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第9話

 目が覚めると石造りの天井が目に入った。奈々がここまで運んでくれたと容易に想像することができた。


 仁成は体の気怠さを覚えながらも、奈々にお礼を言おうとふらつく足取りを我慢しながら奈々の部屋まで歩いて行った。


 ずっと緊張した状態で、体も動かしすぎたのが原因なのか全身がひどい筋肉痛だ。仁成はあまりのきつさに吐き気を覚えうずくまっていると、奈々が濡れタオルを持ってこちらへきた。


 奈々は、仁成がうずくまっているのを見るとすぐに駆け寄って手を取り、ベッドに誘導した。


 そして、仁成を横に寝かせて、持ってきたタオルを頭に乗せた。


「仁成は3日も寝てたんだよ。それにひどい熱も出してるし、とりあえず治るまでは私が看病してあげるから絶対安静にしておいてね!」


 どうやら3日間も気を失っていたようだ。それに今思えばこの気怠さも筋肉痛というよりも熱が出て体が重いというほうがしっくりくる。


 仁成は目が覚めたばかりで自分とまわりの状況をうまくつかめていなかったが、次第に眠っていた脳も活性化されてきた。


「3日間も迷惑かけたな。ごめん。」


 仁成は自分が寝ている間、世話をかけてしまったことを謝ると、奈々は少しだけむっとした表情になった。


「私は『ごめん』よりも『ありがとう』のほうが聞きたいな。」


 確かにせっかく助けてくれたのにありがとうもないのはよくないな。そう思った仁成は素直にお礼を言うことにした。

 

「そうだな。世話をしてくれてありがとう。おかげで助かったよ。」


「うん!どういたしまして。私もあの時は助けに来てくれてありがとう!めちゃくちゃかっこよかったよ!」


 奈々は『ありがとう』を聞けて満足した様子で、仁成が助けに来てくれたことにお礼を言ったが、次第に恥ずかしくなったのかすぐに後ろを振り向いて「ご飯持ってくるね」と言い、そそくさと部屋から出て行ってしまった。


 仁成はほんの一瞬だけ赤面した奈々の顔が見え、偽りのない心からの言葉だと想像すると、うれしくあると同時にあそこまで直球の好意を向けられたことに対してむず痒さを覚えた。


 あの言葉の真意は何なのか、好意を向けられているのか否かが気になり、仁成は布団をかぶり、脳みそをフルで活用して思考し続けた。


 結局答えには行きつくことができず、何なら頭痛もひどくなってきたため一度思考を放棄することにした。


 大体5分ほどして奈々は干し肉を持って部屋に戻ってきた。


「この3日間の間で作れるだけ作ってみたんだ。口に合うかはわかんないけど食べられないほどじゃないから、はい、あ~ん。」


 延ばされる手に少しだけ恥じらいを持ったあ~ん。出された干し肉を前に仁成は少し考えたあと、素直に食べた。


 仁成は自分が作ったものよりもはるかにおいしく感じた。奈々は10枚ほど持ってきており、仁成はそのすべてを『あ~ん』という声の元食べていった。


 途中あまりの恥ずかしさに自分で食べると申し出たが即却下された。仁成は干し肉を食べ終わった後、奈々に早く体調を治すように眠るように言われ、再び眠りにつこうとした。しかし、3日間眠りについていたのもあって、全くと言っていいほど眠気は感じられない。体調も万全まではいかないがたまにはこういう日があってもいいだろうと今日一日をとことん休むと決めた。というわけで俺の部屋から一向に出ようとしない奈々に自分が気を失った後のことを聞いてみた。


「仁成が気を失った後のこと?連れて帰って、においがひどかったから脱がせて体拭いて、干し肉作りの続きをしたくらいだよ。」


 奈々がしれっと無視できない発言をしたことを仁成は見逃さなかった。


 「え、服を脱がしたって、俺の?」


「ん?そうだけど?だって亀の血を全身に浴びてたんだよ?ほんとは仁成が寝ている間に川にでも投げ込んでやろうかって思ったけど色々大変だったから。」


 仁成は寝てる間に殺されそうだったのも驚きだが、それよりも重大なことがまだあった。

 

「じゃあ俺は見られたってことか?」


 「見たって?ああ、裸見られたってこと?大丈夫、シャツとズボンしか脱がしてないよ!」


 それならまあ、大丈夫か。と一瞬思った仁成だがズボンの下に本来履いているものの気配はなく、恐る恐る中を確認したところ、自分が今ノーパンの状態だったとはっきりと確認することができた。


「お前全然余裕で見てるだろ!百歩譲ってみられるのは致し方ないとしても、隠すことはないだろ!」


 「だってズボン脱がしたら出てくるとか思ってなかったんだもん!大体なんでパンツ履いてないの?そっちが悪いじゃん!」

 

 奈々は先ほどシャツとズボンしか脱がしてないと若干遠い言い回しをしていた。仁成はそこに違和感を感じ問いただすとどうやら脱がした拍子にそのまま見てしまったらしい。


 どれだけ文句を言おうともパンツをはいていなかった仁成が悪いのは明白だった。当然、奈々からものの見事な正論をぶちかまされ、仁成は黙るほかなかった。


「わかったよ。今度からちゃんと履くよ。」


 この話を広げても結局傷つくのは俺なのできちんと謝っておいた。結局なぜ隠そうとしたのかは謎のままなのだが、まあ彼女のやさしさということにしておこう。


 仁成はそこで会話が止まると多分長い期間忘れられない悲しい思い出となってしまう。そう思ったため無理にでも話題を変えようと仁成が亀に対抗できた『吸血剣』の話を始めた。


「そ、そういえば奈々に借りた『吸血剣』、あれものすごい役に立ってくれたぞ!ありがとうな。」


 剣1本を借りただけでも小さい亀を6匹も一人で倒すことができた。逃げるか食われるかの二択しかなかった仁成にとって第3の倒すという選択肢を、勇気をくれたことに対してお礼を言いたかった。


 素直に感謝を述べる仁成だが、奈々は何となく歯切れの悪いようだった。


「あの剣、大丈夫かなって思って渡したけど実は私のスキルの中にあるやつでも真ん中くらいに危険な武器なんだよね。使えば使うほど血を吸われるから見た瞬間すぐにわかってすごい申し訳なかったんだよね。」


 奈々は続けて『吸血剣』は血を際限なく吸って血を吸えば吸うほど強くなる剣ということと、切った瞬間から血管を切り口に付着させて永遠と血を流させるという2つの能力があるということを教えてくれた。奈々いわく、強力であったり、複数の能力を持つ剣はかなりの制約や代償が発生するとのこと。


 使えば使うほど血を抜かれて、やがて死に絶えてしまうというのはほかの人にとっては確かに驚異的は代償だ。しかし死んだとしても復活する仁成に関して言えば大した代償ではない。


 仁成は、まさに俺のためにあるような剣だと思い、奈々にこの剣を使ってもいいか、相談を持ち掛けたがこれもなんだか歯切れの悪い返事をした。


「う~ん。多分だけど探したらもっと仁成にあう剣があるはずなんだよね。……よし!明日か明後日か、仁成の体調がよくなったら武器を探そう!そうと決まれば準備が必要だから、私は席を外すね。ちゃんと安静にするんだよ~。」


 こうして仁成は次の日に体調が回復すると同時に、S級スキルの本気を見ることとなる。

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