第3-9 劇の終わり
トリーシャに話しかけてきた女性は、なんと子供達の劇の原作者だった。
「そう言えば……上級生の親だって聞いていたわね」
「はい!どんな風に子供達が演じるのか気になって見に来てみたら凄く面白い事になってて……」
その手には誰から手に入れたのか、ボーマン家制作の絵本があった。
「ロザリー様の演技も凄く良かったですし、この絵本も装丁も綺麗で内容も小さな子供にも分かりやすく良く纏っていて……」
自分の作品が好き放題にされているのに特に怒っていない様だ。
器が大きいと言うか……大らかというか……。
「それで、原作者としてはどちらを主役に据えるんです?」
嬉しそうに語る原作者さんの話を、セオドアが遮る。
「それは……経緯はどうあれ子供達の意思を尊重したいと思います。
でも、少しだけワガママを通してもらいたくて……」
テヘ……と小首を傾げておねだりポーズをする。
「ワガママ……というと?」
トリーシャは面倒じゃなきゃ良いなと思いながら問い返す。
「劇に関するワガママなら教師の方にも聞いてもらいましょう」
セオドアが教員を呼び寄せた。
結果、主役はそのままアリアンナになった。
しかし、途中で出てくるチョイ役だった妖精の出番を1000パーセントアップし、ロザリーを配役する事に。
原作の方でも妖精の話のスピンオフを執筆すると意気込んでいた。
幸い妖精の容姿については言及していなかったので、金髪クルクルにして気の強い性格にするつもりだそうだ。
人気作品のスピンオフの主役のモデルとなる事が決まって鼻高々のロザリーは、劇での主役はすんなり諦めた。
妖精の出番も結構多いから納得しているのだろう。
スチュワート夫人も面目を保てたようで、その後機嫌良く挨拶に来てくれた。
アリアンナは特に今まで通りに、レオの側にいる。
アリアンナの母親のボーマン夫人は穏やかそうに見えて策士のようなので、トリーシャは今後会うときには、少し緊張してしまいそうだ。
そして、本番。
講堂には多くの貴族が詰め掛けた。
レオとロザリー、アリアンナの熱演で中々良い劇だった。
他の子はセリフが飛んで泣き出したり、親を見つけて手を振ったり、つっかえつっかえで棒読みだったりしたのも可愛くて良かった。
「あーあ……スチュワート家のお嬢ちゃんが選ばれると思ったのになー」
ルシオがガックリと項垂れている。
「ふふん……調査が甘いのよ!」
ドルシーはアリアンナの勝利を予測し、しっかりと賭けに勝ったようだ。
調査とは一体?
……と言うか兄妹共賭け事やってたんかい!
「クソ妹め〜……お?あそこに愛しのお前の王子様がいるんじゃ?」
「え!?何処どこ!?ヤダ!トリーシャ、また会いにくるわね!レオにもよろしく!」
ドルシーはバタバタと誰かから逃げて行った。
「ククク……騙されおって愚かな!」
ルシオが意地悪な悪どい表情を浮かべている。ドルシーが嫌いな人がいると嘘をついたらしい。
この兄妹はいつも一緒に行動する割に、お互い嫌がらせをし合っている。
仲が良いんだか、悪いんだか。
劇が終わって、セオドアと一緒にレオを迎えに行く。
「お母さん!お父さん!どうだった?」
「ふふ……カッコよかったわよ、王子様」
「もう少し緩急つけた動きを心がけた方が良い」
「こら!セオドア様!自分だって演技とか出来ないくせに!」
「いや……でも…………」
「うん!次やる時はもっと頑張るよ!」
レオはやっぱり良い子!
トリーシャはレオをぎゅーっと抱きしめた。
そして、手を繋いで今日は家の方にみんなで帰る。
「あの……トリーシャさん…………私まだ手を繋いで無いです…………」
頑張ったレオ相手に謎の上から目線の偉そうなセオドアなんて知りません!
「今日はご馳走よ!」
「本当!?楽しみ!」
「あの……トリーシャさん」
トリーシャがチラッと振り向くと、セオドアはパアッと顔を明るくした。
「あっかんべー!」
「ええ!?」
舌を出して歩みを早める。
「よーし、早く帰りましょ!」
「うん!」
「待ってください!!」
セオドアがリーチの差を活かして、追いついてトリーシャの空いている手を握りしめてきた。
握力強いしトリーシャも振り解くほど怒ってる訳でも無い。
「仕方ないですね。今後は気をつけてください」
「はい!」
分かってるのか、分かってないのか。
セオドアが子供っぽい満面の笑顔で嬉しそうだから許してあげる事にした。
「僕が真ん中が良い!」
「お父さんも真ん中が良い!」
「張り合わないの!」
偶にセオドアは子供っぽくなって面倒になる!
そのままトリーシャが真ん中で家族で手を繋いで帰宅した。
ここまで読んでいただいて、いつもありがとうございます!
男主人公のファンタジーも少し前まで書いていたのですが、そっちは魔法の世界でモンスターもいたので、ネタに困ったら敵を出して戦わせることで話を作れたのである種楽だったなぁと思ったりします。
こちらも魔法の世界にすべきだったか?と思わなくもなくなくない所です。
モンスター……は出てこないですが、あとがきでなら凄い能力を使える猫達がいてくれるのが心強いですが。
話のネタに困ったら、トーナメントとか?と考えたのですが、キングが出て来た時点で優勝掻っ攫われるので瞬時にボツになりました。
飼い主が国王なのはズルい!持つべきものはコネです。
いえ、コネだけじゃなくネコも持つべきです???
魔法の世界なら、なんて魔力だー!とか出来るのになぁ。この世界だと、なんて美しい艶々の毛並みの猫だ!とか、圧倒的な肉球!!とか、地平線を埋め尽くす大量の猫!!!とかでしか凄さや戦闘力を表現出来ないので、作者がどこまで頑張れるか……今後も見捨てずどうぞ応援お願いしますm(._.)m




