第6話
めっちゃ気まずい。眠れないし眠れるわけない。よくこんな状態であいつはぐっすりと眠れるな。
仁成はどうにか眠れるよう目だけは瞑っているが寝ようとすればするほど目は覚めてくる。
こういう時は眠くなるまで体を動かしているのだが今日はそれができない。仕方がないので羊を数えていたら急な尿意が仁成を襲った。
あ、ちょっとトイレ行きたくなったかも。水飲みすぎたか?別に我慢できないほどじゃないけど早め行っといたほうがいいか。
ベッドを抜けて外に……そ、外に……出られない!
奈々に腕をつかまれ抜け出そうにも抜け出せない。力を入れて強引に抜け出そうとしてもびくともしないどころか向こうも力入れてる気がする。
「あの~。起きてるなら起きてるで漏らすと後が大変になるので、すぐ戻るんでトイレ行かせてくれません?」
「すぅ……すぅ……ふふっ……すぅ……。」
あれ今笑わなかった?もしかして起きてる?
起きてるのか起きていないのか考えているとふと腕が軽くなった。
こいつ起きてるだろ!と、とりあえずトイレに急ごう。
仁成は急いで外に出て用を足した。そもそもそんなにギリギリな戦いでもなかったので漏らすことはなかった。
仁成はちょっとだけ夜風に当たって戻ろうとするとちょうど洞窟の入口で待つ奈々が見えた。
「なんだ?トイレならどこでもいいけどあんまり離れると危ないから気をつけて行けよ?」
「違う!待ってあげてたの!それに私はトイレに行ったことないから!」
仁成はそれはそれでどうなんだとは思ったが、心配して待ってくれたのは事実だったので素直に感謝を述べた。
奈々は「べ、別にあんたの為にした訳じゃないんだからね」とかいうド定番なツンデレをして、再び俺の部屋に戻っていった。
仁成もすぐ後を追って布団に戻り、再び静寂が辺りを覆った。
次第に眠気が現れた頃、横から「ねえ」と呼びかける声が聞こえた。
仁成は一気に眠たくなっており、返事はしなかった。そんなのもお構いなしで奈々はひとりでに話を始めた。
「私はね。今日は本当にうれしかったんだよ。こんな世界になって、日本を彷徨うことになって始めのほうは人をたくさん見かけていた。けれども、1年、2年、時間がたてばたつほどその数は減っていって代わりに動かなくなった人たちが増えていった。ほとんどの死体は木の下に多くあった。この意味が分かる?」
「自殺だよ。これから地獄を見るなら先に死んじゃえって思ったんだろうね。私は正しいとも思うし正しくないとも思ってる。平和だった国が、死への恐怖が極限まで抑えられていた国の民衆が命を軽々しく投げ出す。そんな世界が大嫌いだ。」
「だから私はこの与えられた力でダンジョンを攻略する。元の平和な日常に戻すんだよ。」
俺は彼女が話している間に口を挟むことは無かった。一切の反応がなくても彼女は俺が聞いていると信じて話し続けた。これは否定も肯定も求めていないただの愚痴であり、彼女の決意でもある。
仁成は目を開け、彼女の方に振り向いた。そして、奈々と同じように愚痴をこぼした。
「俺は死の恐怖は感じても死に向かうことは出来ない。なぜなら不死のスキルがあるからな。少し前までは大いに喜んだそれも今の世界に変わっては呪いとしか思えなかった。この呪いが役に立つのなら俺はお前について行ってやるよ。何年かかるかは分からんがな。」
次第にふたりの距離は縮まっていって、あと少し近づけば触れ合う距離となる。
「ヤる?」
たった2文字。それだけでも心臓が弾け飛びそうなのは言うまでもない。
「私は覚悟は出来てるよ。」
近づいた距離を元に戻して彼女ははにかむ。
「喜んで、と答えたい気持ちでいっぱいなんだが今やると戻れなくなるのが怖いんだよな。」
もしこの話を誰かにすれば、意気地無し、度胸のない玉無しと散々罵られるだろうな。それでも今はお互いを信じることが出来ただけ十分だ。
「確かに、このままここで暮らそうってなったら私たちの気持ちが無駄になっちゃうもんね。よし、このダンジョンを攻略したら、にしよう。その方が仁成も頑張れるでしょ。今日はこれで我慢してあげる。」
仁成の唇に柔らかいものが押し当てられる。それが何か理解する前に彼女は「おやすみ!」と言って後ろを振り向いてしまった。