第2-5話 レオの6歳の誕生日
「誕生日の事なんですけど……」
トリーシャはレオが眠った隙に、セオドアにコソコソっと聞いてみる。
「ん?誕生日?ふふ……貴方の好きそうな物は全て発注済みですよ。
プレゼント楽しみにしていてくださいね。
私も毎日貴女の生誕を共に祝える日を楽しみにしているんです」
「私の生誕…………って私のじゃないですよ!
私の誕生日なんて半年も先じゃ無いですか!
レオのに決まっているでしょう!」
トリーシャはセオドアの僅かに微笑んだ得意げな顔に、呆れ顔で返す。
来月はレオの6歳の誕生日。
去年までは両親も揃っていた。
もちろんトリーシャもお祝いしてあげていたが、アイバン公爵家の将来の跡取り様の誕生日とあって参加人数が多い。
公爵家側の招待客だらけで正直に言って可愛い甥っ子に一声かけてプレゼントを渡すのが精一杯だった。
トリーシャは毎年殆ど壁の花だった。
声を掛けてくる男性は何人かいたけど、トリーシャのベールに隠された瞳を見ると愛想笑いを浮かべて立ち去っていた。
周囲がトリーシャを見てヒソヒソと囁いているのが分かるから、いつも直ぐにひと気の無い所に逃げていたっけ。
セオドアもいたはずだけど、トリーシャはその頃は目立たない様にするのが精一杯で、セオドアの顔もよく見てなかったな。
もし、その頃にちゃんと対面出来ていたなら、もう少し早く記憶を取り戻せていただろうか。
もはや言っても仕方の無い事ではあるが。
……去年のレオにあげたプレゼントは子供部屋にちゃんと置いてある。
見つけた時はちょっと嬉しかったり。
木製の汽車のおもちゃセットだ。
去年は前世の記憶が戻っていなかったけど、甥っ子にはまだ表面上でも優しかったみたいで良かった。
職人に特注して作らせた品だったり、元々のトリーシャもそこまで悪人だった訳じゃ無さそうなのよね。
ただ、原作でやってた事はやっぱり擁護できないけどね。
閑話休題。
「でも、レオの誕生日パーティーは去年同様に私の両親も含めて既に滞りなく計画されているのでご安心を。
去年よりも招待客を増やして盛大に祝うそうです」
「それについては心配してないわよ。
進捗状況も使用人達から聞いてるし。
そうじゃなくて、私たち三人の家族だけでもささやかにお祝いしたいなって思って」
「……!?します!祝います!!家族だけで!!」
セオドアは見るからにウキウキの様子だ。
子供っぽい。
「さっそく屋敷いっぱいのプレゼントを買わなくては!」
「程々にね!せめて部屋いっぱいくらいで留めておいて!」
「はい!」
セオドアは元気良く返事をして、プレゼント選びに立ち去った。
多分おもちゃ屋のおもちゃを買い占めるつもりだろう。
女の子向けも構わず買ってくるだろうから、親戚の子にでも分けてあげようかな。
「さて、私も頑張らないと……」
メイドの中でも、比較的早い段階でトリーシャを避けなくなったメアリーを捕まえて、ケーキ作りの手伝いを頼む。
今世では料理なんて一度もした事はないし、前世でも自分が食べるのに困らない程度の料理はできたが、ケーキなんて作った事は無い。
ぶっつけ本番は怖いので、指導を受けながら何度も挑戦する。
スポンジは膨らまず、クリームはべっちょりと歪に塗りたくられ、失敗作を使用人達に頭を下げながら一緒に食べてもらい消費する。
なんとか不器用ながらにフルーツのたくさん載ったケーキをギリギリのタイミングで作れる様になった。
「……やった!みんな!ありがとう!!」
ちょっとした感動を覚える。
使用人達も拍手でトリーシャの健闘を讃えてくれた。
「若奥様、お坊ちゃまもきっとお喜びになるでしょう」
「そうよね!」
メアリー優しい!
トリーシャはメアリーの両手をがっしり掴んでブンブン上下に振ってはしゃぐ。
レオはトリーシャ達が準備する最中は家庭教師の先生達から熱血指導を受けてもらっているので、本作戦についてはまだ知らない。
サプライズパーティーに関しては使用人達と家庭教師の先生方も含めて随分協力してもらった。
余分な仕事をさせた分ちょっとボーナスをあげたくて私物の処分をした。
協力してくれた人達に寸志を包んだらめちゃくちゃ驚かれた。
ほとんどの人は素直に受け取ってくれたが、メアリーには固辞された。
仕事でやった事だからと。
メアリーは特に中心となって頑張ってくれたので、不要になった髪飾りを無理に渡した。
前世を思い出す前のトリーシャとは服やアクセサリーの趣味が微妙に違うから他の人に使って欲しいのよね。
なるべくシンプルなものを選んだからか、仕事中も付けてくれる様になった。
やっぱり私より似合ってる。
そして、誕生会。
部屋中に業者が運んだおもちゃのプレゼントの箱が所狭しと積まれ、ケーキも過去一番の出来のものがレオの席の前に置かれている。
蝋燭に火を灯し、レオを待ち構える。
「喜んでくれるでしょうか」
子供みたいにソワソワしているセオドアに、トリーシャは笑みを浮かべる。
「もちろん」
メアリーに手を引かれてレオが部屋に入って来た。
菫色の瞳をまん丸く開けて、いつもと違う部屋をキョロキョロと見回す。
「お誕生日おめでとう、レオ」
「これからもずっとよろしくね」
「すごい!ねえ!ケーキがある!それにプレゼントも!」
「このケーキはお母さんが作ったんだぞ」
「本当に!?本当!?ありがとうお母さん!」
レオがトリーシャにギュッとしがみ付く。
「レオが喜んでくれたなら嬉しいわ。
使用人の人達も、習い事の先生達も、全員がレオの6歳のお祝いを手伝ってくれたのよ。
みんなレオが大好きなの。
それをずっと忘れないでね」
現在とはだいぶかけ離れて来たが、原作のレオはその姿から周りと溶け込めずに、距離を取られて寂しい思いをして幼少期を過ごす。
これからもきっと嫌なことを言う人はいくらでも現れるだろう。
だからこそ、味方がちゃんといるんだということを覚えておいて欲しい。
「うん……わかった。
お母さんも僕がずっとお母さんのこと大好きなの覚えておいてね」
「さあ、さっそくケーキを食べなさい!
お母さんが頑張っていたんだ!」
空気が微妙に読めないセオドアがレオを急かす。
「私もまだ食べてないんだ!早く食べよう!」
セオドアは自分が食べたいだけのようだった。
「うん!食べよう!」
ケーキは二人に好評いただけて、誕生会は大成功だった。
セオドアの用意したおもちゃは包みを開くのが途中で面倒臭くなったレオの依頼で、家族使用人総出で開封した。
思った通りに女の子向けも含まれて、おもちゃ屋一軒丸々買い占めたのは間違いなさそうだ。
レオははしゃぎ過ぎたのか、いつもより早くに眠りについた。おもちゃをベッドに大量に並べて寝返りを打つスペースも無いが、今日ぐらいは大目に見ておこう。
猫のぬいぐるみをしっかり抱きしめている……と思ったが、我が家の猫のボスであるタマだった。
クロもよく見たら近くで丸まっていた。完全に闇に同化してる。シロは……白いウサギのぬいぐるみと同化してた。ステルス性能が高いわね。
レオの幸せそうな寝顔を確認して、そっと子供部屋を後にする。
「レオは本当に喜んでいましたね」
セオドアがトリーシャを労るように声を掛けて来た。
「貴方のおもちゃも半ば予想は出来ていましたが、すごい量でびっくりしましたよ」
「私は……口下手なので、とにかく行動や物で気持ちを示さないとと思いまして。
それで……貴女にもプレゼントを買ったんです」
セオドアがトリーシャに綺麗に包装された箱を手渡した。
「……私の誕生日には随分早いですよ」
「レオの親族含めた誕生会の際に身につけて欲しくて」
箱を開けると、中からはトリーシャの瞳の色によく似た宝石の美しいネックレスが出てきた。
「綺麗……」
トリーシャは思わず呟いた。
「付けてみてください。……いや、付けてあげます」
トリーシャは言われるがまま、そっと髪を持ち上げて首を晒す。
「……どうかしら?」
「よくお似合いです。完璧です」
セオドアはまじめ腐った顔でそう言った。
「ありがとう……今年は壁の花にはならずにすみそうだから良かった」
「壁の花なんて……貴女は主役です。
私にとってはいつだって」
セオドアが真っ直ぐにトリーシャの瞳を見つめてくる。
今日はベールを付けていない。
「嬉しいけど、レオの誕生日はレオが主役ですからね」
念のために釘を刺しておく。
レオが一番だ。レオを育てるための二人の婚約である事は忘れてはいけない。
「……主役は二人いても良くないですか?」
「なら、三人いても良いんじゃない?貴方も主役で」
「そうですね。家族三人いつまでも…………。
いや、そのうち増えることもあり得るのか……」
セオドアがボソリと呟く。
「……?……!?わ、私もう先に寝ますから、おやすみなさい!」
意味がわかってちょっと恥ずかしくなったので、トリーシャは逃げた。
結婚したらそりゃあ考えないといけない問題だけど、レオのこともあるから慎重に考えたいところだ。
……レオは普通に喜びそうだけど、いや、でもまだ早い!まだ結婚してないんだから!
トリーシャは問題を先送りにした。
そして中々寝付けなくて困った。
ฅ^•ω•^ฅ ฅ^•ω•^ฅ ฅ^•ω•^ฅ
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