表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/63

第2-6話 噂と嘘つきな男

 セオドアの様子がおかしい。


 チラチラとトリーシャの顔を窺っては、目が合うとササっと逸らす。

 そして誤魔化す様にクロを撫でに行って、引っ掻かれそうになっている。


「あの……トリーシャさん……」


 モジモジしながら話しかけてくるが……。


「いや……何でもありません」


 この世の終わりの様な顔をしてフラフラと立ち去る。


「なんかお父さん変だね」


「そうねぇ……」


 レオにも気づかれてるし。

 いや、このレベルで気が付かない人類はいないだろう。

 何か悩みがあって聞きたいことがあるのだろうが、分かりやすすぎるし面白すぎる。

 


 そんなセオドアの不可思議な様子の原因が判明したのは、ドルシーが遊びに来た時だった。

 ドルシーは何故か度々トリーシャを訪ねて遊びに来るようになっている。

 猫達を構いつけて、お喋りしてゴロゴロして去っていくのだが、結構暇なようでよく来る。

 今日も巷で話題のスイーツを手土産にやって来た。

 お菓子の趣味は中々良いので歓待する。


「久しぶり!トリーシャ!レオ!

 ねえねえ、トリーシャ昔凄かったんだって?

 話聞いたわ!」


「…………昔?」


 昔と急に言われてもなんの話だか分からない。


「昔トリーシャと付き合ってたけど、別れたって男が色々武勇伝をあちこちで話してるわよ」


「な……!?何ですってぇ!?」


 トリーシャはセオドアと出会うまでは誰とも付き合ってない!

 何なら前世も…………。


「ウソ!ウソウソウソ!!!付き合ってない!誰だか知らないけど!誰それ!」


「そうなの?じゃあ嘘ついて回ってるんだ。

 何のつもりなんだか」


 ドルシーは手慣れた様子でタマを抱き上げ膝に乗せた。

 タマも大人しく撫でられている。

 クロとシロもドルシーの足元にゴロニャン状態。

 ドルシーは男性を手玉に取るタイプに見せかけて、実は手練の猫使いの様だ。

 タマは心地良さそうに身を任せている。

 クロとシロが甘えた声を出して順番待ちをしている。

 浮気者どもめ。


 それはさておき。


「で、どこの誰なのよ。その嘘つき男は」


「えっとねー。ザックスって男。知り合いだったりする?」


「ザックス……?どこかで聞いた事がある様な?

 …………………………あ!わかった!あいつ!!」


 トリーシャは拳を握りしめて立ち上がる。

 殺意がムクムク。

 自分の拳を見つめる。

 こんな小さな華奢な手じゃダメね。怪我しちゃう。何か道具が…………。


「とりあえずどんな男なんだか教えてよ」


 いつの間にかソファで三匹同時に猫を侍らせて撫でくりまわしながらドルシーがトリーシャを宥める。


 猫達の恍惚顔。

 私もちょっと撫でて貰いたい……。


 猫への嫉妬で何とかザックスへの殺意を押しとどめた。


 そしてトリーシャは吊り気味の目をさらに吊り上がらせて語る。

 

 因みにレオはドルシーの持って来たドライフルーツのケーキに夢中だ。

 よしよし、お母さんの分もお食べなさい。

 


 ♢♢♢♢♢

 

 

 ザックスとは……付き合ってた訳でもないが、知り合いじゃない訳でもない、デートらしき事はした事がある程度の知り合いである。


「ねえトリーシャ、私の知り合いが恋人と別れたの。

 新しい出会いを求めているって相談されてね。

 それで貴女が良ければ会って欲しいの」


 ある日、姉のサーシャがトリーシャにあの男を紹介して来たのだ。


 トリーシャは最初は断った。

 なるべく自分の瞳を他人には見せないように心掛けて生活をしているが、交際するとなれば見せない訳にはいかない。


 トリーシャはツンケンしているようで、繊細なところがあった。

 菫の瞳を見た時の他人の表情の変化に気が付いては、何の反応も示さないまま、心の中で傷付き続けていた。


 しかし、最終的には会ってみることにした。

 サーシャが熱心にザックスが優しく紳士的で、トリーシャにピッタリだと薦めてきたこと、そして、トリーシャも自分を受け入れてくれる存在に憧れがあったからだ。


 そして、目を隠すことなく会ってみた。


 ザックスは一瞬ギョッとした顔をしたが、直ぐに笑顔をみせた。

 トリーシャは心配になったが、しかしその笑顔を信じてみる事にした。


 そしてそれは裏切られた。


 ある時、サーシャはトリーシャに哀しげな目をしながら言ってきたのだ。


「どうしてザックスに冷たく当たるの?

 ザックスは貴女のことを大事にしているのに」


 ザックスはトリーシャの事で相談があると言っては、サーシャと二人きりになるとトリーシャの悪口を言っていたらしい。

 何のことは無い。

 ザックスは最初から姉を狙っていて、姉と話す口実欲しさにトリーシャとデートをしていたのだ。


 姉はその時もトリーシャの言い分を信じてはくれなかった。


 そして、トリーシャは結局ザックスと手を繋ぐ事すら無かった。

 結局、ザックスがサーシャと仲良くなる前に、サーシャは亡き義兄に掻っ攫われてスピード結婚した。

 それでザックスに関わるアレコレは過去のものになったはずだった。



 ♢♢♢♢♢




「なにそれ!許せない!!ザックス!潰して埋める!」


 善良なる女神ドルシーが憤怒の顔をする。

 女神に仕える三匹の神獣クロシロタマも戦闘に備えて一直線に並び、配置についた。


「過去のことは置いといて、今変な噂を流されるのは厄介ね。

 特にセオドアも噂を知っているようだから……」


 嘘つき男に未練が有るなどと思われては、トリーシャの沽券に関わる。


「……とりあえず噂は私に任せて。

 トリーシャはセオドアの誤解だけ解いて」


 ドルシーは静かに立ち去る。

 着いて行こうとする猫三銃士はレオに捕まる。


 トリーシャは心配は心配だけど、悪役顔の自分が何かをすると余計にこんがらがる事が多いのは分かっているので、ドルシーの手腕に任せる事にした。


 そして、セオドアの帰宅を待った。


 セオドアはやはり噂を気にしてか、ソワソワしていた。


「セオドア様……」


「は……はい!?何でしょうか!?」


 ビクビクしたセオドアが直立不動になる。


「あのですね……ザックスという男の事なんですけど!」


「……!!?……はい」


 セオドアが分かりやすくションボリとした。

 本当にあの男!どんな噂を流してやがる!


「私、特にあの男と付き合ったりしてませんから!」


「ほ、本当ですか!?」


 ガシッとセオドアがトリーシャの肩を掴む。

 握力つよ!

 ちょっと痛いが我慢!


「アイツは詐欺師みたいな嘘つきですから!」


「そうなんですね!詐欺師だったんですね!分かりました!牢屋に入れます!待っててください!」


 セオドアは上着を引っ掛けて出掛けようとする。


「いやいや……行動力ありすぎでしょう!食事くらい摂って明日にでも……」


「ダメです!こうしている間にも虚偽の噂を流して……」


 トリーシャは上着を掴むが、セオドアの力には敵わない!

 ズリズリと玄関の方へ向かってしまう。


 そこに神々しい女神が現れた。

 玄関から勝手に入ってくる、

 広がったハニーブロンドがトリーシャには後光のように見える!

 ありがたや!


「ふふん!被害者の会を設立したわ!」


「……被害者の会?」


 ザックスは女癖が悪く、五股十股当たり前の男で、嘘をついて女性からお金を引き出したりもしていたらしい。


 ドルシーは半日でその女性達を纏め上げて会を結成し、集団で潰す事にしたそうだ。

 何日もしないうちにザックスは街からいなくなり、二度とその顔を見る事は無いと断言してくれた。


 そして会の方でザックスのトリーシャに関わる虚言について報告を纏めて、周知までしてくれると言う。


「何で被害者の会がそこまでしてくれるの?他の人の被害と比べれば、私の被害は少ないのに」


「ん?会長私だもん。私は何の被害も受けてないけどね」


 ドルシーは胸を張った。


「そう言えばドルシーは昔から被害者の会を立ち上げるのが上手かったなぁ……」


 セオドアが感慨深げに言う。


「いや、上手い下手とかあるの?というか何度も立ち上げてそうな言い方だけど?」


 トリーシャは思わず突っ込みを入れる。


「何度もってほどじゃないわ。3年ぶり5回目の立ち上げね」


 ドルシーは何でも無いように言った。


 その手のプロだった。

 トリーシャは思いの外ヤバい存在と危うく敵対するところだったようだ。

 ドルシーが味方になってくれてラッキーだけど、トリーシャの背中を冷たい汗が伝う。


 ドルシーが本気になればトリーシャを糾弾する会も作っていたかも?……怖っ!

 

「じゃあ……私は会長としてやる事がいっぱいあるから!

 暫くはトリーシャと遊べないかも……。

 またね!」


 ドルシーは嵐の如く立ち去った。

 

「……私も貴女の名誉回復のために何でもします。ドルシーに負けてられません」


 セオドアが何やら決意を新たにしている。


「いえ……私は良いんです」


「良くないです!貴女を誤解させたままでは!」


「…………公爵家の不名誉になるかも知れないから噂はちゃんと訂正したいですが……今は貴方の誤解が解けたのが嬉しいので」


 そう言ってトリーシャは笑ってみせた。

 昔と違って自分を全面的に信じてくれる人がそばに居てくれる。

 楽しい友人も得た。


「トリーシャさん……」


 セオドアがトリーシャを強く抱きしめる。

 トリーシャも抱き返した。



 数日後、ドルシーが結果を報告するためにトリーシャを訪問してくれた。

 ザックスはあちこちからお金を借りていたが、首が回らなくなり困っていた。

 そんな折に公爵家に嫁ぐ事になったトリーシャの話を聞いて金を引き出せないか画策していたそうだ。


 ザックスはトリーシャが自分をまだ好きなのではないかと勘違いしていたらしく、噂を流せば自分に会いにきて金を渡すだろうと思い込んでいたと言う。

 

 そんなザックスはちょっと危ない職業の男性とお付き合いしている女性にも手を出していたらしく、詐欺師として牢屋にでも入ったほうが命の危険は少なくなりそうな感じらしい。


「ま、どうなるにしろ、もうトリーシャの前には現れないから安心してよね」


 頼れる友人はふふんと笑う。

 その顔が堪らなく可愛かったので、つい抱きしめる。


「なによー?」


「ん?何でもない」


「僕も!」


 レオがそれを見てくっ付いてくる。

 そして、猫達ももちろん集まる。


「浮気……ですか?」


 いつの間にか帰ってきていたセオドアが、そんな三人と三匹を見てオロオロしている。


「セオドアはあっち行ってて!」


 そして被害者の会会長様にシッシッと手を振って追い返されていた。

 ションボリしたセオドアの丸まった背中を見て、トリーシャは久々に声を上げて笑った。

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつも読んだいただきありがとうございます!

アクセス数やブクマやいいねの数を見て、いつもニヤニヤしてます!

お陰様で週間ランキングにも載れました。それもこれも皆様のおかげです!


誤字報告助かります!本当に!

誤字が放置されていると書籍化遠のくとかの噂が!この作品がそういう事態になれるかは遠い夢の話ですが……。

でも、皆様のお陰で少しだけ可能性が高くなってるかもなので!皆様超大好きです(*⁰▿⁰*)♡♡♡♡♡


25日夜あたりから大量に誤字報告くださる方!

めちゃくちゃありがとうございます!

先回りして感謝申し上げます(╹◡╹)♡

何らかの文章のプロの方なのかと……ありがたい(๑˃̵ᴗ˂̵)




頑張レ!ドルシー!全テノ敵ヲ殲滅セヨ!




6月3日 誤字報告ありがとうございます♪(*^^)o∀*∀o(^^*)♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ニャンニャン三銃士!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ