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第8話

 見えている範囲で5匹の亀が俺に向かってきている。とりあえず他と離れている亀を集中的に狙いを定めた。


「食らいやがれ!」


 勢いよく向かってくる巨体をぎりぎりでかわしながら、仁成は亀の右足に傷をつけることができた。


 致命傷にもなりえない小さい傷ではあるが、血は止まることなく流れ続けた。目に見えて足が遅くなった奴に向かってもう2、3度傷をつけ、動きが鈍くなったところで残りの4匹のほうへ視線を動かした。


「残りは右に3匹と左に1匹か。」


 左に関してはさっきと同じようにすれば何とかなると思うが問題は右の3匹だ。連携が脅威というわけではないが工夫をしないと攻撃にあたって、1発でお陀仏になってしまう。


 左の亀に向かって行って同じように傷をつける。今回はうまくいって顔に傷をつけることができた。


 追撃をしようと思ったが亀は暴れまわって近づくことができない。砂埃も宙に舞って、視界も悪くなってきた。


 一度体勢を立て直そうと後ろを振り向いた瞬間、横から大きな衝撃が走った。


「……6匹目!」


 完全に見落としていた。幸いにも亀がいない方向に飛ばされたが、それでも左腕に鋭い痛みが走る。


 仁成が痛みに悶えている間も亀は容赦なく襲い掛かってくる。何とか痛みに耐え、その場から脱出することができた。


 木の陰に隠れて呼吸を整えようとするが、痛みは胸にまで響いてうまく呼吸ができない。


「死なないと傷が治らないの本当に嫌なスキルだな。」

 

 仁成は意を決して『吸血剣』で自分の喉を掻っ切る。そしてそのまま痛みを感じることもなく絶命した。


 絶命した後は骨折した左腕もろとも喉の傷もきれいさっぱり元通りとなって、意識が戻っていく。いつまでたっても慣れないいやな感覚を感じながらもどうにか亀を倒せないか考える。


「後ろから奇襲をすれば3体のうち1体、もしくは2体は傷をつけることができるかもしれない。」


 問題はその奇襲が1回きりだということだ。失敗すれば再び亀に食べられ続けられる運命が待っているだろう。それでも、迷っている時間なんてない。


 仁成は亀がこちらに背を向けた瞬間を見計らって素早く行動し狙い通り2匹に傷をつけることに成功した。


「よし!」


 あとは時間さえかかれば最低でも2匹は倒すことが出来る。あと2匹と勝てると思っていた仁成だったが、そんな仁成を脅威と感じたのか一目散に逃げていった。


 奈々からたまたま状況を打破するに相応しい剣を受け取っていたとはいえ1人で亀の脅威に対抗できたのはとてつもない進歩だ。仁成は心を落ち着かせた後、洞窟まで戻って行った。


道中亀と鉢合わせるのではないかと細心の注意を払っていたが、足音は依然とするものの亀と会うことなくすんなりと洞窟まで避難することが出来た。


無事では済まなかったものの戻って来れたことに安堵していたがそうすると次は奈々のことが心配になってくる。



 どうしようか迷っていると外で一際大きな声が聞こえてきた。慌てて外を見ると、かなり遠くにいるものの先程の亀とは比べ物にならないほどの大きさの亀が後ろを向いていた。その亀は何者かと戦っているようで、それが奈々だと考えるのに時間は要さなかった。


「助けなきゃ!」


 別に奈々が負けるとは思っていない。しかし、亀を倒すのに苦戦しているのは間違いないので、どんなに小さなことでも奈々の役に立てるならそれで良かった。


 仁成は剣を握りしめ再び洞窟の外へと飛び出し、川の方向へ走り出した。地面は穴が沢山空いており、川に行くだけでもいつもよりも時間がかかった。


 やっとの思いで川の近くに着くと、予想通り奈々が巨大な亀と戦っているのを確認することが出来た。


 仁成は捨て身覚悟で左右に激しく動いている尻尾に向かって近づき、剣で傷を付けようとした。


「かってぇ!」


 上手く狙いを定めることは出来たが皮膚が厚すぎて刃が入らなかった。大きな隙を見せてしまい仁成は尻尾に弾き飛ばされてしまった。


 通常では有り得ないほどの高さまで飛ばされ、落下死までのカウントダウンが始まった。


 地面と衝突すると思われたが寸前で奈々が助けることに成功した。


「なんでここにいるの!?洞窟に居て良かったのに!」


「君が苦戦しているようだったから手助けに来てやったんだよ。」


「冗談。でも、ありがとう。」


 奈々は驚いた様子ではあったが、単純に戦略に幅が広がったことを嬉しく思った。


 奈々は、仁成に剣を返すように言い、返してもらうと同時に新しく長い槍を渡した。


「その槍は絶対に突き刺さる槍!投げても絶対に刺さってくれるから喉元を狙って!私がその後これをぶつけるから!」


 笑顔で奈々と同じ位の大きさのハンマーを軽々しく持ち上げて振り回した。


「なるほど。パイルバンカーの要領で首を叩き落とすってことか。合図は?」


「要らない!⋯⋯いややっぱ投げる時教えて!」


 言われた通り、首に刺されと念じながら出せる力を振り絞って槍を投げる。この距離じゃ刺さっているのかどうかは分からないが苦しんでいるところを見るにしっかりと刺さっているはずだ。仁成は投げたことを伝えると、奈々は近くの木を利用して空に駆け上がった。


「くらええええええええええええ!」


 気合いの入った一撃は亀の喉元に狙いを定め、数秒後に轟音と共に亀の首は地面に落ちた。


「やったああああああああ!」


 狙い通りに亀を倒すことができ、奈々は喜びながら仁成に抱きつこうとした。仁成もこれまでにない強敵を倒せたことで喜んでいたが、直ぐに体に限界が来てしまい、そのまま眠るように倒れ込んでしまった。

 

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