3-28 やはり猫。猫が全てを解決する。
猫型配膳ロボの活躍もあり回転率は上がって、トリーシャのレジの仕事はますます忙しくなる。
猫ロボは三体いて、上手いこと客や椅子、他のロボやメイドさん達を避けながら淡々と仕事をする。
……なんて高性能!
待たせているお客さん達を猫達が外まで出向いて暇つぶしに協力してくれるのもあって、どうにかトラブルなく進んでいる。
…………この世界の一番の謎は猫達の賢さよね。なんでこんなに役割をしっかり認識して活動できるの?小学生くらいの知能は軽くありそう。
それを誰もおかしいと思わないのも、ある意味ファンタジーかしら。
お客さんが少なくなってきたので、裏に引っ込んでトリーシャは一息ついた。
「ミケは一番人気ね。引っ張りだこじゃないの……あら?姉猫達の姿がないわね」
賢い猫達の中でもとりわけ賢いタマシロクロのことだ。外の客への対応をしてくれているのかも。
のんびりと店内の賑わいを聞きつつ、休んでいると、
「なんだと!俺は貴族だぞ!」
初日にして初のトラブル発生。
トリーシャはため息をつきつつ立ち上がった。
「何事かしら」
メアリーがそっと近づいてきた。
「まだ若いアルバイトの女の子のお尻を触ったんです。その上で怒ったアルバイトの子に対して暴力を振るおうとしたので…………」
店長が間に入っているが、彼女も平民。そしてまだ若いので30は軽く過ぎているだろう自称貴族を相手には厳しかろう。
男は立ち上がって店長に詰め寄りながらテーブルをバシバシと叩いている。
その尋常でない様子にスタッフだけでなくお客さん達も、猫達もすっかり怯えていた。
ミケだけは毛を逆立たせて戦う意志を見せているが、一匹では無謀なことをしない賢い子だ。
トリーシャが近づく。
「お客様、何事でしょうか」
「なんだお前!」
トリーシャを睨みつけてきて、一瞬ギョッとした顔をする。
ああ……髪と目の色ね、と納得する。
「私がこの店のオーナーで……」
「近づくな!気持ちが悪い!」
男は喚きながらトリーシャの肩をドンと強く押した。
身分を明かす暇もなかった。
「きゃっ!」
後ろによろけたトリーシャを支えたのは……
「……猫ロボ?」
しかし、何故か猫型配膳ロボが怒っている気がした。くり抜かれた目の穴の奥がギラリと光った気がする。
トリーシャは殺意を撒き散らすロボからそっと離れる。
ロボがズズっと動いた先には貴族の男。
「なんだ……?」
ロボが急に速度を上げた。
「いてぇ!」
ガン!ガン!ガン!
ロボが男に何度も体当たりをし始める。
「なんのつもり……なんなんだこのカラクリは!」
男が顔を顰めている。
その背後から、ゆっくりと近づく小柄な影……
いや、それはもう一体の猫型ロボだった。
そのロボは熱々のお茶をお盆に乗せて……
ドンッ!
「あちぃ!!」
男の背中に思いっきりぶつかった。
ロボもずぶ濡れだがもちろんノーダメージ。
猫ロボ達は怒りのオーラを撒き散らし、二体で……いや、いつの間にか増えて三体全員で男を取り囲んで体当たりを繰り返していた。
「この!」
怒った男が思いっきり猫ロボを押し倒した。
ガンッと重い音を立てて猫ロボは倒れてしまった。その下の空間、内部の暗がりにギラリと二つ光が見えた。
次の瞬間、
「ぎゃー!!」
男の顔に三本ラインが入る。
猫ロボから飛び出したのはクロだった。
「一体どういうこと……」
呆然としていると、キィという音を立てて他の猫ロボの背中からタマとシロも出てきた。
そう、猫ロボの動力源、そして制御中枢は猫達だったのだ。
…………いや、どういう事だ。
猫ロボの空のボディで男を取り囲んで逃げ辛くした上で、機動力を活かして三匹は好き放題に男を引っ掻きまくる。
流石に可哀想に思った頃に、外から騒がしく入ってきたのは、
「ここが騒ぎの現場……あ!お前は!」
「あ……あら、久しぶりね」
トリーシャを指さしてパクパクと口を金魚の様に開け閉めしているのは、いつかの騒動でお世話になった?街の警備隊員だった。
「またお前が騒ぎを起こしたのか!?」
「お待ちください!」
詰め寄ろうとする警備隊員を止めたのは店長だ。
「このお方はアイバン公爵家のトリーシャ様ですよ!無礼な行いはおやめなさい!」
「え……公爵家?本当に?」
「アイバン公爵家だと…………!?」
警備隊員だけじゃなく、猫達から顔を庇って身を屈めている貴族の男も呆然と呟いた。
「えへへ……そうでーす」
自分で名乗るつもりが……と思いつつ、トリーシャは照れて笑いながら頬を掻いた。
その後はすぐに騒動は収まった。
貴族の男は、男爵家の三男だったらしく、親には言わないでくれ、なんとか許してくれと土下座でもする勢いで謝られた。
警備隊員も青ざめていた。以前のことも含めて、平民としてかなりのやらかしである。
「あー、それはもういいわよ」
トリーシャがそう言うと泣いて感謝し始めた。トリーシャは前世の記憶もあるので平民意識が抜けないが、本来ならば一発で重罪になり、下手すると家族の方まで累が及ぶ案件だ。
「謝罪よりも早くお店を再開したいからサッサと帰ってくれると嬉しいわ」
そう言うと、二人はペコペコしながら店を後にした。
そして、トリーシャは店長に耳打ちする。
「怖い思いさせてご迷惑かけちゃったし、今店内にいるお客様達は全員無料で良いわ。サービスしてあげて」
「そうですね。精一杯楽しい思い出と一緒にお帰りいただかないと」
店長はニコッと笑った。
初日はトラブルに見舞われたが、なんとか大盛況で終えることが出来た。
猫を飼えない人でも可愛さを思う存分味わえ、可愛いメイドさんに給仕されて、お嬢様、おぼっちゃま気分になれるだけでなく、強くて愛らしいロボまでいると言うことでその後もカフェはますます人気になっていった。
2号店も出来て、謝罪のつもりか警備隊員達も出入りしている。
猫カフェ、猫耳メイドの概念は広く受け入れられて、系列店以外も増えていった。
「うーん……他にも現代知識無双出来そうなのないかしら……」
トリーシャは次の知識無双を夢見て頭を悩ませるのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
毎日8時台に更新していましたが、朝用事があってバタバタして遅くなりました!
待っててくれた方には申し訳なかったです。
次から最終章になります。
勢いこのままで突っ走ろうと思うので、よろしくお付き合いくださいヾ(๑╹◡╹)ノ"




