最終話 これからもずっと
「すごーい!見事に黒髪に菫色の瞳ばっかりね」
世界一の冒険者の名をほしいままにしているドルシーは、末っ子のロイを抱っこして顔を覗き込んで楽しそうに笑った。
「まあね。おじいちゃんおばあちゃん達も久々の赤ちゃんにメロメロよ」
アイバン公爵夫妻も、キャンベル夫妻も、いつの間にか孫達の見た目は気にならなくなったらしい。
昔と違って今は髪の色目の色でごちゃごちゃ言う人ほとんどいなくなったものね。
「そうそう。ヴィオラ姫の絵本のお話のお陰もだけど……」
ドルシーはチラッとトリーシャの顔を見る。
「なによ」
「ふふ……トリーシャも有名だものね。国王に目を掛けられている、かのセオドア・アイバンをその麗しい見た目で魅了し惑わしたんだって」
「惑わしたって言い方……」
「いいじゃない。黒髪に憧れて若い子だと染めたりしてる子もいるのよ。金髪より黒髪が良いんだって。うーん、私も染めちゃおうかしら」
「リアム皇太子が悲しむからやめなさい。ドルシーも半年後にはついに年貢の納め時なんでしょ」
「まあねぇ……だって」
ドルシーはいつの間にか眠ってしまった腕の中のロイを優しく見下ろす。
「トリーシャが楽しそうに子育てしてるの見ると私も子供欲しいなーって思ったんだもん。ほら、メイドさん達とロイの事は見ててあげるから、デート早く行ってらっしゃい」
「そうね。お願いね」
部屋を出ると新米の使用人の男が上着と帽子を持っていた。
きっちり髪を撫で付け身なりを整えて清潔感はあるが、使用人の服はまだ着慣れていない様子だ。
「若奥様!これ着ていくっすか……じゃなくて、着ていきますか?」
「ありがとう。帽子の方は要らないわ」
玄関を出ると既にセオドアが待ってくれていた。
「行きましょうか、トリーシャさん」
セオドアは出会った頃と変わらない優しくとろけるような瞳でトリーシャを見つめる。
「ええ……でも、ロイが心配だから本当に短時間だけよ」
「…………残念ですが仕方がないですね。子供達には敵いません」
そう言うセオドアの顔は子供っぽくてトリーシャは思わず笑った。
「わ、凄い美人……」
「今の人の目の色紫だった?凄い!初めて見た!」
「美男美女ね……」
トリーシャは顔を隠して外に出るのは何年も前からやめている。
そして、最近のトレンドのお陰か、ちょっぴり嬉しくも恥ずかしい言葉を歩いていて聞くことになる。
「ほら、トリーシャさん、顔を上げてください」
恥じらい下を向いたトリーシャにセオドアは、優しく声をかける。
「そうね。貴方がいつも私に前を向く勇気をくれた気がするわ」
「それはどうでしょう?トリーシャさんはいつだって強くて魅力的な人でしたよ」
特別な場所に行くわけではない普通のデート。
評判の仲の良い夫婦は、手と手をしっかりと握って共に歩く。
いつもと変わらない優しい光景がそこにあった。
きっとこれからもずっと続くこの国の普通。
「ヴィオレッタ、邪魔したらダメだよ」
「わかってる。おにいさま、ちゃんとおとうさまとおかあさまがどこかにまいごにならないように見ててね。みけもだよ」
「にゃー」
楽しい家族の姿を、道行く人が笑顔で見ていた。今日も良い日になりそうだ。
これで完結です。
ここまで読んで本当にいただきありがとうございました。たくさんの方に応援いただき、ここまで書き切る事ができました。
トリーシャたち家族を幸せな形でエンディングまで連れて行けたのは皆様のお陰です。
今後も様々な作品を執筆していく予定です。今回の作品を書いた経験は今後の糧となると思います。
また、別作品でもお会いできたら嬉しいです。
もし、この作品を面白いなと思っていただけたなら、下の方の⭐︎マークの評価で応援して貰えると、web作家としてとても嬉しく感じます。
たくさんの感想や、毎話のようにある誤字にしっかり報告いただいたのも嬉しく、ありがたかったです。
最後に重ねてお礼申し上げます。
ありがとうございました。
追加 5月26日朝の日間総合ランキング(完結)で57位に載ることができました。皆様のお陰です。応援いただき、本当に何度でも感謝をお伝えしたいです!ありがとうございました!
5月末ですが、週間総合ランキング(完結済)も二桁入りできました!これも全て読者の皆様の応援のお陰です。感無量です!ありがとうございます(((o(*゜▽゜*)o)))♡
5月30日 誤字報告纏めてくださった方ありがとうございます!細かいところまで見ていただけてありがたいです!
2025年8月18日 誤字報告2箇所くださった方、遅くなりましたが確認して適用いたしました。ご本人には届かないかも知れませんがありがとうございました。




