第3-16 見つけた!冒険者ギルド
クロが御者に指示を出し、トリーシャと他の猫たちは揃って馬車に揺られる。
どこへ連れて行かれるのか、少し不安ではあるものの、クロの賢さを信じることにする。
……でも、前世だったら猫の言うことなんて、さすがに信じなかったわよね。
やっぱりここは物語の中の世界。不思議なことが起きてもおかしくないのかもしれない。
馬車を降り、落ち着きなく小走りするクロを、トリーシャも少し急ぎ足で追いかける。
クロはときおり立ち止まっては振り向き、尻尾をフリフリと振って催促するようにまた走り出す。
トリーシャは、何とか貴族としての優雅さを保ちながらも、それに着いていく。
スカートをわずかにたくし上げ、猫を連れて歩く姿に、通りすがりの人々が不思議そうな視線を向けてくる。
「ここって……冒険者ギルド? ……冒険者?」
前世でも創作物でよく見かけた場所。その名はこの世界でも耳にしていたが、まさか自分が足を踏み入れることになるとは思わなかった。
この世界には『魔物』と呼ばれる凶暴な生き物が存在する。
ただ、トリーシャの暮らす場所には現れず、人里に来る前に冒険者たちが退治してくれているらしい。
冒険者や魔物の話を初めて聞いたときには「ファンタジーだ!」とワクワクしたものの、ギルドは貴族の令嬢が来るような場所ではない。
ここは、成り上がりを夢見る平民や行き場のない移民たちが集う場所。
そのため、粗暴な人間も多いと聞く。
護衛も付けずに来てしまったことを少し後悔しながらも、クロはもうギルドの中へ入ってしまっていた。
外からでも大声が聞こえるほど、騒がしい様子。
タマとシロもクロに続いて、トリーシャの足元をすり抜け中へ入っていく。
気弱で優しいミケだけが、トリーシャを見上げて待っていてくれた。
気は進まないが、ここで立ち止まっても仕方ない。
トリーシャは一つため息を吐き、覚悟を決めてドアを開けた。
――そこは、まるでお祭りのような大騒ぎだった。
「めでたい! このギルドから英雄が出たぞ!」
「俺にも見せてくれ! ドラゴンの頭なんて、二度と見られないぞ!」
「こりゃ国から表彰もんだな! 爵位だって夢じゃねえ!」
生臭い血の匂いに、トリーシャは思わず「うっ……」と息を詰める。
猫たちも、入り口付近で喧騒の中心から距離をとっていた。
人垣の合間から見えたのは、両腕でも抱えきれないほど巨大な赤いドラゴンの頭部――角もある。
その近くで、周囲の喝采に囲まれているのは、金髪金眼の絶世の美少女と、それに並ぶ美貌の銀髪の少年。
「ド、ドルシー!?」
しかもドルシーは、ライオンや虎並みに大きな猫のような生物に跨っていた。
見た目はヒョウだが、尻尾が二本……魔物だろうか。
「……っていうか、野生動物でも魔物でも、なんで建物の中に普通にいるの!? しかも乗ってるし! 誰も退治しないの!?」
トリーシャの心の叫びに、ドルシーがこちらに気づき、明るく声を上げた。
「あ、トリーシャ! 私のこと心配で探しに来ちゃったの?」
「そ、そりゃあ……」
騒がしい男たちの筋肉の谷間で、若い貴族の娘同士が会話する。不思議な光景だ。
ドルシーの格好をよく見れば、村娘風の服の上から革の鎧を纏い、髪はポニーテールでまとめられている。
多少コスプレめいているが、彼女の美貌がすべての違和感を補っていた。
二人が知り合いらしいと察した筋骨隆々の冒険者たちが道を開けてくれる。
トリーシャはおずおずとその間を通ってドルシーのそばへ寄った。
……匂いが近づくほど、血の匂いがキツい。それに、あの大きな猫科の『ナニカ』が怖い。
――うわっ、大きな口! ……あくびだった。
他の冒険者たちの話から察するに、あの大きなトカゲのようなものがドラゴンの頭……?
って、原作こんな話だったっけ? もっと普通の恋愛物語じゃなかった?
……いや、今は混乱している場合じゃない。ちゃんと話を聞かないと。
「ドルシー……何をしてるの? その、お尻の下の大きな猫ちゃん?は何? あと、その方は?」
どこから聞けばいいか分からず、とりあえず浮かんだ疑問をすべて口にする。
ドルシーは、月下美人も色褪せそうな満面の笑顔を見せた。
「私ね、リムと一緒に世界一の冒険者になることにしたの!
あ、この子はグレートパンサー。私に懐いたからペットにしようと思ってるの。名前はまだつけてないけど!」
「リム……さん?」
トリーシャは、銀髪に菫色の瞳を持つ少年と目を合わせた。
軽装の鎧に身を包み、動きやすそうな冒険者の服装。場所を考えれば何もおかしくはない。
……でも、小綺麗な顔立ちにちらちらとこちらを伺う視線、妙に静かな様子。怪しい。
トリーシャとリムの菫色の瞳が、静かに交錯する。
じーーーっ……
今日中にあと一話いけそう!
頑張ります!
いつも読んでいただきありがとうございます!




