第2-7 ルシオ
「あら、どうなさいました?」
貴族と思しき淡いブロンドの男が道の端っこで座り込んでいた。
トリーシャとレオで近寄り、話しかける。
護衛でついて来ている人は渋い顔をする。
身なりが良いから声を掛けたので、そこまで心配しなくても……と思うのは警戒心無さすぎかな?
護衛さんも相手が貴族っぽいのは分かっているので、それとなく近寄りつつも露骨に止めたりはしない。
――にゃー
「にゃー?」
金髪の男が顔を上げる。
金色の瞳と目が合った。中性的な顔立ちはうっかり見惚れるほど綺麗だが既視感がある。
会ったことは無いはずだが。
「貴女は……猫は好きですか?」
やはり中性的な響きのある美声。
……っといけない。聞き惚れてる場合じゃ無い。
「好きですけど……それが?」
「へ…………」
「へ……?」
「くしゅん!……すみません。この子猫飼いませんか?」
ハンカチで鼻を抑える金髪の男の目の前には木箱。
布が敷かれたその上には三毛の子猫が蹲っていた。
男性の名前はルシオ。
やはり貴族で猫は好きだけど、猫がいるとくしゃみが止まらないから飼えないそうだ。
「うちももう三匹いるのよねぇ」
シロは優しいから大丈夫な気がするけど、気難しそうなクロや、最終決定権を持つタマが何と言うか。
「実は最近猫を捨てる人が多くなって来ているんだ。
流行りに乗って猫を飼い始めたけどやっぱり要らなくなったとか……無責任すぎるよな。
でも、俺も面倒見れないからなぁ」
トリーシャはドキリとした。
トリーシャのためにセオドアに協力してもらって国中は猫だらけの猫の楽園になっている。
しかし、そのせいで猫たちが苦しむのは本意では無い。
可哀想な子猫を見る。
――にゃー
…………飼いたい。
「うちの三匹にも聞いてから決めようかしら……」
ものは試しである。
タマさえ受け入れてくれれば……。
猫だらけの国にしてしまったトリーシャにも責任のある命だ。
そして、三毛猫のミケ(トリーシャ命名)を連れて自宅に戻ることになった。
「ん?あれ?ここって……」
ルシオが首を傾げた。
「何か?」
「…………もしかしてあんた、セオドアの?」
婚約者の名前が出た驚きに僅かに固まった時、鈴を転がす声が響いた。
「あーー!!お兄様!何してんの!?」
何故かトリーシャたちの家から出て来たドルシーがルシオを指差して嫌そうな顔をしていた。
そう、ルシオの顔にどこか見覚えあるなと思っていたのだが、要するにドルシーとそっくりだったのだ。
中性的美貌で繊細そうに見えるこの男だが、ぶりっ子に見えて活動家なドルシーの兄だけあって行動力ある野生児らしい。
現在は騎士団長としてそれなりに有名らしい。主に顔で。
「なんだー。セオドアの婚約者だって分かってたら緊張したりも……ひっ……ひっくしゅん。
……ちょっと距離をとるか」
我が家の猫達はミケを受け入れた。
何故なら猫神のドルシーがそう命じたからだ。
普段お世話してるのは私なのに!
ドルシーは猫達とソファに座っている。
芸術品のような白いたおやかで繊細な作りの指先はそれだけで見惚れる美しさなのだが、今は職人技の撫でっぷりで我が家の全ての猫達を蕩かしている。
やり方習ったけど私では、ああはならなかった。
何が違う?
「国王陛下も猫の増加には頭を悩ませてるんだよなぁ。
国を挙げて対策するってよ。
うー……鼻がムズムズする」
「な……国王陛下!?」
話が大きくなって恐れ慄くトリーシャ。
何!?罰せられる?
悪役だけど断罪は勘弁!
「そうそう……あんたにも国王陛下は会いたいってよ。
女だと色々準備とかあんだろ?
服買うとか。
セオドアにも言っておけよ……っくしゅ」
白磁の美貌の鼻の頭を赤くしてルシオは目を擦っている。
しかし、トリーシャはそんな事に構っている精神的余裕は無かった。
「国王陛下……断罪……」
トリーシャ大ピンチである。
がんばれルシ男。
そしてミケが加わり戦力強化。
ミケは四天王最弱。
次回新たな猫が出てきます。
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