第2話 婚約破棄って可能?
「ご機嫌よう……どうぞよろしくお願いします」
トリーシャはセオドアと共に、アイバン公爵夫妻の元にいるレオを引き取りに来た。
トリーシャと公爵夫妻が会うのは初めてでは無い。
最後に会ったのは姉の結婚式の時だったか。
しかし、トリーシャは瞳の色が見られれば、自分が不吉がられるのを知っているので、常に後ろに控えていた。
こうして真正面から顔を合わせるのは初めてと言っても過言では無い。
「……いっそ貴女こそレオの母親だと言われても信じられるな。
本当にそっくりだ。瞳や髪の色だけではなく顔立ちも」
そう……公爵の言う通りにトリーシャとレオはビックリするほどよく似ていた。
「レオも貴女の元にいた方が幸せになれるかも知れないわ。
どうぞ公爵家の跡取りをよろしくお願いします」
公爵夫人も思いの外アッサリと孫を手放した。
なるほど……本では跡取りをそんなにすぐに手放すかと不審に思ったが、孫そっくりなこの顔で勝手に納得してしまっていたのか。
公爵夫人が、親を亡くして不安定になっている血の繋がらない孫に手を焼いているのは確かだが、孫をこよなく愛しているのも確かだ。
……原作に書いてあったが、公爵夫人は前妻のアイザックの生母の王女と親交があり、公爵との結婚も友人の子を育てたいという気持ちから喜んで受け入れたのだそうだ。
その為か、実の息子のセオドアよりも継子のアイザックを可愛がっていたほどだったとか。
セオドア様は実の息子よりも兄を可愛がる母親をどう思っていたのかしら。
原作小説では殆ど出番無く消えてしまうセオドア様の心情については特に書いていなかった。
そして、モジモジするレオに目線を合わせる。
「こんにちは。会うのは初めてじゃ無いわよね。
これから私がお母さんの代わりになるから。
よろしくね」
「……あの。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げた。
何この子可愛い!
思わず頬が緩む。
原作ではトリーシャに虐められて、周囲から浮いて意地悪されて辛い思いをして、ヒロインと出会うまでに心を閉ざしてしまう。
ハッピーエンドを迎えるとしても、こんなに可愛い子に、そんな悲しい思いは絶対にさせない!
「……セオドア様」
「はい。何でしょうか?」
「この子を立派に育てますよ!」
セオドアは、ガバッと振り向き両拳を握りしめるトリーシャに面食らった顔をしたが、この時初めてトリーシャの前で笑顔を見せた。
「はい。良い夫婦となりましょう。
そういうことだ。レオ、私の事は父代わりとしてこれからは接するように」
「はい!お父さん!」
……ん?
良い夫婦?
「いや……まだ結婚を決めたわけでは。
まだ婚約……」
「いやぁ……。いつまで経っても恋人の一人も作らなかったセオドアがようやく結婚か。
めでたいな」
「ええ。本当に」
口を挟むトリーシャを無視して公爵夫妻もおめでたいムードを出し始めてる。
「あの……ちがくて……」
「こりゃあ孫が増えるのもそう遠く無いな」
「楽しみですわね」
「あ……いやぁ……その」
何とか結婚の流れは阻止しようとしたトリーシャだったが……。
「僕……お母さんと一緒に暮らせる様になったの、とっても嬉しいです」
レオがキラキラの瞳で言ってくるもんだから、トリーシャは何も言えなくなってしまった。
婚約破棄……ここからでも出来るのかしら。