第3話 運命
さて……両親達の圧力で、セオドアとレオとの三人で同じ屋敷で暮らすことになってしまった。
まだ清らかな身でありながら子持ちですよ。
何てこった。
「トリーシャ……私は近々北に向かわなくてはいけません。
……貴女の顔をしばらく見られないとなると寂しくなります」
「……?いや、私たちはレオを育てる為にしょうがなく一緒にいる同居人ですよね。
なんでいきなり恋人みたいな事言ってるんですか?」
真面目な性格の様だから、やるからには全力で婚約者として振る舞うと言う事だろうか。
「何を言ってるんです?
私たちは婚約者……つまり既に恋人以上なんですよ。
それに私たちにはこうして愛の結晶が」
レオをずずいと見せてくる。
「いや……レオは私の姉と貴方の兄の子供ですよね」
「つまり私たち二人と血が繋がっている……殆ど私たちの子供であると言っても過言では無いですよね」
「過言です!」
何だ何だ!?どう言うつもり?
まさかトリーシャに惚れたとか?
確かにトリーシャは美人だけど、この世界の一般常識的には避けられる見た目だから、猜疑心がムクムクと発生してしまう。
前世の記憶を取り戻しても、トリーシャがこれまでの人生で受けた仕打ちと屈折した気持ちは完全には消えていない。
性格の悪い悪役のトリーシャは完全には消えずにここにいるのだ。
「お母さん……お父さんとなかよくして」
レオにお願いされる。
うう……美少年のお願いはお断り出来ない。
「別に私は喧嘩してるわけじゃないのよ」
「そうなの?良かった!」
レオがニッコリ笑う。
と、話が逸れてしまった。
そう、セオドアは北に行く途中、乗っていた馬車の調子がおかしくなり修理しようと御者が停めた所を野盗の集団に襲われて死んでしまうのだ。
セオドアって優秀で剣術なんかも得意な筈だったのに多勢に無勢でアッサリ死ぬのよねぇ。
セオドアの最期は御者が何とか逃げ延びて公爵家に伝えてくれるのだ。
実は私は原作小説を最後まで読んでいない。
最終巻が発売される前にこっちに来てしまったのだ。
日本にいた私ってどうなったんだろう?
よくある物語みたいにトラックに轢かれちゃったのかな。
保険金満額両親が受け取ってくれてるといいけど。
親不孝なことしちゃったなぁ。
こちらの両親は、その代わりと言っちゃあ何だけど大事にしたいな。
そのうち死ぬ運命だけど。
「…………………………そうだ。運命って変えられるかな」
「運命?ですか?」
しまった。口に出していた。
「いや、その……おほほ。セオドア様は運命とか信じますか?」
トリーシャは適当に誤魔化す。
セオドアは面食らった顔をしたが、キリッとキメ顔になった後に断言する。
「はい。私とトリーシャさんは運命で定められた夫婦です」
「僕も!お父さん!僕もだよ!」
「そうだった。訂正する。私とトリーシャさんとレオは運命で固く結ばれた家族です」
「…………もしかしてセオドア様って変わってるってよく言われません?」
「……?友人達から偶に言われますね」
真面目なイケメンかと思っていたが、実は中身が残念な男なのかも知れない。
どうしよう。私がしっかりしないと。
「……でも、運命で家族がバラバラになる事が決められていたら?どうします?」
トリーシャは意地悪い顔で言ってみた。
キツめの顔立ちなので意地悪な顔は得意だ。
「ならばその運命は必ずや打ち破ります」
セオドアは当然の様に言い切った。
この男もうすぐ死ぬのに。
でも、トリーシャはこの残念な感じのイケメンの事は嫌いじゃ無いし、話していてちょっと楽しくなってきている。
「そうですね。運命……打ち破ってしまいますか」
「はい!よくわかりませんがそうしましょう!」
「ふふ……なにそれ」
何も分からないまま返事だけは良いセオドアに、トリーシャはおかしくなって笑った。
レオも楽しそうなトリーシャを見て笑顔になる。
原作の流れ、打ち破れるか。
やれるだけやってみましょう。
誤字報告ありがとうございます!
たまにプロっぽい人がいる?
なんとも有難い(`_´)ゞ