4-1 トリーシャの異変
「風邪かしら?」
何となく熱っぽい気がする。
「大変です!早く休んでください」
「お母さん大丈夫?」
「って言っても全然平熱よ」
と言いつつも、体調の変化は感じているので素直に横になることにした。
食べやすいサンドイッチがベッドの脇に運ばれてきたけれど、申し訳なく思いつつも食べる気にはなれなかった。
「何なら食べれそうですか?」
セオドアの眉が垂れて、心配そうな顔を作る。本当にわんこ系だ。
「うーん……何かさっぱりとしたものが良いわね。そうね……柑橘類が食べたいかも」
「わかりました!国中の柑橘類を……いえ、足りない様なら他国から船で運ばせてでも貴女に捧げます」
「食べ切れないって。それに海を超えている間にカビちゃうでしょ」
この世界では果物への農薬散布なんてしていなさそうだし、カビだらけになりそう……という偏見がある。
それに、国中のだけでもとても食べきれないに違いない。
いや、だけって言うのもきっと可笑しなくらいの数があるわよね。街中のだけでも流石に一人じゃ無理なんだからやめていただきたい。
セオドアは愛情をたっぷりの質量で表そうとするところがある。
もっとささやかなのでも良いのに。
「貴方がささやかな幸せを尊ぶ人なのはよく知っています!しかし、私はこの世の全てを捧げたいんです――私の命すらも……!」
「ん〜〜重い!!というか私の考えていた事を思考盗聴した!?私口には出して言ってないわよね!?」
「ふふふ……トリーシャさんの考えそうな事は顔を見ればわかる様になって来たんですよ。夫婦ですからね」
セオドアは優しく微笑んだ。
「そ、そうなのね」
トリーシャはその真っ直ぐな瞳に気まずさを覚えて顔を逸らした。
トリーシャはセオドアの顔を見たって、まっっったく!な、に、ひ、と、つ!!思考を読み取る事は出来ない。
夫婦なら当然出来るとか言われちゃうと非常に困る。
愛情の偏りは少し感じてるけど、わ、私だってセオドアの事は……
思考盗聴を防ぐためにトリーシャは更に顔をギギギっと可動域限界まで逸らした。
夫婦と言っても長年連れ添ったってわけじゃないでしょうに。まだ出会ってからだって一年ちょっとよ。
あれかも。そういう隠れた設定が原作にあるのかも。
トリーシャはこの世界の原作小説に想いを馳せた。猫が異様に賢く、他者の思考を読み取れる人が出てくる世界。
……いや、やっぱりそんな話じゃなかったわよ!もっと真面目で涙を誘う感じじゃなかった!?続編とかでこんな感じになっちゃうの?ファンの人達がそれを許さないんじゃないの!?
トリーシャは首が疲れて来たし、思考がわやくちゃしてきて、これなら読み取り不可能だろうと正面に向き直る。
と、ヒヤッとした感触。
セオドアがオデコに手を当てていた。
「うーん……少しだけ暖かい気がします」
「やっぱり風邪かも。でも、仕事休む程じゃないから」
「……無理はしないでください。調子が戻らない様なら医師を呼びますから」
そして、トリーシャの具合は急変はせずとも、不調は何日も続いた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
最終章です。なんとかハッピーエンドを目指しますので、後少しだけ応援よろしくお願いします。
6月10日 誤字報告ありがとうございます!!助かってます!!!
最近Twitterでドット絵を描き描きするのにハマってます。良ければ見にきてね!




