第3-8 オーディション
オーディション当日
てっきり教室で行われると思っていたのに、広い講堂を使うことになってしまった。
そして、生徒達の親御さんまで大勢来ている!
それも、他学年まで!
「なんて事……」
いやいや……皆様6歳児の行事のそれも配役決めですよ。
日本ならジャンケンで決める程度の行事だと思うんですけど……。
とにかく目立っているのはロザリーだ。
お姫様に相応しい……ロザリーこそが本物かと思うほどの煌びやかな出立ちだ。
トリーシャにも一目見れば分かる程の一級品。
身に付けた宝石も偽物には見えない。
動くシャンデリア!
その顔も自信に満ち溢れ、燦然と輝いて眩しい程だ。
「す……凄いわね」
一方のアリアンナはと言うと……
ロザリーと比べると大人しめのデザインだ。十分に愛らしく、華やかで可愛らしいが。
「意外ね……アリアンナももっと気合い入った格好してくるかと思ったけど」
投票権は子供達も持っている。
そして、小さい子供というのは、見た目の印象で物事を決めがちな所がある。
可愛いピカピカの格好をしている方をより良いと判断する可能性が高い。
アリアンナ……とその母親は、この勝負には実力だけで挑むつもりなのだろうか。
それとも外野ほど役に執着が無い?本当に?
オーディションは先にアリアンナが演じることになった。
今日演じるのはクライマックスのシーンで、王子役のレオも台詞を覚えて来たので一緒に演じる。
共に困難を乗り越えた王子と姫は手を繋ぎながら、6歳が覚えるには少し難しい長い台詞をスラスラと滑らかに噛まずに言えている。
「ちゃんと出来てるわね」
「レオも立派に役割を果たしています」
当然の様に仕事を休んでやって来たセオドアも、レオとアリアンナの演技を感心した様に見ている。
そして、最後のシーン。二人が手を繋いだまま歌いだす。
うん、これも上手ね。
二人が揃ってペコリと頭を下げると、パチパチと子供達が拍手しながら二人に声を掛ける。
「うん……?子供達が何か持ってるわね」
「絵本ですかね?」
トリーシャとセオドアも拍手しつつ、子供達が床や膝に置いた絵本を眺める。
「もしかして今回の題材になったお話の絵本かな?」
「あら?絵本なんてあったのかしら?旦那様も今日は一緒なのね。仲良いわね」
話に割って入って来たのはジンジャーだ。
「ジンジャーもサボり?」
「皆んなサボってるわよ。私だけ仕事なんて嫌よ」
そう言われて周囲を見渡すと学園長までいるのが見えた。なんと勤労精神の低い学園だ。
「ほら、始まるわよ。ゴージャスな方のお姫様の演技が」
ジンジャーがウインクしてみせた。
トリーシャも肩をすくめて、見るからに親子で気合の入ったロザリーを見る。
ロザリーがレオに駆け寄り、その足元に縋り付く様に跪いた。
「王子様!……お会いしとうございました」
張りのある声に、場が静まった。
熱演だった。
拙く幼い演技だったが、必死で情熱的で、主役のお姫様のキャラクターとよく合っていた。
ラストの歌は特に声が良く伸びてレオとロザリーの二人で頭を下げた後、一瞬の沈黙が部屋を満たし……そして大人達全員が万雷の拍手でロザリーを讃えた。
「ビックリしたわ。名女優ね!」
ジンジャーが拍手しながらトリーシャに興奮を伝えてくる。
「そうね。頑張って練習したのね」
これは決まったわね。
お姫様はロザリーだろう。
「ボーマンの家の子も悪くは無かったんですけどね」
セオドアも同意見の様だ。
公爵夫人じゃなくて女優目指した方が良いと思っちゃうくらい感激した。
気が強いばかりの子だと思ってたのに思わぬ才能だ。
「では投票に移ります」
教師が投票権を持つ職員とレオのクラスメイト達に声を掛けた。
ロザリーは頬を上気させて母親に笑顔を向けている。
アリアンナは……母親とニッコリ目配せしていた。
「では……投票の結果、17対15で劇の主役をアリアンナ・ボーマンに決定しました」
「ええーーー!?」
トリーシャは貴族らしからぬ声を上げてしまったが、響き渡るブーイングに幸い目立つ事は無かった。
慢性的な寝不足のせいか体調が悪く、更新サボってました。
待っていて下さった皆様には申し訳ありませんでした。
エタらないようにだけ頑張ります!




