
実家で甘やかされているレオを眺めつつ、のんびり過ごす。
両親も借金は背負うことなく、猫ブームは外国にまで広がりパンデミックの起きる気配は無い。
「そう言えば、前に私たちに事業で手を組もうと言ってくれてた公爵家の親戚筋の人だけど、商売を失敗して行方をくらましてしまったらしいぞ。
トリーシャは何か聞いていないのか?」
「あー、そんな人もいたわね。
もしかしてウチに何度も来てたのは借金でも申し込みたかったのかしら。
悪い事したかもね」
そして、実家でだらだら過ごすこと数ヶ月。
セオドアがトリーシャ達を迎えに来た。
「寂しかったですよ。トリーシャさん。もう離れ離れになることはありません。
さあ、我々の家に帰りましょう」
実家暮らしは楽で良かったけど、レオもセオドアの帰還を喜んでいるし、素直に帰るとしますか。
「次会うときは結婚式だな」
父が笑いながら手を振るのにトリーシャは肩をすくめる。
その日の晩。
「お母さん、一緒に寝よう」
「良いわよ」
甘えん坊ねぇ。
かーわいいんだから。
トリーシャの隣で丸まったレオが眠そうにしながら、秘密を教えてくれた。
「あのね……お父さんがプロポーズしたいんだって。それでね、お母さんにはナイショなんだって……。
どんなプロポーズがいいのか知りたいって言ってたよ」
半分寝かかっているのか、瞼が閉じそうになっている。
トリーシャは優しくレオの頭を撫でながら答える。
「お父さんがしてくれるなら、どんなプロポーズでもお母さんは嬉しいかもね。
さあ、おやすみしようね」
「はい……おやすみなさい」
それから数日後、レオがいる前でトリーシャはセオドアに抱えきれないほど大量の花を渡された。
跪いたセオドアは、指輪をトリーシャに捧げながらプロポーズした。
「貴女を一目見た時から、私は貴女だけのものです。結婚してください」
「はい……お受けいたします」
そして、指輪をはめた直後にガバッと抱きつかれた。
レオも負けじと足元に抱きついてくる。
親子三人でぎゅっと抱きしめあった後に、トリーシャはどうしても気になっていたことを聞いてみる。
「私の髪や目の色、嫌じゃ無かったんですか?」
「…………いえ、別に」
セオドアはそっぽを向きつつボソッと答える。
これは何か隠したいことがあるパターン!!
「セオドア様!ちゃんと答えてください!」
トリーシャが唇を尖らせて眉をキリリとあげているのを見て、セオドアは慌てて答えた。
「実は……私は小さい頃に見た子供向けの神話の絵本に出てきた、悪い女神の挿絵が凄く好きでして……貴女を見た時に思ったんです。
私の初恋の人が絵本から会いに来たんだって」
頬を赤らめて恥ずかしそうに小さめな声で言うセオドアを、トリーシャは可愛いと思った。
「じゃあ……この髪と瞳が貴方は好きなんですね」
「今は中身も好きです。……勿論髪も瞳も全身全部愛しています」
真っ直ぐなセオドアの言葉にトリーシャも負けないくらい赤くなる。
「私も……セオドア様を愛しています」
「僕は?」
「勿論!レオのことも愛してるわ!」
レオをぎゅっと抱き上げた。
そんなトリーシャをセオドアはさらに上から抱きしめる。
「これからもっと幸せになりましょう。
親子三人で……」
物語は大きく変わってしまった。
原作の主人公であるレオの今後の人生も予測ができない変化を迎えただろう。
でも、私たちはきっと、原作以上のハッピーエンドをレオに与えて見せる。
トリーシャとセオドア、そしてレオは仲の良い親子として有名だった。
セオドアは女性に大変人気があったために、トリーシャの話はシンデレラストーリーのように持ち上げられ、菫色の瞳は幸運の象徴のように見る人も現れ始めた。
これから先のことは分からなくても、トリーシャは今、とても幸せだった。
需要がありそうなので、細々と続きを書くことにしました。
不定期更新になりそうですが、そんなに間を開けない様に頑張ります。レオくんをもうちょい育てさせてください。
色々なタイプ、ジャンルの話を書いてますので、興味を持っていただけたら他の話も読んでみてください!
代表作はギャグありで、四章あたりから本気出したダークっぽさもあるファンタジーです。後半からラブ多めでお送りしてるので、ファンタジーも好きだという方は是非とも一読お願いします!
誤字報告いただきました!
粗忽者なので自分では気がつかなかったのでありがたいです!お礼を書く場所がないので、気が付かれるか不明ですがここに感謝申し上げます!
ありがとうございます(╹◡╹)♡
続々届く誤差報告!
うっかりな作者にしっかり読者様有り難い♡ヽ(´▽`)/
この作品と作者は読者様に支えられております。
誤字報告により作品の完成度がじわじわ高まってます!
読者様との共同作業で作る作品です(?)
ご協力いただきありがとうございます(^з^)-☆
5月30日誤字報告助かってます!
読みやすく色々考えていただいてありがとうございます!