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第2話

『ダンジョン』


 100年前に突如として現れた、内部はありふれたゲームのような世界となっていて、恐ろしいモンスターも存在している摩訶不思議な存在だ。しかし、同時に『覚醒者』という自身に与えられたスキルを巧みに扱い、剣や魔法を用いてダンジョン内のモンスターと戦う者たちも現れた。


 スキルはダンジョンの中でしか使えないが稀にダンジョンの外でもスキルを使うことができる覚醒者も存在する。日本に10人にも満たないまさに選ばれし者といえる覚醒者のうちの一人が、今水遊びに夢中でパンツが飛ばされたことにも気づかなかった俺こと聖仁成なのだ。


 「ああ、後1枚になってしまった。パンツだけはいっぱい持ってきたのに。もうパンツをはくことすらできないのか。」


「今日はよくないことが起こりそうだな。」と思った瞬間、木々が揺れるほどの大きな足音が響いた。


 「ほんとに今日は厄日だな!食われる前に逃げないと。」


 仁成は過去にこの足音の主につかまって食べられた経験があるので、乾かしていた服すらおいてなりふり構わずに逃げた。足音の主はすぐそこまで来ており一度振り返ってみると背中に木を生やした亀が川の中に入っているのが見えた。


「さらば俺の服たち。あいつらがまた眠った後、すぐに見つけてやるからな。」


 おいていった服たちにそう誓って、俺は亀に見つからないようにそそくさと森の中に戻った。


 早めに気づけたおかげでさっきの亀以外のやつらと出会うことはなかったので一安心したが、それでもしばらくは外に出るのが難しくなった。また暇になるな。


 「は~あ、今日は最悪の一日だな。亀は出てくるは、パンツはどっかいくわ。今日はおとなしくするか。」


 服はしゃーない。だって間に合わないんだもん。亀とパンツのほうがショック。しばらくは我が家でも拡張するとしよう。


 ちなみに我が家と自称しているものはたまたまあった洞窟をいい感じに改造した、具体的に言えば横にいくつも穴をあけて部屋を作ったアリの巣みたいなものだ。


 「さあ今日で記念すべき8個目!張り切って掘っていきましょう!」


 木製のシャベルで壁の側面を丁寧に掘り進めていく。途中集めた水を飲んで休憩し、亀たちに見つからないように土を外に投げ出していく。大体半日ほどで10メートル程度掘り進めることができた。

 

 「いやあ頑張った頑張った。さて、飯でも食うか!」


 亀がいつ現れるかわからん以上常に干し肉をストックするのが賢い選択よ。最終手段使えば食料どころか水すら不必要になるけど、まだ食料には余裕がある。洞窟の中では火を起こせないので冷たいのを食べる羽目にはなるのだが仕方ないだろう。


「うへぇ。かった~。食えんこともないのがせめてもの救いか。それにしても今日はやけに静かだな。」


 いつもならドンドンととんでもない足音が鳴り響くのだが今日は不思議なことに全くと言っていいほど聞こえない。


 「今日はイレギュラーが起こるな~。もしかしてもう眠りに入ったか?」


 個体に差はあれど基本的に1週間程度で亀たちは全員が睡眠に入る。しかし、一日どころか半日でほとんど全員が睡眠に入るのはあまりにも異様だ。


「これは、複数の亀を圧倒できる上位の存在がこの近くにいると考えたほうがいいか?」


 これが一番納得できる理由だろうな。納得はしたくないけど。


 ここを捨て新しい安全な土地に移住するか。そう考えていると我が家の入り口で大きな音が聞こえてきた。


 「ひとまず奥のほうに避難しよう。なにが飛んできたかもついでに確認って木……いや亀の甲羅の上にあるやつか。あのでかい亀吹っ飛ばすとかやばすぎだろ。」


 まさか亀が飛んでくるとは思っておらず、あっけにとられていると外から「この洞窟、ようやく見つけた。」という声が聞こえてきた。


 とてもかわいらしい声ではあるが亀を吹き飛ばしたであろうやばい奴には変わらない。日本語を話せる知能の高いモンスターかもしれない。ここはばれないようにそーっと……。


「いるなら教えてよ。逃げるなんてひどいよ?」


「うわあああ!」

 

 気づいたらすぐ横にこちらをのぞき込んでくるかわいらしい少女が現れた。


 仁成はあまりの突然の出来事にその場でしりもちをついてしまった。そのことが面白かったようで、少女は大きく笑った。


「あはは。そこまで驚かなくていいのに。私の名前は南奈々(みなみなな)。よろしくね~。」


 南奈々と名乗った少女は自分に敵意がないことをアピールするかのように、胸の前で手をひらひらさせ、ポケットからあるものを取り出した。

 

「俺のパンツ!」


 まさかどっかにいって諦めたものをこんなところで見つかるなんて、思ってもない幸運だ。


 仁成は手を伸ばし奈々からパンツを取ろうとしたが、奈々はそれよりも早く手を引いた。


「おっと、危ない。それで、君の名前は?せっかく危険な目に遭いながらもここまで落とし物を届けてあげたんだから、まずは名乗ってもいいんじゃないですか?」


 奈々は、名乗らなかった仁成に、むっとした。そしてそのまま、じっと睨み続けた。


 仁成はしびれを切らしたのか、「はあ」とため息をつき、あーあーっと少ししゃべる練習をしてから名前を名乗った。


「お、俺は聖仁成。えっと、パンツを持ってきてくれてありがとう、ございます。」


 「うむ。仁成ね。よし、たぶん覚えた。私、人の名前覚えるの苦手なのよね~。はい、どうぞ。」


 名前を聞いたくせに忘れんなよ。とは思ったもののパンツを持ってきて、返してくれたことには感謝したい。


 奈々は1つの目的が済んだところで次の話をしようと近くの座れそうなところに座った。


「さて、では本題。ここにいるってことは特級のスキル持ちだと思うのだけれど、あってるかな?もしあってたらさ、ここ、『霊亀の森』を一緒に攻略しない?」

 

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