表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

第7話

 あんなことをされては、まともに寝ることができるわけもなく、気づいた時には太陽が真上に上っていた。


 近日中には『霊亀の森』を攻略するのだ。その一歩といえる今日がこの調子では先行きが大変怪しい。


「あ、やっと起きた。いくらなんでも遅くな~い?」


「誰のせいだと思ってんだよ。いや起きなかったのは申し訳ない。」


 仁成が起きたのに気付いた奈々は大きな袋をその場において仁成のほうに向かっていった。袋についた赤黒いシミを見る限り狩りをした模様だ。


「意外と動物もいてびっくりだよ。いや、そういえば干し肉とかあったね。それより解体手伝ってくれる?解体はスキルで簡単にできるけどそれ以外は時間がだいぶかかるんだよね。はいこれ。」


 奈々は1本の短剣を渡してきた。全体的に赤く血管のようなものが浮き出て大変気味が悪い剣だ。


「その剣は『吸血剣』。刺した対象の血をなくなるまで吸い続ける剣だよ。ついでに切られたら血が止まらなくなるとかいう能力もあるから扱いには気を付けてね。あ~気持ちわるい。鳥肌立ってきた。刺すだけで後は放置でいいから私に見えないところでやってきてね。じゃあ私は水浴びてくるから、暇だからって言って覗きに来たりしないでよ?」

 

 軽口をたたきながらも奈々は袋から中身を取り出した。亀と比べたらそうでもないが十分なほどに大きいイノシシが2匹、姿を現した。

 

 奈々は、後は任せたといい川の方面に歩いて行った。彼女の姿が見えなくなるまで見送った後は言われたとおり、イノシシの一匹に先ほどの剣を突き刺した。


 その瞬間血管が脈打ち、血を吸っているのが目に見えた。


「奈々は気持ち悪いって言ってたから身構えてたけど意外と面白いな。」

 

 謎の中毒性がありじっと眺めていたが大体15分ほど経った頃、脈が止まって血を完全に吸い上げたと分かった。2匹目も同じように突き刺したが1分ほど経って剣を抜こうとした。剣がどうやって血を吸っているのかが気になったのだ。結果として後悔した。たぶん彼女もこれを見たのだろう。


 剣は途中までしか抜けず仕方なく隙間を覗いてみると無数の細い血管がイノシシの肉に入り込んでいるのが見えた。そこから体毛でよく見えていなかったがイノシシの表面が死肉に群がる蛆虫のように蠢いているのが見えてしまった。


「きもすぎだろ。見なきゃよかった。」


 結局剣が血を抜き終わるまで若干離れたところで見守ることにした。


 血抜きが終わったら剣を抜いて、わかりやすい少し遠くのほうにおいてから、肉を焼くための木材を探しに出かけた。


 残念なら松ぼっくりなど燃やすのに便利なものは落ちていなかったがそれでも1時間ほどで十分な木の枝を集めることができた。仁成は奈々が戻ってきていて自分を待っているかもしれないと思い駆け足で洞窟の前に戻ってきたが彼女の姿はまだなかった。


 奈々が戻るまでゆっくりしようかと思ったその時すぐ前で大きな音がしたかと思えば目の前に亀が現れた。甲羅の上には木が生えておらず亀の中でも不完全体の個体のようだ。


 稀にこういった個体は存在するがそのどれもが普通よりも小さく弱弱しく見える。ただ弱いといってもほとんど丸腰の仁成は戦って勝てるはずもなく、洞窟に逃げ込もうとする。


「くそっ。塞がれた!」


 洞窟のすぐ前に通常の亀が1匹現れ、さっきの個体が後ろをすぐついてきている。あたりも地響きが鳴り始めており、ほかの亀が現れるのも時間の問題となってしまう。


 仁成はどうにかしてこの状況を抜け出せないかを逃げながら考える。亀は、動きは遅くてもその数をどんどん増やしており、すでに仁成の後ろには5匹の亀が追ってきている。


「くそっ、どんどん増えてきてやがる。早く洞窟の中に逃げ込まねえと。奈々は大丈夫なのか?」


 おそらく異変は察知しているだろうし、俺と違って亀を倒せるスキルを持っている。彼女のことは心配しつつも亀を巻いて洞窟のほうへ逃げ込む。


 うそだろ!?何で洞窟の前にこんな亀たちがいるんがよ!


 いくらなんでもおかしい。前まではこんな知能を見せることはなかった。しかし今は、俺をしっかりと狙っている。


 この山に初めて入った出来事を思い出す。数の暴力で身動きをとれなくした後にゆっくりと捕食される恐怖。生えた手足を片っ端から貪り食われる恐怖。いつ終わるかわからない恐怖。


 絶対につかまってはいけない。少なくとも奈々がこっちに来るまでは耐えるんだ。


 どうにか打開できないか、一矢報いる方法がないか考える。まだばれていないのが救いだがいずればれるのも時間の問題だ。


 今いる場所の近くにさっきの短剣が置いてあるのを発見した。


 取りに行くことは可能が、近くの亀には絶対にばれてしまう。戦う覚悟が俺にはあるのか。仁成は自問自答をする。


 相手は俺を食らったこともあるまさにトラウマといえる存在だ。そのトラウマから一生逃げて奈々が助けに来るのを待つか、トラウマを克服するため『吸血剣』を使って戦うか。前者を選ぶのは簡単でも、後者を選ぶのは相当な覚悟が必要だ。


 奈々の姿が脳裏に浮かんでくる。彼女からはいろんな勇気をもらっている。そろそろ自分で自立できるはずだ。


「いつまでたってもやられっぱなしでいるほど弱くねーんだよ。せっかく武器が有るんだから有効活用してやろうじゃねーか。」


 仁成は走って武器の元まで向かって行って、迷うことなくその剣を手に取った。亀はすでに気づいており、こちらへ向かってきている。


 仁成は「かかってこい」とだけ言い、近くまで寄ってきたトラウマ(かめ)めがけて剣をふるった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ