【帝国東京大学の卒業式】
この物語はフィクションであり、登場する組織や人物は実在のものとは一切関係ありません。また、物語には独特な考えが表れますが、これは物語を読みやすくするための要素であり、私個人の信念とは異なります。この点を理解いただいた上で、物語をお楽しみいただければ幸いです。
桜が舞い散る日のことだった。この日は帝国東京大学の卒業式である。モッカ帝国一の大学の卒業式ということもあり、軍のトップの関係者や帝王様が式に参列している。ウークは緊張している。なぜなら、この式の答辞を少しでも間違えれば、将校にはなれずに人として生きていけなくなるからだ。
「がんばれ。ウーク、お前ならできる…」
と胸に手を当て、震えながらウークはささやいた。壇上へ上がる道のりが沼にはまったかのように足が重たかった。壇上に上がると、帝王様はウークと目が合った。帝王様は何かを期待しているようにニコニコと笑っていた。そんな笑いが余計にウークを緊張させた。というよりもこの世のものではない生き物のような不気味さが感じられた。しかし、気のせいだとウーク自身の心に言い聞かせた。そして、震えた手でマイクを持ち、乾いた声で話し始めた。
「答辞…この素晴らしい日に皆様の前で卒業できることをうれしく思っています。私は最前線でこれから南の蛮族を蹴散らせるように皆様方を見習って頑張っていきたいと思います。モッカ神の名のもとに… 帝国東京大学 帝国特殊部隊学部 四年 ウーク」
と言い終わると会場内は大喝采だった。もちろん、帝王様は観客の誰よりもシンバルのような大きな音で拍手をしていた。しかし、ウークは緊張のせいで一語一語に言葉を詰まらせながら、新言語を話しているかのように答辞を終わらせた。
「なぜ、大喝采なのだ。完璧ではない答辞だぞ。俺は舌が回らなくて何を言っているのかさえも、自分でも分からなかったんだ。なぜだ。俺は完璧な人間ではなかった。なのに、俺は何でもできる人間だと高をくくっていた。」
この事がきっかけでウークは自分自身に自信を無くし、卒業式を抜けだした。初の失敗に泣いた。会場横のトイレの個室のなかで泣いた。トイレットペーパーで鼻を吹いた。涙が止まらなかった。自分という人間にウークは失望した。この先、何をしていいのか分からなかった。