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第5話

 今後の方針を決めた時点で辺りは暗くなり始めていた。大体昼くらいに初めて出会って、互いのことや作戦について話していたので当然といえば当然だ。


 あたりが暗くなって危ないというのもそうだが、せっかくの仲間を出ていけと追い出すのも気が引けるので、仁成は暇なときに掘り進めてずっと使わずじまいだった部屋を1つ貸すことにした。


「とりあえずしばらくはこの部屋で我慢してくれ。大体自由にしてもいいけど洞窟が壊れることだけはするなよ?俺の部屋は、入り口から4番目のところだからなんかあったらすぐに呼べよ~。」


 そういって仁成は自分の部屋に戻ろうとする。重くのしかかってきた瞼をこすりながら後ろに振り向いた。――瞬間甲高い音が洞窟内に響いた。あまりにも急な音に仁成はびっくりし、飛び跳ねてしまった。

 

「うおおおい!さっき洞窟壊すなって言ったのに何でもう……って何だこれ?」


 見てみると見渡す限り土で囲まれた部屋だったはずの部屋の一部が石レンガに変化していた。部屋を掘っていくときにこんなものはなかったので十中八九奈々がやったのだろう。


 原因である彼女を見てみるとその手には金槌が握られており、こちらの視線に気が付くと彼女は一瞬こっちを見たが再び視線を戻し、勢いよく金槌を振り下ろした。


 再び甲高い音が聞こえたかと思うと二度三度と続けて音が鳴った。あっという間に天井以外が石に変化した。


 仁成が驚き立ち尽くしていると奈々はこっちに来るように手招きをし、しゃがむように指示をした。


「なんでこんな天井が高いのよ。ジャンプしても届かないから肩を貸して。」


 暖かいぬくもりが仁成の首筋を這う。まさかの行動におそらく今日一番の驚きをしたと思う。


 しかし、そんな仁成に気付くことはなく、彼女は一心不乱にあっち行けこっち行けと指示を出している。仁成は激しく鼓動する心臓を無理やり落ち着かせ、彼女の指示通りに移動していった。


 天井が石で埋まったころには二人とも息は荒く、すごい熱気が洞窟の中を満たしていく。


「はあはあ……。なんでいきなり部屋中を石にしたんだよ。後……それなに……。」


「それより……水……ないの……?もう無理……動けない。」


 二人ともつかれて呂律が回っていない。仕方がないのでまだかろうじて動ける仁成が奥のほうから保存しておいた水を持ってきた。


 奈々はペットボトルに入った水を仁成から半ば強引に取り上げた。それに対して仁成は焦ることなく、もう一方の手で持っていたペットボトルをあけ、勢いよく飲みだした。二人は勢いよく水を飲み干し、一息をついた。ある程度呼吸が整ったころ、奈々が説明を始めた。


「なんでってそりゃあ寝てる間に砂が落ちてきて口の中に入ったらいやじゃん。あと洞窟崩れたらいろいろめんどくさいからかな。後で仁成の部屋もやったげるよ。」


 口の中に砂が入るほうが生き埋めよりいやなことあるんだと思ったが、それよりもまた肩車をするとなると今度こそ俺の身が持たなくなる。


 ダメもとで俺がその金槌を使えないのか聞いたところ奈々は「その手があったか!確かに仁成に任せればいいじゃん。」といい、金槌を投げ渡してきた。


 危ないなと思いながらもしっかりと落とすことなく金槌をキャッチした。改めて近くで見ても平凡な金槌にしか見えないださっきのを見てからだとなんかとんでもない代物だと期待せざるを得ない。

 

「あ、そうだ。その金槌の詳細だったね。その金槌は私のおすすめサバイバルキットの1つ、『天津の金槌』。能力は簡単な物質変換。分かりやすい例えでいくと、さっきの土を石とか泥とかには変換できるけど、ダイヤモンド作れないって感じ。大した能力じゃないからかほとんど制限がなくても使える優れもの。慣れてくるとこういう石造りの壁にも変化できるから、頑張って挑戦してみてね~。」


 一通りの説明を終えたら、奈々は着替えるから部屋から出てってというので、仁成は金槌を持って自分の部屋に戻った。自室に戻ってすぐ金槌を使った。奈々がやったように見様見真似で壁を石に変化させたはいいがよく見てみるとでこぼこしていて少し不格好だ。天井や壁ならまだいいが床はちゃんとしたい。


 明日金槌を返すついでに床をやってもらおう。別に最低限暮らせればそれでいいし、なんかそういうアートだといえばアートになるだろう。


 それにしても今日一日は本当にすごい日だった。こんな世界になって初めて俺以外の人間と出会った。全然厄日なんかではなくただ単に運が収束していっただけだった。


 足音がする。おそらく奈々だろう。起きないと。

 

 半分寝ている脳に目を覚ますように言い聞かせ足音を待つ。ここで足音の正体は奈々じゃない――というわけもなく普通に奈々だった。


「あ~、なんかあったのか?」


 彼女は聞こえていないのか返事をすることなく仁成の部屋に入っては、適当に作ったベッドの中に入っていった。


 それから彼女は蠱惑的に笑みを浮かべた。


 「今日は、一緒に寝よう。ベッドも何にもなくて眠れないから仕方なくだよ。」


 そういえばすっかり忘れていた。いやいやそれにしてもいささか状況がよろしくない。


 さすがにそんな勇気を仁成は持っていない。今からベッドを作ろうと提案したが危険だからと当然のように却下された。どうやら彼女は二人で寝ること以外を許さないようだ。


 仁成にとって最も眠れない夜が始まった。

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