第5話 借金回避
「だーかーらー!ダメです!
その国とは気候の条件が合わないですし、海が荒れる時期に船で運ぶなんてダメです!」
トリーシャは両親の説得をしている。
莫大な借金を残されては困るので、先ずは失敗確定の事業をやめさせる。
海を隔てた向こうで流行っている革製品の服飾関係の素材を仕入れようとしているが、船で運ぶ最中に劣化するわ、カビは生えるわ、荒れた海で船は沈没するわで散々な目に遭うのだ。
「いやぁ……でもせっかく協力頂いてるのになぁ。
今更やめるのも悪いし。
アイバン公爵家に申し訳が立たないから、多少損をしても……」
何故か出てきた公爵家の名前にトリーシャの眉がキリキリと吊り上がる。
「公爵家に何か関係あるんですか!?」
「いやぁ……アイバン公爵家の親戚筋の……ほら、若者いただろう?サーシャの葬儀の際に。
あの人が是非やらないかと。特別に口利きしてくれると言うから……」
父親が脂汗をかきながら弁明する。
「わかりました!セオドア様に話を聞きに行きますから!」
そして、自室で仕事をしているセオドアを訪ねる。
「セオドア様!貴方の親戚がうちの家に斡旋した事業ですけど、うちが損しそうなのでやめさせてください!」
「わかりました。やめさせます」
「……半ば予測してましたけど、あっさり認めるんですね」
「トリーシャさんに嫌われたくありませんから」
シレッと言うなぁ。
トリーシャは、直接的な好意を感じる言葉に少し顔が熱くなる。
この人実は私のこと本気で好きなわけ?
悪役トリーシャの卑屈な精神が、素直に好意を受け入れるのを許さない。
それに、もともと恋愛とか不得手だったし……。
とりあえずこの件は放置!
生き残らせる事を考えないと。
後は……両親の病死よね。
流行病……何か対策を考えないと。
♢♢♢♢♢
某所
「なんで今更事業から手を引くんだ!!お陰でこっちがどれくらい損を被ると思って……」
若い男がイライラと何をするでもなく彷徨きまわる。
「何としてでも……公爵家を手に入れてやる!」