第3-15 憂うトリーシャ
「まだ見つからないのかしら……」
ドルシーが逃げ出してから一夜明けても、居場所は依然として杳として知れない。
トリーシャは仕事どころではなくなり、しばらく休暇をもらっている。
もともと無理やりねじ込まれた人員だったので、職場には人手の余裕がある。
簡単に休みをもらえたのは助かったが、やっぱり少し申し訳ない。
「はぁ……こうして待っていれば、ドルシーも戻ってくるかもしれないものね」
セオドアは昨晩からリアム皇太子の行方を追っている。
ドルシーのことも気がかりだが、どうしても優先されるのは――大国の次期皇帝だ。
ちなみに、まだ十三歳の皇太子が姿を消したことは、ごく限られた者しか知らないらしい。
誘拐の可能性は低く、本人の意思での単独行動の線が濃厚だという。
本国でも相当に奔放な性格で、周囲を手を焼かせているらしい――と、セオドアがこっそり教えてくれた。
とはいえ、そんな高貴な身分の少年が一人で行動しているとなれば、悪巧みを企む者が現れるのも時間の問題だろう。
だからこそ、これは極秘中の極秘なのだ。
「そんな秘密、なんで私にまで教えちゃうのよぉ……」
気が重い。
ただでさえドルシーのことで頭がいっぱいなのに。
セオドアは、トリーシャが秘密を漏らすとは微塵も疑っていないらしい。
その信頼が嬉しい気持ちは一割、やっぱり気が重いのが九割。
「うえーん……」
胃がキリキリしてきたが、この世界の胃薬は苦くて不味いから我慢するしかない。
元の世界が恋しいよぅ。
トリーシャが友人である、目立ってしょうがない美少女のことを心配している一方で、周囲はさほど気にしていない。
「たくましいですから」とセオドアが言っていたのに、思わず頷きそうになったが、それでも心配は尽きない。
そもそもドルシーが婚約を嫌がり、家族の言うことすら一切聞かずに逃げ回っていたのは周知の事実。
「どうせ知り合いの家にでも匿われてるんだろ」とは、ルシオの談。
あまり心配されていないのは――彼女らしいと言えば彼女らしい。
ため息をつきつつ、トリーシャはタマたちがミケの毛づくろいをしているのを眺める……と、
「そういえば、クロはどこにいるのかしら……?」
姿が見えない。
猫たちがたまに外に出るのはよくあるが、朝にはたいてい戻ってきているのに。
「ねえ、タマ。クロの居場所、知らない?」
猫のことは猫に聞くのがいちばん。
けれど、タマもシロもミケも、そろって首と尻尾を横に振った。
「……ドルシーを探しに行ったのかしら」
そんな風に猫たちと話していると、ふいに蝶番の軋む小さな音が聞こえた。
振り向くと、そこにはちょうど話題にしていた黒い影。
「クロ!」
いつもは闇よりも黒い毛並みが、少し汚れてゴミもついている。
心なしか疲れているようにも見える――猫四天王の調整役が、じっとトリーシャを見つめていた。
いつも読みに来ていただきありがとうございます。
書き溜めは全然無いけど、主人公が少ない話を引き伸ばしたくないので、本日中に可能ならばもう一話アップしたいと思います。
頑張ります!!




