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見た目は抜群なのに趣味がアレな女と、その良き理解者の男のお話

作者: 下菊みこと

「お嬢様、よろしければこちらのお花をお納めください」


そう言って男が差し出したのは、この国では珍しいバラの花。一体どこから入手したのか。手に入れるのも難しかろうに、この男はその手間を考えても私に花を与えることを優先したのだ。


優しくて、少し不器用な可愛い男。見た目もそれなりだし、私にとってはお気に入りと言える。陽の光を浴びることができないからと屋敷の奥に隠れる私のために、ここまでしてくれるのは彼くらいのものだった。


「こんなに優しくしていただけて嬉しいです。けれど、私ではなにもお返しできなくて…」


健気に見えるようにそう呟けば、彼は慌てる。


「そのようなつもりで差し上げたのではありません。どうか、喜ぶ顔を見せてください。それだけで僕には十分なのです」


そう言って私の顔を上げさせた男に満足して、バラを受け取る。彼にとって私は、外には決して出られない籠の鳥。繊細で美しい華。たとえば、そんなものがまやかしだと知ったとしたら彼はどう反応するのだろうか。


「僕は…正直神が憎い。あなたの様な素敵な方から、陽の光を浴びる機会を奪うだなんて」


「そうして貴方様が憤ってくださるのなら、それだけで私は十分です」


この純粋な男は酷く愛らしくて、私はついつい彼を特別扱いしてしまう。そして彼自身それをわかっているはずだ。その上でお互い言葉にはしない。このやりとりでお互いに十分だから。


「どうか、そのお身体がもう少し丈夫になりますように。その暁には、二人で花畑にでも出かけたいですね」


「まあ、素敵ですね。早く、もっと丈夫になれると良いのだけど」


「また今度、薬湯などを持ってきます。すぐに良くなります。きっと…」


すぐに良くなる、なんて。なんの保証もないのに、酷い人。けれど、その残酷な優しさも私は大好きなのだ。


「…そろそろ仕事に戻らなければ。また来ます、お嬢様。どうか、お身体を大事にしてくださいね」


「ふふ、はい」


「同じ屋敷内にいるはずなのに、お会い出来ない時間がとても苦しい…でも、お嬢様のためと思えば頑張れます。それでは」


なんて口が上手い男だろうか。そんなところが好きだなと思いつつ背中を見送った。


もらったバラをどうしようかと思い、とりあえず花瓶を取り出して部屋に飾ってみる。


少しだけ華やかになった部屋に満足して頷いていると、部屋に幼馴染兼この屋敷の当主が入ってきた。


「やあ、今日も使用人との密会は楽しかったかい?」


「あれ?今日彼が来るって知ってたの?」


「いや?彼がルンルン気分で仕事をしているのを見てなんとなく」


「なるほど」


「使用人を誑し込むなんて、悪い子だね?」


にやにやと笑いながらそう言う幼馴染に笑う。彼は全部知っている。私がわざと病弱設定を守っていることも、それを使って彼を誑かしていることも。


「だって、可愛いんだもの」


「別に責めてはいないさ。君の性格なんて昔から把握しているし、その上で屋敷に招いたのだから」


彼は私がお姫様ムーブをすることやちやほやされるのが好きなのをわかった上で、貧しい私の両親に金を払って私を屋敷に招いた。


しかも、だからといって私にお手付きしたりしない。これでも傾国の美女と言って差し支えない美貌だと言われているのだけど、この幼馴染は決して私に手は出さない。


「だけれど彼には少しだけ同情するよ。悪い男ではないが、女の趣味は最悪だ」


「ふふ、私もそう思う」


陽の光を浴びれないとは言ったが、実際は肌を焼いたり紫外線を浴びたりしたくないだけ。


病弱とは言うが、実際は陽の光を浴びない不健康な生活習慣が祟っているだけ。


全部ただの自業自得である。


まあ、そんな私たちを観察した上で止めもしないお前も大して変わらんと言いたいのはここだけの話である。














オレの可愛い幼馴染は、ちょっとだけ変わっている。


貧しい生まれのくせに、いやだからだろうか。その美貌を活かして幼い頃からお姫様ムーブをしている。


周りの男にちやほやされて、貢がれて、貢がれたもので食い繫いだりおしゃれをしていた。


オレもそんなわがまま女の虜になった一人だが、表には出さない。


好意がバレて仕舞えば、幼馴染ではなく捕食対象に変わってしまう。


幼馴染という特別な立ち位置を失うくらいなら、手元に置いて可愛がるだけで済ますのがいい。


「彼女の美貌を利用して成り上がろうと、彼女を金持ちの後妻に送り込もうとした彼女の両親には手切れ金を渡した。そして可哀想な女の子だからという名目で屋敷の奥に囲った。手は出していないし、これからもそういう意味で触れる気は一切ないけれど」


そして、オレは親戚から優秀な子供を養子にもらって後継として教育している。


とても優秀な子だから、将来オレがお爺ちゃんになって代を譲る頃には安心して家を任せられるだろう。


彼女は一生結婚なんて望まないだろうし、オレもそう。


そしてお互いにとってお互いは特別。


オレはこれで満足だ。


「けれど、あの使用人はいい加減邪魔だなぁ」


彼女の一番のお気に入りというのが気に入らない。


もう少ししたら、適当に理由をつけてお暇を与えよう。


もちろん、理不尽だとは思うから退職金は弾むし紹介状も書いてやるが。


「彼女は勝手なことをしたと怒るかな」


怒った彼女も可愛いから、それもいいかもしれない。


普段は穏やかに振る舞うから、あまり怒った顔も見せてくれないし。


そうと決まれば彼を解雇する準備をしようと、オレはウッキウキで準備を始めた。


後日、彼の解雇を知った彼女が頬を膨らませてむすっとしてくれるのを見てますます可愛くて癒されたのはここだけの話である。

神の子扱いされている優しい義兄に気を遣ってたら、なんか執着されていました


という連載小説を掲載しております。完結済みです!よろしければご覧ください!


あと


美しき妖獣の花嫁となった


という連載も掲載しております!


よろしければお付き合いください!


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