4-6 両親来訪
「久しぶりね、トリーシャ。体調はどうかしら」
瞳の色以外はトリーシャとよく似た母が微笑む。
滞在了承の手紙を送り返してから10日余り、大荷物と共に両親はやってきた。
「うん。お母様お久しぶりです。つわりも治ったし、今のところ順調だとお医者様もおっしゃっていたわ」
「ちゃんと夫の言うことに従うんだぞ、あと、アイバン公爵家のご意向をよく聞いてだな……」
父は相変わらずだった。
アイバンとキャンベルで家の格がかなり違うので気苦労があるのは分かるが、オドオドし過ぎな気もする。
「それで婿殿は……?」
母親がそっと小声で聞きつつ、周りを見回す。
「急な仕事で数日は戻れないの。代わりにお母様達には謝って欲しいと言われたわ」
「あら、そうなのね」
母親は安心したように表情を緩めた。
「それでレオは?」
父もどこか安心したような顔をしている。娘婿相手にも気を使うらしい。
キョロキョロと家の中を見回している。
「今日は平日よ?レオは今頃学園で勉強してるわ」
「そうか、そうだったな。はぁ、ちと疲れたな」
と言いつつソファにどっかりと腰を下ろす。
若くもない父に馬車での移動はなかなか大変だったのだろう。
メイドの淹れたお茶をぐいっと一気飲みした。
すぐに注がれた分もグビグビと飲んでいる。
「あら、この花瓶のお花……」
母も娘以外は使用人しかいないのに気を許して、部屋の中を歩いてあちこち眺めている。
「あんまり花と色が合わないんじゃないかしら。もう少し明るい色の花の方が良いんじゃない?部屋が暗く見えるわ」
「…………それはセオドア様が選んでくれたものなの」
「あら……じゃあ仕方がないわね」
母はそう言うと興味を無くしたのか、紫の花弁から手を離した。
「にゃー……」
来客に別室で大人しくしていた猫達だったが、好奇心の強いミケがドアの隙間からひょこっと顔を覗かせた。
「あら、まだ飼っていたのね?どうするつもり?」
母が涼やかな青い瞳を顰めた。
「え?」
「あら、知らないの?」
母はハァ……とため息をついた。
出来の悪い方の娘にお小言を言う時のいつもの癖だ。
「妊婦に猫は良くないの。生まれてくる子に何かあっては向こうの家に申し訳ないでしょう。それに、生まれてきた赤ん坊を引っ掻いたらどうするの?」
「そんな……大丈夫よ」
「猫は胎児に嫉妬して不吉をもたらすって昔から言うでしょう」
そんな話は聞いたことが無い……おそらくこの世界の年寄り間での言い伝えか何かだろう。が、何を言いたいのかはわかる。
妊娠した後に猫を飼うのは、日本でも確かに良くないとされている。
猫はトキソプラズマという感染症を人にもたらす事があるが、殆どが無症状で問題がない。
問題となるのは妊娠してから初めて感染する場合だが……妊娠以前から飼っている場合は抗体が出来ている可能性が高いのでリスクは少ないはず。
「平気よ。お医者様だって猫を飼っているのは知っているのよ」
「何かあってからでは遅いのよ?別に殺せって言ってるんじゃないの。そこら辺でノラで生きていって貰えばいいじゃない」
母のあんまりな言い草にトリーシャはカチンときた。
「命をこれから生み出そうという時に、猫達の命を粗末に扱うことなんて出来ないわ!!」
大きな声を出したからか、ミケは驚いて頭を引っ込めて去っていった。
ソファから父も慌てて立ち上がって母のそばに寄り添う。
「トリーシャ、母さんはお前を心配して言ってるんだぞ」
「だとしても……!」
「母さん、婿殿がもしかすると猫好きなのかも知れんぞ。医者が良いと言ってるなら良いだろう」
「でも……」
「猫を捨てさせて婿殿の不興を買って離縁でもする事になってみろ。孫もきっとどちらもアッチの家に取られちまう」
「そうね……」
「……………………」
父も母を取りなしてくれたとはいえ、アイバン家やセオドアの方ばかり考えているようだ。
トリーシャは両親のやり取りに疲れてしまった。
「…………少し体調が悪いから部屋で休んでくるわね。お父様もお母様も好きに過ごしていてください」
これが何日も続くと思うと頭が痛くなりそうだった。
読んでいただきありがとうございます!
少し投稿遅くなりましたが、これからも毎日投稿できるよう頑張ります。




