第2-8 キングの御前
そして、国王陛下に呼ばれてしまった。
一番信頼しているメイドのメアリーに泣きついて、何とか化粧と服装で悪役顔を少しでも人が良さげに見えるように頑張ってもらった。
普段は似合わないから避けている柔らかな色味を使いつつ、王の御前で失礼のないように。
目元をマッサージしてみて少しでも目付きが良くなるように頑張る。
「いつもの神々しい美しさも最高ですが、春の妖精のような愛らしい貴女も良いものですね」
とはセオドア談だが、セオドアの趣味は世間と少しズレているので当てにならない。
トリーシャは現在セオドアに抱きしめられている。
このまま時よ止まれ!!
幸せだからが3割!断罪が嫌なのが7割!
「うう……緊張で胃が痛い。
セオドア様……見捨てないで…………」
「大丈夫です。断罪はまず有り得ませんし、もし断罪すると陛下が仰るのなら、その時から私はクーデターの主犯となります」
「……いや、その発言本当にマズいから外では絶対に言わないで」
トリーシャはセオドアから離れる。
そんな発言が外に漏れれば、謀反の意思ありでそれこそ断罪が確定してしまう。
危ない危ない。
「覚悟を決めるわ。……大丈夫なのよね」
「お母さん……僕もいるよ」
「レオ……」
何て良い子。
「みー……」
「いや、ミケは連れて行けないのよ。お姉ちゃんたちと仲良くしててね」
ミケをレオの肩から摘んでクロシロタマの塊の中に入れて一体化させる。
「クロシロタマ、私たちは出掛けるから弟の面倒みてあげてね」
「「「にゃー」」」
使用人たちに戸締りの徹底をお願いしてから、公爵家の馬車に乗りいざ国王陛下の元へ。
「お久しぶりです、国王陛下にご挨拶申し上げます」
セオドアは慣れた様子で玉座に首を垂れる。
玉座に座る威風堂々とした姿は威圧感があった。
でっぷりと太った体は縦にも大きい。
ドブネズミを見るような目付き……というのか。
こちらを睥睨する瞳は自分がこの世で最も尊い存在である事を生まれた時から理解している、絶対的な強者だけが持つ尊大で不遜なものであった。
少なくともこちらを歓迎するような意思はその表情からは一欠片も窺えなかった。
その傍には見慣れた顔の壮年の男性が立っている。
玉座の主のご機嫌を損ねないように、顔色を窺うようにチラチラと見る様は、普段の堂々とした様子を少しでも知る貴族ならば滑稽にも映った。
その様を見れば、現在の玉座の間の支配者が誰なのか、初めてお目文字叶った者が何者であれ即座に理解する筈。
その玉座の隣では若々しく麗しい王妃が膝に乗せたサバトラの猫をゆったりと撫でている。
うわぁ……凄い美猫。だけど気位が高そう。
じゃ、なくて。
こんな状況でもボーッとしている場合じゃない。
「国王陛下にご挨拶申し上げます……」
トリーシャは困惑しながらも、セオドアに続いて貴族として及第点を貰える優雅なカーテシーで挨拶をした。
レオもそれに続く。
玉座の隣で居所なさげに立っているこの国の王に。
「ああ……うん。よく来てくれた」
王は玉座をチラチラ見る。
玉座には現在メチャクチャ偉そうな巨体のデブな茶トラが、トリーシャたちを見下し切った顔で見つめている。
「よーし……ちょっとそろそろ退いてくれな……」
国王陛下だった気がする男性が揉み手で玉座に近付いて抱き上げようとする。
「フシャー!!」
「す……すまん」
毛を逆立たせて威嚇されて断念した。
「…………フン!」
デブ茶トラは鼻を鳴らして無礼者を追い払ってから、大欠伸する。
聞いても良いのかしら?
自分の今後も気になるけど、スルーできる状況でもない気がする。
「あの……そちらの猫は?」
「ん?ああ……こちらは、キング・ゴールデンドラゴン・オブ・ゴッドタイガー伯爵だ。
キング、こちらはトリーシャ嬢だ。
その……嫁入り前の女性だから引っ掻かないように頼むよ……」
そう言う国王の手の甲は良く見ると引っ掻き傷が無数にあった。
「キ……キング?」
「ああ、キング・ゴールデンドラゴン・オブ・ゴッドタイガー卿だ」
「………………………………」
ツッコミ入れるところかしら?
王が猫をキングと呼んでるのもおかしいし、ゴールデンと言うよりオレンジだし、ドラゴン要素は言うまでも無いけど皆無。ゴッドタイガーのタイガー部分だけは少し分かる。
「………………ご機嫌よう。ゴッドタイガー卿」
数秒間の間に色々考えた結果、カーテシーをして誤魔化す。
前世を思い出す前のトリーシャが心身に刻み込んだ貴族の作法が今のトリーシャを支えている。
「爵位を与えられたのですか?」
空気の読めないセオドアがそこを掘り下げようとする。
「猫たちのお陰で隣国では猛威を奮っていた流行病がこの国ではほぼ被害が出なかったろう?
その猫たちの功績を讃えて、キングに代表として叙爵したんだ」
功労者の猫は数多いる中何故その偉そうな猫に?
……もちろん王の愛猫だからだろうな。
この冠を被った猫奴隷は丁度良い理由を見つけて、愛猫に箔付けをしたのか。
「このキングとの出会いは三ヶ月前……まだ小さな子猫であった…………」
待て。この巨体の偉そうなデブ猫まだ全然一歳未満の可能性が?
――――ズゴゴゴゴゴゴ
キングと目が合うと凄まじい威圧感で睨みつけてきた。
末恐ろしい……。
国王の突然始まった猫との出会いを聞くと、要するに王宮の庭園で拾っちゃったという事らしい。
それだけの情報を長々と説明された。
私達は何のためにここに呼ばれたのか。
「それで私達は何のために呼ばれたんですか?キングの話を聞くためですか?」
セオドア……物怖じしないの凄い。
この猫おじさん一応国王なのに話を遮るなんて。
「お、おおそうだ。
国に猫が増えたのは神の祝福とソナタらの功労であるが、ちと無計画に増えすぎてな。
飼いきれずに捨てるなどと言う非道な行いをする者も出てきた。
そこで……だ。
トリーシャ嬢に猫担当大臣補佐として、この国の猫の福祉に従事して貰いたい」
「ね……猫担当大臣補佐?」
猫狂いの王によりよく分からない役職が生まれている。
この国の行く末は大丈夫だろうか。
トップは尊大な0歳の偉そうな猫だぞ。
「わ……かりました」
本当は分かってないけど王命に背く事はできない。
「それで……猫担当大臣はどなたですか?」
トリーシャが補佐なら上役がいるはずだ。
この部屋にいるようには見えないが。
「ああ、大臣はキングだ」
「そうですか。わかりました」
トリーシャは思考を放棄した。
考えるだけ無駄だ。
「そうか、やってくれるか!
詳しくは追々決めて遣いを出して知らせる」
国王は嬉しそうだった。
断罪じゃなかったけど、良かったと安堵して良いのだろうか?
「何か質問があれば何でも聞いても良いぞ!」
機嫌良さげな王はニコニコと質疑応答時間をくれた。
「では……王妃殿下のお膝にいらっしゃる猫様のご尊名をお伺いしても宜しいでしょうか」
トリーシャより普通に偉い可能性が高いので、敬語マシマシにしておく。
「クイーン・シルバーフェアリー・オブ・ゴッドタイガー伯爵夫人だ。
夫人、こちらトリーシャ嬢だ」
「……ご機嫌よう。国王陛下より紹介賜りました、トリーシャ・キャンベルでございます」
もう何も言うまい。
トリーシャは流れに身を任せることにした。
ええいままよ!
いつも読んでいただいてありがとうございます。
さっそくの誤字報告ありがとうございますヾ(๑╹◡╹)ノ"
何故かいつも気が付かないのでとても助かってます!
複数箇所誤字報告いただいてありがとうございます(*・ω・)ノ
お陰様で少しずつちゃんとした作品に仕上がってきてます!
今回誤字がすごくいっぱいあったようです。
お手数おかけします。報告たくさん頂いてありがとうございますΣ('◉⌓◉’)
また誤字報告ありがとうございます!漢字もあちこちダメダメですが、カタカナの用語も直ぐに変になります!
報告助かりました(๑˃̵ᴗ˂̵)♡
トラ猫の要望があったので登場いただきました。
キングの方はキジトラか茶トラか迷いましたが、茶トラの方がゴールデンドラゴンっぽい(?)と思ったので、茶トラにしました。
ゴールデンドラゴンならキジトラに決まっている派の人が多数現れたら、コソッと変更するので、どうしてもゴールデンドラゴンが茶トラなのは許せないと言う人は感想か、誤字脱字報告で主張してください!
∩( ^ ΦωΦ ^ )∩
ちなみに最終決定権は感想欄でトラ猫のご要望を出してくれたキングとクイーンのママにあるのでご容赦ください。
キングママの異世界ネームも考えてるよ!
現在の有力候補は
マザー・トゥインクルホーリーマリア・オブ・ゴッドタイガー様だよ!✩°。⋆⸜(ू˙꒳˙ )໒꒱
キングより強そうにしてみました。
もし二つ名とかお持ちじゃ無かったら日常使いして欲しいな♡