第2-10 王と玉
「トリーシャさん……私はいつだって貴女の力になりたい。
その思いは変わらず、貴女のためなら何だって……命だって投げ出せるつもりでした。
でも……私はあまりにも無力でした。
私は自分の不甲斐なさが悔しいです」
セオドアが心持ち情けない顔でシュンとなりながら、トリーシャを見つめる。
その顔には引っ掻き傷がある。
痛そう。
トリーシャの頭の上には相変わらずキングが乗っていた。
セオドアは何とかトリーシャをその超重量から解き放とうと頑張ってくれていたが、全ての努力は無駄だった。
怪我をするのがセオドア本人だけならきっとそれでも、キングとの戦いを頑張っただろう。
しかし、トリーシャが痛がった所で諦めてしまった。
それ以降はこうして辛気臭く、謝罪なんだか口説いているんだか分からない言葉を繰り返している。
「もう!拗ねないでください」
トリーシャはセオドアの腕を取る。
「トリーシャさん……」
「セオドア様……」
――――シュンッ!
「痛っ!」
近くなったセオドアを仰ぐ様な体勢になったので、キングは座り心地が悪くなって怒ってしまったらしい。
セオドアに新たな引っ掻き傷が出来てしまった。
綺麗な顔がワイルドになっちゃう。
仕方なくセオドアとはまた距離を取る。
「我が家の守護神よ……我らを守りタマえ……」
セオドアが祈りを捧げている。
信仰が生まれようとしている。早く何とかしないと。
そんな訳で帰ってきました。
「お母さん!おかえりなさい!」
レオが抱きついてきた。
トリーシャはレオを大事に慎重に抱きしめる。
頭上の凶暴なキングを刺激しない様に気を付ける。
レオの後をついてきた我が家の末っ子のミケが、トリーシャの上を見つめて挨拶をした。
「……にゃー」
そして、ミケは身を翻して駆けて行った。
そのすぐ後、ミケに呼ばれて我が家の守護神達がゆっくりと姿を現した。
先頭を闊歩するのはボスのタマだ。
可愛さと不遜な佇まいを同居させた堂々たる佇まい。
その後ろを左右対称にシンクロした動きでクロとシロが付き従う。
更に後ろからテチテチとミケが楽しそうに飛び跳ねながら、お姉ちゃん達の揺れる長い尻尾をキョロキョロ見ている。
我が家の四天王の揃い踏みだ。
ミケはさて置き、お姉ちゃん達三匹ならきっとキングにも負けない筈。
キングが遂にトリーシャの頭の上から飛び降りた。
――――ずしん。
と音がしそうな軽やかさに欠ける着地だった。
……今の痛くは無いのよね?
そして、四天王の前に王者の風格で近付き、タマの前まで来て立ち止まる。
「……ごくり」
トリーシャは息を呑む。
連れて来ておいて何だけど、喧嘩とかしないわよね?
「みー……」
「……ん?」
トリーシャはキョロキョロと辺りを見渡す。
どこからかメチャクチャ可愛い鳴き声がした。
うちの四天王とも違う、もっと幼なげな甘える響きがある。
「みー……」
もう一度聞こえた。
「みー……」
また聞こえたが、幻聴とか聞き間違えで無ければ……キングのいる辺りから聞こえた。
「みー……」
ダメ押しとばかりに確実にキングから聞こえた。
「まさか……今の可愛い鳴き声は…………」
「みー……」
キングだった。
キングは物凄い悪役顔のデブだ。
凶暴で我儘放題だ。
しかし、忘れがちな事実として、キングはまだ生後一年も経っていない、つい最近まで子猫やってた子なのである。
タマがキングに近付く。
「タマ!待って……その子は!」
国王やその側近達に甘やかされて愛されて育った箱入りの幼げな猫をあまり強く叱っては……!!
――ぺろん
「みー……」
ぺろぺろぺろ…………。
タマに続いてシロとクロも続いてキングを囲んで顔を舐め回し始めた。
「……………………」
こうしてキングは美しい妻を持ちながらハーレムを手に入れた。
「にゃー……」
可哀想なミケ。
お姉ちゃん達が新参者を可愛がるので寂しそうな様子のミケは、トリーシャが確保して可愛がる。
その後、キングとミケは仲良くなった。
男友達である。
大きさはだいぶ違うが、仲良くあちこち歩き回っている。
少しはキングの運動になりそうだ。
「うちにもキャットタワーが欲しいわねぇ。後はキャットウォーク」
「何ですか?それは」
セオドアが不思議そうにする。
そうか、知らないのか。
或いはこの世界には無いのか。
トリーシャはイメージを伝えてみた。
「成る程……早速職人に作らせましょう」
セオドアは即断即決の男だ。
頼もしい。
今までは屋敷の雰囲気的にそう言うのは合わないと思って言っていなかったが、猫達のためにもっと設備を整えても良いのかも。
その後も度々キングを自宅に招いた。
キングはキャットウォークが気に入ったらしく、ミケと一緒に遊んでいる。
飽きるとハーレムで愛でられて良いご身分である。
少しだけ活動量が増えたお陰か、キングはほんの少し体重が落ちた気がする。
国王がそれに不満を言っていたそうだが、猫担当大臣決裁で、猫の健康に関しては獣医師の判断が王命を上回るようにしてある。
ちゃんと肉球のサインがあるので、それを見せたら国王もブツブツ言いつつ黙った。
仕事も慣れて来たし、キングもタマの指導のお陰か頭の上には乗らなくなって来た。
少し楽になってようやくやり甲斐を感じて来た所だ。
今日もキングを国王の側近に返して仕事終了。
執務室で少し待っているとセオドアが迎えに来てくれる。
「帰りましょう」
レオを寝かし付けていると、セオドアがそっと話しかけて来た。
「疲れていませんか?」
「……………………大丈夫ですよ?」
一瞬ピンク色なお誘いかな?と身構えてしまったが、そんな訳ないか。
いや、残念だったりはしませんけど!
「最近……猫達に貴女をとられて寂しいです」
「何を言ってるんですか。結婚式の準備だって順調に進んでいるんですよ」
と、言いつつも完全に同意である。
セオドアの隣に座って、とす……と、もたれ掛かる。
「でも、確かにデートもしてませんしねぇ」
「しますか、デート。レオと三人で……」
「レオがいるのも楽しいですけど……私は二人でも……」
「にゃー」
「そうですね……二人っきりって中々無いですし」
「にゃー」
「猫達のことは使用人にお願いして……」
「にゃー」
「どこに行きましょう……」
「にゃー」
「……………………」
「……………………」
いや、気がついてるんですよ。
気がついて欲しそうにしているけど。
レオがしっかり寝たのを確認してシロクロタマが起きて来たらしい。
ミケはもう寝たのね。偉い。
「じゃあ……デートの予定はまた今度」
「はい。でも近々必ず」
「にゃー」「にゃー」「にゃー」
さて、この甘えん坊さん達を甘やかさないとね。
前回までのあらすじฅ(ↀㅅↀˆ)
時は宇宙歴222年。
人類は滅亡の危機に瀕していた。
宇宙忍者たちの魔の手は既に月にまで到達している。
敵の恐るべき拠点、IAA月面忍者屋敷に設置されたサヨナラ卍インガオ砲により地球の命運も尽きる寸前だ。
ナムアミダブツ!
「猫四天王と忍者の宇宙戦争」最終話
絶体絶命のその時!オーロラのような虹色の光が地球を包み込んだ。
そこから現れたのはタマクロシロミケ!!
猫四天王達だった。
宇宙忍者達はカラテやダークマター手裏剣で四天王を排除しようと試みる!
しかし流星よりも早く、無重力空間を高速移動する猫達には中々攻撃が当たらない!
クローン宇宙忍者の連携の取れたカラテが、一番年少で姉達に速度の劣るミケに襲い掛かる!
避けられない!
ミケを助ける為、姉の三匹は三位一体となりデルタアタックを仕掛けた!
シロクロタマが超高速で白黒の螺旋を描きながらクローン宇宙忍者に襲い掛かる!
「グアー!目が回る!!」
宇宙忍者達は月の重力に囚われて落ちていった。
生き残りの混乱する宇宙忍者達にこっそり忍び寄る影!
「ブラックホールが近くにある!逃げろー!」
それはブラックホールでは無くクロだったが、宇宙忍者達は勘違いして逃げて行った。
しかし、その先にはシロが待っていた!
まん丸に丸まっているせいで星に見えていたから慌てていた忍者達は存在に気が付かなかったのだ!
シロの第二宇宙速度を超えた高速猫パンチにより、宇宙忍者達は宇宙の果てまで飛んでいく。
そして遂に手下を全て失った親玉宇宙忍者がその姿を現した。
なんと大きな体だ!
四天王は全員一纏めに丸呑みにされてしまいそうだ!
「猫は殺す!」
人情のカケラも無い恐るべき敵!
タマの怒りが頂点に達し、その体はみるみる巨大化した。
親玉宇宙忍者と同じように宇宙戦艦とみまごう巨体となったタマが毛を逆立てて相対する。
親玉の宇宙カラテ奥義の宇宙正拳突きがタマに迫る!
それをタマが冴え渡る猫パンチでいなしていく。
互いに一歩も譲らない地球の未来を賭けた戦いが繰り広げられていた。
戦いに巻き込まれた宇宙デブリや彗星が粉々に砕け散る!
クロが黒い体を活かして宇宙空間の背景に溶け込みながら親玉の急所を狙う!
シロの高速のパンチは体格差を覆す威力をみせる!
そんな姉達の戦いを目の前に、遂にミケが覚醒した。
選ばれし雄ミケの目が輝き、三色に光る極太ビームを発射した!
「アナヤ!!」
親玉宇宙忍者は叫びながら爆散した。
宇宙空間に広がる汚い花火。
こうして地球は守られた。
猫四天王はその役目を果たして虹色の輝きに包まれながら時空間を超えて元の世界に戻って行った。
深夜の四天王宅。
寝床のレオがぐっすり眠っているのをタマが確認する。
四天王はそれぞれレオの四方の守りを固めるフォーメーションにつき、ようやく心安く眠る事が出来た。
おしまい
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
宇宙はいいですよね。
私も星は好きなんですよ。
どんな星が好きかって……?そりゃあ………………
皆さんのくれる評価の星が大好きです⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
ここまで数々の私の評価クレクレをスルーしたスルー検定一級の人もそろそろ諦めて星ください!
宇宙忍者のお話を書こうと思った経緯(*・∀・)ノ -= 卍 シュッ
猫が国を救っても、0歳にして大人猫よりデカくて凶暴な顔つきで国を牛耳っていても、特に不自然だと指摘する有識者が現れない。
読者様方は猫の万能性をどこまで許容するのであろうか……。
その答えを探るべく四天王は別の時代、別の世界に時空を超えて旅に出ました。
旅からちゃんと戻ってきて偉い!
₍ᐞ•༝•ᐞ₎◞ ̑̑₍ᐞ•༝•ᐞ₎◞ ̑̑₍ᐞ•༝•ᐞ₎◞ ̑̑₍˄·͈༝·͈˄₎
6月9日 誤字報告ありがとうございます!本人ではなかなか気が付かないもので、助かります!