第3-18 怪しい老婆
「お嬢さん……ちょっと話を聞かせてもらえんか?」
トリーシャが黒いローブを着た老婆に呼び止められたのは、ある休日の夕暮れ時。
学園で使うものの買い出しを自ら申し出て、市場へと足を運んでいた、その帰りのこと。
もちろんアイバン公爵家ともなれば、執事に言えば何だって手に入る。
だけれど、平民達の市場の様子が間近に迫った学校行事の参考になりそうだからと態々足を運んだのだった。
学校での仕事をある程度こなしてからだったのですっかり遅くなり、空は茜色に染まりつつある。
遅くなったから急いで帰ろうと思ったところで声を掛けられたのだ。
「えっと……何ですか?」
もしや何か困り事かと思い足を止める。
前世の頃から知らない土地でも歩いているとよく呼び止められて道を聞かれる事はよくあった。
生来のお人好しな面からちょっとした頼み事ならホイホイと受けてしまう。
今は目元を隠して地味な格好をしているとはいえ、貴族としては少し……いや、だいぶ不用心である。
「あんた……不思議な運命の持ち主だね」
「え…………?」
「ちょっと目を見せてご覧」
老婆はそう言うとトリーシャの帽子のつばを勝手に持ち上げて、菫色の瞳をジッと見つめた。
「やっぱりね。あんたは奇妙な運命の狭間にいる存在なんだ……」
トリーシャはドキリとした。
……前世持ちなのがバレた!?いや、変なこと言ってるだけ!?
「今日はもう遅い……あたしはいつだってこの近くにいるからまた来なさい。でないと……」
「でないと……?」
「あんたとその周りに災いが訪れる……かも知れない」
老婆はそう言うと、背を向けて路地裏に消えていった。
「一体何なの……」
忘れよう、単なるボケたお婆ちゃんかも知れないし……。
そう思って過ごす。
タマにオヤツを二度あげちゃったり、夜中にクロの尻尾を間違って踏んじゃったり、気がついたら二時間シロをぼんやり撫で続けてミケが拗ねたりしたが、いつも通りに過ごしていた。
「……お母さん悩み事?」
「えぇ! 何のことかしら!? おほほほほほほ」
「絶対おかしい……なんか目が泳ぎ過ぎて変だよ」
「こら、お前のお母さんはどんな状態でも可愛いから変でも良いんだ! でも、何か不安があるなら言ってくださいね」
レオとセオドアにも心配をかけてしまった。
このままでは良くない。
「平気です。ちょっと仕事で気に掛かることがありまして……」
老婆に会いに行こう。そう決めた。
いつも読んでいただきありがとうございます!
昔ストーリーランドなるテレビ番組があって好きだったんですけど、この話をすると年代がバレそうです……。
そんな訳でストーリーランドでもお馴染みの怪しい老婆を出しました。
何とか楽しい話にしようと思っているので、どうぞ今後もお付き合いください。




