第4話
二人は握手を交わした後、すぐに『霊亀の森』攻略の作戦会議を始めた。
「まずは南さんのスキルを教えてもらってもいいですか?」
いろいろあったが仁成は出会う直前に彼女がC級のモンスターを吹き飛ばしていることをしっかりと覚えている。確実に自分よりも格上だ。
「せっかく仲間になったんだから奈々って気軽に呼んでよ。ま、それはそれとしてスキルだったね。ランクは特S級、スキル名は『戦乙女の鳥籠』。よくわかんないと思うけど簡単に言えば武器庫。ただ1つ1つの武器がすごくて、1つの武器に対して固有の能力がついてるんだよね。」
日本唯一の特S級の覚醒者だった。まさか、そこまでの大物だと知らず仁成はその場で立ち尽くしてしまった。
「まあこういうのは聞くよりも見たほうが早いから。こっち来て!」
彼女はそう言って何もない空間から1つの青がかった片手剣を取り出した。それから仁成に対して外に来るように言ってきた。
「はい、それじゃあ実践して見せるね。ああ、もし当たったら痛いだろうから剣の間合いには入らないようにしてね。」
そう言って彼女は剣を腰に携え、抜刀の構えをした。あたりが静かになったころ、仁成に向かって静かに剣をふるった。
覚醒者になったころから剣を扱ってきた仁成だが、これほどまでに美しい一太刀を見たことがなかった。しかし次にやってきたのは恐怖。正直掠ってもおかしくないし、何なら今死んで復活したとしても何の違和感もないだろう。
仁成が顔をこわばらせて、奈々のほうに目をやると、彼女はにやりと笑い、一言だけ「凍れ」と言った。
仁成は何が起こったのか分からなかった。あっけにとられていると彼女が後ろのほうを指さしたのでそちらを見てみると、一本だけきれいに氷漬けになっていた。
「これがこの白銀の剣の効果。能力は「対象を定めてその方向に剣を振ると氷漬けになる。」ね。大きさに比例して待機時間は長くなっちゃうのと、決めた対象が凍り付くまでただの剣と変わらないのが弱点ね。」
ちなみに木1本を凍らせるのにかかる時間は10秒で亀1体だったら60秒はかかる。と彼女は言った。ここに剣を突き刺して凍れって言えば勝てると思ったがそう甘い話はないらしい。
「す、すごいな。これが日本唯一のS級の力か。それにしても俺に向かって剣をふるわなくてもよかったんじゃないか?」
今も足はがくがくふるえている。ひとまず足の震えが収まるまで心を落ち着かせた後、仁成は彼女に向かってにらみを利かせた。
しかし彼女は悪びれることもなく「離れてって言ったのに離れなかったそっちが悪いでしょ。」と反論してきた。
まあそれはそうだけどまさかこっちに向かって剣をふるうとか普通思わないだろと仁成はふてくされた。しかし、実際はケガもしていないのでひとまずは置いておいて彼女のスキルについて話を進めることにした。
「スキルで生み出せる武器って何種類ある?あとは同時に出せるのか知りたい。」
仁成は奈々のスキルについてほかにも気になることはあるが作戦を立てる上で重要そうな2つに絞って質問をした。武器が何種類もあれば作戦に幅が広がるのはもちろんだが複数使えるとなると攻略はさらに容易となるだろう。
「1つ目の質問については分からない。でも100本くらいはあると思っていいよ。2つ目の質問についてだけどこれは部分的にイエスだね。私と私が認めた人だけがそれぞれ1本だけ使えるよ。今だったら私と君だけだから最大2本までってこと。あ~でも渡した武器がちゃんと使えるかわかんないんだよね~。」
ダンジョンだったら問題なかったんだよね。と彼女は言った。奈々はこれまでも何回か試したことはあったが剣は扱うことができてもその能力はまったくもって発揮されなかったという。俺は彼女から『白銀の剣』を貸してもらい、彼女の真似をするように近くの木に狙いを定めて剣をふるった。
10秒後、仁成が「凍れ」というと、先ほどと同じように木が凍り付いた。
「やっぱり成功だな。特級なら問題ないってことか。」
「お~。すご~い。」
特級は外でもスキルを自由に扱うことができる。だったら剣の能力も扱うことができるんじゃないかと思ってやってみたら案の定できた。
仁成は自分がうまく扱えたことに軽く安堵し、これからの作戦を考えた。
「ひとまずいくつか作戦は考えた。1つ目が超ごり押しタイプだな。白銀の剣を使って凍るのを待つだったり、ほかの剣で山を上から削るとかだな。まあ全部が理想論になるだけだろうけどな。2つ目は亀の甲羅の隙間から入り込んで亀を直接討伐する方法。これも1つ目ほどではないにしてもごり押しだな。正攻法ともいえるが。」
1つ目についてはまず現実的じゃない。これは俺も彼女も一目で不可能だと判断したため却下した。
「本体がどのくらい大きいかはわからないけど凍りきるまでだったらざっと100年はかかると思っていいよ。ほかに方法がないわけじゃないけど多分最短でも50年はかかるね。2つ目もいいと思うけどそもそもこの亀の手足がどこにあるかまだ分かってないんだよ。そこで私からの提案なんだけど、この山の頂上に行かない?」
下にばっかり注目していたところ、まさかの頂上に行かないかとの提案。仁成は過去に1回上ったことがあるが酸素も薄いし、何にもなくただの達成感しか感じられなかった思いでしかなかった。
「頂上?1回だけなら行ったことあるけど。本当に何もなかったぞ。」
「この山って実は火山なのよね。今は眠ってるけどちょっとしたきっかけがあればすぐに噴火してくれると思うのよね。」
奈々は急にとんでもないことを言い出した。命の危機でもある状況でさらに自分たちを苦しめる作戦にさすがに飲めないと思ったところ、彼女が1本の刀身のない刀のようなものを取り出した。
「この剣は周囲の熱を吸収してそれを一気にぶっ放すっていうものなんだけど周りが熱ければ熱いほど威力もとんでもなくなるのよね。だから、私の作戦としてはこうよ。まず火山を噴火させる。そしていい感じのところで熱を吸収してどかーん!ね、わかりやすいでしょ。」
奈々の作戦は大まかであれど、ちゃんと詰めていけばあの巨大な亀をも倒せるものであった。
多少どころかとてつもない被害が周りに出るし、近くにいる俺たちは命の保証はできないだろう。彼女は火山の噴火くらいで死ぬようならS級じゃないと胸を張っているが死ぬ確率は極限まで落としたい。
「よし分かった。その作戦で行こう。ただこのままでは危険だし、運要素も強い。絶対に成功できるようにもうちょっと作戦を練っていこう。」