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エド姉ちゃん出奔します ~姉妹の秘密~

この作品は、『アンジェ先生転勤します』の5000PV記念SSです。

https://ncode.syosetu.com/n7374hw/


※強度のブラコン要素を含みます。お子様やブラコンに弱い方、心臓の強くない方や運転中などはご遠慮ください

 神様、お願いします。次に生まれてくる赤ちゃんも女の子でお願いします。


 家族みんなは男子を希望してますが、男子なんてがさつでわがままなガキなだけなので要りません。お母様と一緒に行くお茶会に来ている男子なんか見てたら判ります。あんなのが家にいると思うだけで吐き気を催します。ですから是非とも女の子でお願いします。




 私は毎晩寝る前に神様に向かってお祈りをしておりましたし、生まれる直前ぎりぎりまでお祈りをしていましたが、神様は残念ながら私の願いを聞き届けてくれませんでした。


 お母様は男子をお産みになられましたのです。



 弟君に会いに参りましょう、と言われ侍女に付き添われ私とフィアランスはお母様の寝室に入りました。お母様は産まれたての何かを抱いて幸せそうな顔をしております。お父様はハンカチを握りしめて主よと感謝の聖句を刻んでますし、お祖父様もお婆様も涙を流して喜んでました。曽祖父様に至っては嬉しさのあまり取るもの取って登記所へ早速出生登録申請へ行ったそうです。


 私はお母様が抱いてるその何かを覗き込みました。その産まれたての弟と呼ばれた物はまるで猿のミイラみたいな顔をしてました。


「エド、あなたの弟よ」


 そうお母様は言うと私にその猿のミイラを抱かせようとしてきます。この時の私はすごく嫌でした。ですがお母様たちは男子の誕生に喜んでいるのです。空気の読めるお姉ちゃんをずっと演じてた私はさも嬉しそうな顔で猿のミイラを抱きました。


 その猿のミイラは意外とずしりと重く、熱かったです。そして猿のミイラは私の顔を見ると、少し笑ったかのように見えました。


 ……かわいい? かわいいかもしれない!


 そう思った直ぐに、この猿のミイラは泣き出したのです。


「あらあら私のアンジュー、お姉ちゃん見てどうして泣いちゃったのかしら?」


 そう言って、お母様は猿のミイラの頭を撫でてました。


「お姉ちゃん、私も抱っこしたい」


 既にボロボロになってる人形を抱きしめたフィアランスが私の服の裾を引っ張ります。


「フィアン。これはお人形さんじゃないの。あなたにはまだ早いわ。もうちょっとお人形さんでお姉ちゃんになる練習しなさい」


 私はフィアランスを窘めるよう言いましたが、抱っこさせてと人形を振り回して駄々をこねるのです。


「もう、二人とも喧嘩しないの。あなた達の弟なのよ、取り合ってどうするの?」


 そう言ってお母様は叱りますが、なんだか幸せそうです。



「フィアランスはお姉様になったのよ」


 そうお母様はフィアランスの頭を撫でながら続けます。フィアランスはとても嬉しそうな顔をします。


「私、お姉様?」


「そうよ。もう立派なお姉様なのよ。いつもそのお人形さんに見せてるお姉様らしい振る舞いをしなきゃいけないのよ」


「わかったー」


 そう言ってフィアランスは人形を握りしめ両手を広げました。



「エドヴィシュにも弟が出来たのよ。あなたは元々良いお姉様だったんだから、もっといいお姉様を目指しなさい」


「わかりましたわ、お母様」

 そう言うとずっと抱いてた猿のミイラを覗き込みました。いいお姉様を目指す、そう思ったら弟というのも悪くないのかもしれない、と思いました。




   ==☆==☆==




 それから三年、月日が流れました。


 あの猿のミイラも随分人間らしい顔になり、立ったり喋ったり本を読むようになりました。名前は元々決まっていてアンジューと名付けられました。しかしこのアンジュー、すごくかわいいのです! よくフィアランスがアンジューと遊んでるのを私は見てるだけですが、本当にかわいいのです。何度混ざりたいと思ったか判りません。ですが私はお姉様です、そんなことは許されません。


「ねぇアンジュー、私のことはちぃ姉ちゃんと呼びなさい」


「……? はい、フィアランス姉さま」


「だから、ちぃ姉ちゃん!」


「わかりました、フィアランス姉さま」


「もぉー!」


と言ってフィアランスはすごく嬉しそうにアンジューを抱きしめます。アンジューにしてみたら、フィアランスは昨日は『フィアランス姉さまと呼びなさい』と言ったのになぜ今日は『ちぃ姉ちゃん』なのか、きっと当惑しているのでしょう。横目で見ながらアンジューの心の内を妄想します。


「あちらでご本を読まれてるのはエドヴィシュ姉様。エド姉ちゃまと呼んであげて?」


「はい、フィアランス姉様……。……あの、エド姉ちゃま?」


「……ん」 


 三年前までは弟なんかいらないと神様にお願いしてました。虫のいい話だと思いますが、あの時、お願いを無視してくれてありがとうございます! やはり神様はいらっしゃるんですね! なんてかわいいアンジュー! あまりの恥ずかしさと嬉しさで、私はそっけない態度となってしまいましたが。


「エド姉ちゃま、恥ずかしがってる?」


「フィアン、くだらないこと言ってないで、アンジューと遊んでなさい」


 私は髪をかき上げてフィアランスを睨みました。そう、この時私はものすごく髪が長かったです。



 あと、アンジューはものすごく頭のいい子でした。そして学校の男子と違ってガサツでも乱暴でもなく、むしろ大人しい子でした。それにフィアランスがおままごとと称してアンジューにフリルいっぱいのドレスを着せたりリボンをつけたりしてた時は、本当にかわいくて仕方が無かったです。アンジューもアンジューで嫌がる様子もなく、二人はよく夫婦ごっこをしてました。

 もちろんこの時も私は少し離れたところで本を読むふりをしながら横目で見てました。八歳にもなっておままごとも無いでしょうし。でも心の奥底では、混ざりたい、いつもそう思ってました。




   ==☆==☆==




 ある日、私は学校で女友達と話してました。そこで誰が好きかって話で盛り上がったのです。その時、皆はクラスの某君や歴史科の先生、果ては帝都の俳優さんなどと言うのです。そして私の番になった時に素直に弟のアンジューが好きと言ったのです。


「エドちゃんっていつも大人っぽい振る舞いをするのに、弟が好きだなんてかわいいお姉ちゃんね」

「そういう純粋な気持ちって大切よ」


と皆に言われたのです。え、アンジューが好きってすごく変なことだったのでしょうか、この時はよく判りませんでした。しかし、私の成長と共にアンジューも成長します。どんどん格好良くなるアンジューを見て過ごす私は、大変なことに気付かされたのです。



『姉弟は結婚ができない』



 では私が抱いてる恋心はどこへ持っていけば良いんでしょうか? この件は誰にも相談できません。親友たちに打ち明けたほうが良いのか、それともお母様にお伝えしたほうが良いのか、もしくは口の固い侍女に聞いてみたほうが良いのか、本当に判りませんでした。ですがアンジューには絶対に知られてはいけない! それだけは直感でわかりました。


 ですが意識すればするほどアンジューに対する思いは強く膨らんでいきます。ですので私はアンジューを遠ざけることにしたのです。アンジューと接する時は表情を消して突き放すようにしたのです。賢いながらも幼いアンジューは自分が遠ざけられる理由が判らないため、しばらく私にしつこく付きまといました。そうでしょう、例えアンジューが賢いと言ってもその理由が、私の恋心が暴走しないようにですから。



「エド姉ちゃま、相談があります」

「フィアンに聞きなさい」


「エド姉ちゃま、ストリバ語の辞書を貸してください」

「勝手に持っていきなさい」


「エド姉ちゃま、お花が綺麗ですね」

「ん」



 しかし、ついにアンジューは私にこう聞いたのです。


「エド姉ちゃま、僕のこと嫌いですか?」

「………」


 そんなわけ無いわよ! そう言いたかったです。しかし私はこの時、無視を決め込むことにしました。それが決定的となりアンジューは私にご機嫌伺いしかしなくなりました。これで良かったのだと思ってました。




   ==☆==☆==




 しかし私の心はあっさり限界が訪れました。アンジューを強く抱きしめたい、その気持ちに火が着いた私は侍女たちが居ない時間を狙い、二階の侍女用空き部屋にアンジューを呼びつけました。そして強く抱きしめたです。今まで冷たくあしらってた姉が急に抱きしめるなんてアンジューを非常に混乱させたでしょう。ですが、私自身はこんなことをしてしまい、しかもこんな秘密が誰かにバレたらきっと良くないことが起きると思いました。ですから私は抱きしめながらアンジューの耳元でこう囁きました。


「みんなに内緒だから」

「うん」


 素直なアンジューは誰にも言わなかったみたいですが、私の秘密はフィアランスにあっさりバレました。



 ある日、二人でお茶を飲んでるときにフィアランスは人払いを願い出ました。侍女たちは言われた通り退出するとフィアランスは静かに言ったのです。


「エド姉ちゃま、アンジューと二人、二階の使ってない部屋で何なさってるんです?」


しらばっくれようかと思いましたが、『二階の』と言ったので、諦めました。


「なぜ知ってるの」


「二人が入っていくの偶然見ちゃったの」


「そう……」


「最近、エド姉ちゃまってアンジューを冷たくあしらってるわよね。例えエド姉ちゃまとはいえアンジューが可哀想なの」


「…………」


 ついに私は耐えきれずに泣いてしまいました。フィアランスはアンジューと一緒で優しい子です。椅子から降りると私を抱きしめました。


「ここからの話は二人の秘密にしよう? アンジューにも解る日が絶対くるから!」


 そう言ってくれたフィアランスに私はずっと心に抱いてた事を吐き出したのです。それを黙って聞いてたフィアランスは私をさらに強く抱きしめてこう言ったのです。


「私も同じよ、エド姉ちゃま。今だけは二人の秘密」

 



   ==☆==☆==




 初等学校も終わる頃には私もお母様同様子どもが産める身体になりました。そうなると私の心にも変化が訪れました。アンジューとの甘い夜を妄想し、思いをさらに暴走させていったのです。そう、姉弟婚という完全な禁忌を夢想するようになってました。しかしいつものようにフィアランスに見張りをお願いしてアンジューを抱きしめていた時、ふと、いけない言葉が心によぎったのです。



「どうせ一つになれないのなら、このままアンジューを殺して私のものにしたい」



と。ここまで思うようになってしまえばアンジューの顔を見る度に悪魔の囁きが聴こえてくるようになってきました。もうここまで思い詰めるようになったら私は教会の長老たちに相談しなければと思ったのです。が、もしそれを相談した結果、主の行いに反すると弾劾され、一家が離散となってしまうかもしれない。そう思った私はどうしていいか判らずまたフィアランスに打ち明けることにしたのです。そうしたらフィアランスは笑顔でこう言ったのです。


「エド姉ちゃまはそんなことしない事は知ってます、だってアンジューのこと本当に愛してるもの。でも、もし本当に歯止めが効かなくなって暴発するなら、アンジューじゃなく私を刺して欲しい」


と言うとキャビネから一振りのナイフを出したのです。


「そのナイフ、エド姉ちゃまにお預けします。だけどくれぐれも間違いだけは犯さないで」


「わかったわ」



 いつものように私はアンジューを呼び出し、抱きしめました。ですがその時、懐にはフィアランスのナイフを隠し持ってました。私の思いが暴発したなら鞘を抜こうと。しかし私の思いは暴発なんかせず、ただひたすらに虚しく、悲しく、そして辛かった思いだけが去来し、涙とともに溢れ出ました。


 そして私はこれ以上アンジューの近くには居られないと悟りました。もうこの家を出ようと。そのため私の今後について家族と何度も何度も話を重ねることにしました。突然何を言い出すんだとお父様は仰いましたが、私の今までの葛藤を素直に吐露し、これ以上誰にも迷惑を掛けられないと涙ながらに伝えました。お母様はそこまで思い詰めなくても良いのにと仰いましたが、これは私のけじめですと言いました。じゃあ学校を辞めてどこへ行くんだとお父様に言われました。私は帝女隊に入って人間を一からやり直したいと言いました。それを聞いてお父様は言葉を失い、お母様は失神なされました。もちろん賛成なんかしてくれるわけがありません。なにせ武術なんかしたことない娘が帝女隊に入って人間やり直したいだなんて狂気の沙汰ですからね。しかし私は中等学校から選択課外で剣闘術を習ってました。誰も知らずひっそりと木剣を振り続ける生活をしてたのです。ですから家族は私が木剣を振るうなんて想像が出来なかったんでしょう。この前剣士二級を取得したことを報告したら大層驚かれてましたから。


 最終的にお父様が折れました。


「じゃあわかった。だが中等学校の前期課程が終わるまで家に居てくれ」


「それでは私は前期課程が修了したらすぐに帝都へ参ります。で、それ以降についてもお願いがあります」


 アンジューに行先を決して告げないこと、私の部屋の物は全て捨ててほしいこと。この二つをお願いしました。

 アンジューのことです、行先を告げたらお手紙を送ってくるかもしれません。そうしたら折角の決意がぶれてしまうかもと思ってお願いしました。

 あともうこの家に帰る気がないことも宣言しました。帰れるところがあれば、もし迷いが出たらおめおめと戻るかもしれないからです。これはお父様はすごく渋りましたが、フィアランスがうまく説得してくれました。




 中等学校の前期課程が修了し、その日我が家でパーティが開かれました。家族みんなからおめでとうと言われましたが、最初にお母様が涙を流されると、次は祖父母様、曽祖父様、お父様と涙を流されるのです。前期課程修了程度で泣くことなんか普通ありませんが、アンジューはその異様なパーティの真の意味には気付かなかったようです。


 そしてアンジューが寝たのを侍女が確認すると、私はすぐ馬車に乗ってこの家を離れる計画でした。最低限の荷物だけを持って侍女の合図を待っている間、私はフィアランスから借りっぱなしだったナイフをキャビネから出すと後手で髪を切り落としました。もうこんな長い髪の毛は要りませんから、綺麗な髪ですねと褒めてくれたアンジューにはもう会えませんから。しかし鏡もなく暗がりで切り落としたので一束だけ長い髪の毛が残りました。これは今も残してあります。これまで切り落とすとなんかフィアランスとの縁まで切り落ちそうな気がしたからです。


 ちょっとエド姉ちゃま、とフィアランスが私を呼びに来ました。髪の毛を落とした私を見ると、涙目で微笑み、似合ってますよと言いました。


「エド姉ちゃま。お願いです、最期にアンジューにお別れのキスをしていって」


 そう言うとフィアランスは私をアンジューの部屋に招き入れました。侍女の合図をフィアランスは止めていたようで、すやすや眠るアンジューが寝台に横たわってます。


「どうしようもないお姉ちゃんでごめんね、愛しのアンジュー」


 私はアンジューの頬にキスをしたらフィアランスが私を抱きしめてきました。そしてこう言ったのです。


「こんな時にずるいって言われるかもだけど、やっぱり、いかないで」


 フィアランスはきっと、アンジューの前だったら私の決心が鈍ると思ったのかもしれません。ですが、すやすや眠るアンジューを見て、私の決意は揺るぎません、逆に固まりました。


「無理よ。これ以上、私はここに居ちゃいけないもん」


「そう……、わかった。じゃあもう止めない」



 そう言ってフィアランスは私の頬にキスをするとこう続けました。


「私達はずっと姉妹よね」


「もちろんよ……」




 この思いをずっと共有できるのは、あなただけだから。




   =了=

感想、もしございましたら気兼ねなくお書きくださいませ。おっさんの励みになります。


もし誤字脱字がございましたらご報告くださいませ。すぐに訂正いたします。




というより、どちらにうpすればよかったんだろ?

連載中の物語の中のほうがよかったのかなぁ?


ご要望がありましたら、是非書きたいですね。

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