4-13 家に帰ろう
「ここは!?………………!!」
セオドアは眩い光に目が眩んだ。
その後目を開けると、そこは知らない建物の中だった。屋外にいたはずなのに……と混乱しかけた。
その狭い部屋の中には数人の男と……レオにミケ、そして……
「ヴィオレッタ!」
「おとうさま!」
何が起きたのか理解はしていなくとも、腰に下げた剣をすぐに抜き放つ。
ヴィオレッタのそばには人相の悪い、話に聞いていた誘拐犯の特徴を持った男達に、いかにも怪しげなフードの男。
「ヴィー!怪我してる!」
レオも剣を抜く。
妹のために戦う気は十分だった。妹を傷つけた相手を許すつもりはない。セオドアも怒りで顔が
「なるほど……公爵家だけあって移動のマジックアイテムでも持っていたか?せっかくならそちらの小僧も連れて行くとするか」
フードの男は刃が不思議な赤い輝きに包まれたナイフを取り出した。
「おいおい……どうするんだよ」
そう言いつつ禿頭もナイフを抜く。
「ア、アニキィ……諦めましょうよぉ…………」
ヒゲは困った顔をしてヴィオレッタの肩を掴んでセオドアと禿頭を交互に見る。
今まで無事だった事から、すぐに娘が殺されることはなさそうだと判断しつつも、セオドアはどの男から狙うか迷う。
フードの持つ不気味なナイフの光も気になる。
「そちらから来ないなら、こちらから行くぞ……」
フードの男はサッと腕を上げナイフをセオドアに向けた。
セオドアはゾッとする気配を感じて剣を掲げたが、その剣ごと後ろに吹っ飛んだ。
「ぐっ……」
壁に背中を打ちつけた。
壁が広い範囲で凹んでいる。
「父さん!」
「おとうさま!」
レオとヴィオレッタが叫んだ。
「お前もだ!」
フードの男が赤いナイフをレオに向ける。
だが……
思わず目を瞑ったレオの顔に僅かに風を感じただけだった。
「マジックアイテムで魔力を打ち消したか……」
「マジックアイテム……」
レオは母に持たされていたネックレスの石に一瞬目を落とした。
母の顔を思いだし、自然と勇気が湧いてくる。いつだってレオを守り続けてくれた大事な家族。
「行くぞ!」
「くっ……」
レオも剣術は学園で負けるものなしだ。
フードの男はセオドアを壁に叩きつけた謎の力頼りだったのか、その力無しではそこまで強くはない。
だが……
「俺を無視してもらっちゃ困るぞ!」
禿頭が大きく振りかぶる。
「しまった……!」
レオは身を引こうとするが、間に合わない。
「私のことも忘れるな!」
間一髪でセオドアの剣がレオを救った。
レオはフードの男に一気に畳み掛ける。
禿頭の男はそれよりも先にセオドアに叩き伏せられて床に伸びる。
レオの剣が男の太ももをざっくりと切った。
「こうなっては……せめて小娘だけでも始末して……」
フードはまたしても懐から何か黒い石を取り出した。
それを静かに体を縮こめたヴィオレッタに向けて投げつけ……
「ヴィオレッタ!」
「ヴィー!」
レオがヴィオレッタを床に押し倒して覆い被さる。その上からセオドアが!
そして、
「え……?よくわかんねぇけどオレも!」
ヴィオレッタの近くにいたヒゲもセオドアに覆い被さった。
耳をつんざく爆発音が響く。
キーンと耳鳴りがして、レオは顔を顰める。
「ヴィー、無事?」
近い位置での爆発のせいか耳の聞こえがまだおかしいが、レオは妹の無事を確かめる。
おでこの傷の血が黒く固まって来ているが、痛々しい。
「ヴィオレッタ、レオ……」
セオドアは周囲を確かめてから子供達の身体に他に怪我が無いことを確かめる。
フードの男は血の跡を床に残しつつ姿を消していた。後で捜索の手を伸ばさなくては……。
「お父さんは無事……?」
「ああ……お陰様でな」
ヒゲは背中の大部分を焦がしていたが、息はあった。助かるかどうかは分からない。
「こいつはヴィオレッタの命までは取るつもりはなかったという事か……?」
ヴィオレッタにまずは妻お手製の薬をたっぷり塗ったあと、一応の命の恩人のようなのでヒゲの男の背中にも薬を垂らしてやった。
「さ、家に帰ろう。お母さんが待っている」
セオドアは子供達を思いっきり抱きしめた。
♢♢♢♢♢
「はぁ……はぁ……」
ひと気のない路地裏を男が息を切らしながら足を引きずり歩いている。
ずり落ちかけたフードの下の顔は痛みに歪んで、脂汗がゆっくりと顎から垂れ落ちていた。
そんな男の背に鈴を鳴らすような美しい声が掛けられた。
「こんばんは。いい夜ね」
それとともに、荒い息遣いが聞こえる。
男はその息遣いに飢えた野犬を連想したが、振り向いた先にいたのは犬よりもずっと大きな猫科の猛獣だった。
子供向けの物語でも恐れられるそのケモノの名前は……
「グレートパンサーが何故街中に!?」
「グレープちゃんは良い子だから特別よ」
答えにもなっていない言葉で答えたのは金髪の女だった。
グレートパンサーの頭をしなやかな手がゆるりと撫でる。
少女めいた愛らしさと神秘的な美しさは暗がりにも一瞬男の心を奪ったほどだ。
だが、闇夜に光るグレートパンサーの金の瞳が男を捕らえた。
「私の親友の子たちに随分な真似してくれたよね?」
女の声には怒りはなかった。ただ、澄んで美しいだけの声だ。
闇から顕現するように女がゆっくりと歩いて、その姿を男に見せつける。
女王に従うようにグレートパンサーも一緒に歩く。
男は女の美しさに魅入られたように動けない。
血を失い過ぎて頭が朦朧としていたのかも知れない。
近づいて来た女の瞳が、グレートパンサーとおんなじ金色である事に男が気がついた時、
「グレープちゃん、噛んで」
尖った牙。それが男が意識を失う前に最後に見たものだった。
⭐︎あとがきスペシャル短編⭐︎
ヴィオレッタの手のひらに付いた血が菫色の宝石に触れた――その瞬間!
――世界の時間が停止した。
そして、ヴィオレッタは窓から外に体が急に投げ出された!
「えっ!なにがおきているの!?」
戸惑うヴィオレッタ。
気がつけば夜空に体が浮かんでいた。
灯りのついた街並みはまるで夜空が地面に映し出されたようだ。
「きれい……」
そして、本物の夜空を見上げると大きな月が輝いている……。
その輝きに魅入っていると、月の中に黒い影が見えた。
「あれはなに?ちかづいてくる」
気がつけば影はあっという間に大きくなった。
そして、ヴィオレッタの目の前にそれは静止する。
空中で対峙するヴィオレッタと、巨大な人型のモノ。
ヴィオレッタはそれをただ見上げる。
それは金属で出来ているようだった。
三角屋根の教会よりもきっと大きい。全体は鎧のようだが、角ばったパーツが組み合わされている。
全く見た目は違うのに母のお店で見たことがあるネコ配膳ロボットを何故か思い出した。
それは、その頭部に三角形の猫の耳のような突起があったからかも知れない。
――搭乗してください
ヴィオレッタの頭の中で声が響いた。
「のってもいいってこと?」
ヴィオレッタの問いかけに答えるように、金属の巨人の胸のプレートが開いた。
ヴィオレッタの意識がそこに向かうと、自然と宙に浮かぶヴィオレッタは水中の流れに乗ったように空をスーッと移動した。
「わぁ……すごい」
ヴィオレッタは頭の痛みもいつのまにか忘れていた。
そして、椅子のようなところに座る。
大きさはまだ五歳のヴィオレッタにピッタリ。専用であつらえたみたいだ。
座ると、不思議と何をすべきかヴィオレッタの頭に思い浮かぶ。
目の前の操作ハンドルを握り、心のままにその言葉を口にした――
「ヴィオレッタ、いきます!」
鉄の巨人……古代魔法文明の遺産たるロボットの二つの瞳に紫色の光が宿った!
かくして巨大ロボによる世界改革が始まったのだ……!
これを止められるのは、同じく古代文明の血と操作顕現者の証たる宝玉を持つ兄のみ……。
『紫宝のヴィオレッタ / 鉄巨人の覚醒』
*この話は続きません。
こちら没案です。
本編にはなんの関わりもありません。
この作品(あとがきロボ短編じゃなくて本編の方です!)は一度エタりかけていたのですが、私の師匠にあたる人が続きを書くことを勧めてくれたお陰でなんとか完結に向けてまた筆を取る事ができました。
その後も多くの人の支援、読者さん達の応援でモチベーションを保てて、完結まであとほんの少しです!
本当にありがとうございます!
この後書き謎短編はロボ好きな師匠リスペクトな作品です。
師匠の作品はエッチな雰囲気に見せかけて、実は真面目で熱いロボバトルのものです。
私のこの短編?よりずっとしっかりロボもななので、お好きな人はちょっと見てみてください。
最初の方はギャグくらいなノリで読むといい感じだと思います。王様がとぼけた感じで私の推しです。
異世界召喚されたロボゲーランカーの俺、ロボに変身する美少女を愛機に努力して最強へ至ってしまう【竜の姫に俺は乗る!!!】
三丈 夕六
https://kakuyomu.jp/works/16818622173728811459
師匠のなろうの方の代表作はこちら、現代ダンジョンもので、読み進めるほどに構成力の高さに舌を巻く作品です。
【461さんバズり録】〜ダンジョンオタクの無能力者、攻略ガチ勢すぎて配信者達に格の違いを見せ付けてしまうw〜
https://ncode.syosetu.com/n7721iz/
次のエピソードで完結となります。
後少しだけお付き合いくださると嬉しいです!




