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俺と踊ってくれますか?

「エラ!」



 ハンネス様は私の元へ駆け寄ると、ヨナス様から庇うようにして抱き締めた。彼の温もりに、身体の震えが少しずつ落ち着いていく。



「遅くなってごめん」



 私の名前を何度も呼びながら、ハンネス様が繰り返す。嬉しくて、愛しくて、思い切り縋りついた。



「っく……エラ、そいつから離れろ」



 地を這うような声。見れば、ヨナス様が背中を押さえながら、こちらに向かって手を伸ばしていた。



「嫌です。離れません」



 きっぱり拒絶すれば、ヨナス様は絶望的な表情を浮かべる。狂ったように手を伸ばしながら、何度も何度も私の名前を呼んだ。



「なんで! どうして、こいつがここに居るんだ! 騎士達は一体何をしている! どうして――――」



 真っ赤に血走ったヨナス様の瞳が、私とハンネス様とを交互に見遣る。ハンネス様は立ち上がると、ふぅと小さくため息を吐いた。



「あなたが居るのに――――俺がエラを一人きりにする筈がないでしょう? あなたの執着ぶりは異常でしたからね。護衛を付けさせていただきました。もちろんエラも、あなたのご両親も了承済みの話です。今回の件も、今頃部下が両陛下に報告に上がっている頃でしょう」



 ヨナス様が愕然と目を見開く。キョロキョロと視線を彷徨わせ、それからヒュッと息を呑んだ。


 護衛を付ける理由が『自国の王子にある』だなんて、とてもじゃないけど大っぴらにはできない。だからハンネス様は誰にも気づかれないよう、密かに警護を付けてくださった。


 おまけに、ヨナス様は王太子。下手に手を出したら外交問題に発展してしまう。有事の際でもギリギリまで様子を見て欲しい――――私からそう頼んだ。何事も起こらないことを祈って。


 だけど、さすがにもう庇いきれない。私自身、彼を許すつもりはない。許せる筈がなかった。



「そんな……待ってくれ、エラ! 話せば分かる! 僕以上にエラを想っている人間は居ない! 君は僕と結婚すべきなんだ! 僕の妃になるべきで――――」


「無理です。私にはあなたを理解できない。ヨナス様とお話しすることは何も有りません。顔すら見たくない――――二度とお会いすることはございませんから」



 息を吐く。ヨナス様は唇を戦慄かせ、その場にガクッと膝を突いた。まるで魂が抜け落ちたかのような表情。だけど可哀そうとは思わない。それだけのことを彼はしでかしたのだから。



「エラ」



 ハンネス様が私をギュッと抱き締めてくれる。ポンポンと労わる様に撫でられて、涙が全然止まらない。


 ヨナス様が来てからの数分間、すごくすごく怖かった。けれど、絶対にハンネス様が助けてくれる――――そう確信していたから、不安はなかった。


 それに、これまで私を縛っていた呪縛から、ようやく解き放たれた気がする。


 ――――私の何がいけないんだろう?――――


 そんな風に思い悩んでいた日々が馬鹿みたいだ。

 心が晴れ晴れとしている。胸を張りハンネス様の隣に並び立てる。



「行きましょう、ハンネス様」



 放心状態のヨナス様を残し、私達は踵を返した。



***



 あれから二年。

 ヨナス様は王位継承権を剥奪され、王室の厳しい監視下の元暮らしている。

 当然、クラウディア様との婚約は破棄された。彼女はヨナス様の弟と婚約し、あの頃よりも幸せそうに王妃教育に励んでいる。


 私はというと――――




「僕と踊っていただけませんか?」



 煌びやかな夜会会場。私に向かって真っ直ぐ差し出された手のひらに、目を細める。



「ありがとう」



 会場に来て以降、引っ切り無しにやって来るダンスの誘いを断りつつ、先日夫となったハンネス様の隣に並び立つ。



「踊らなくて良いの?」



 穏やかな笑み。けれど、彼の手のひらはしっかりと私を掴んで放さない。


 ハンネス様はいつも、溢れんばかりの愛情で私のことを包んでくれる。この二年間、不安も、悲しくなるほどの劣等感も、一切感じる暇が無かった。彼のお陰で、私は本当に幸せだった。



「ええ。だって、私にはハンネス様が居ますもの」



 答えれば、ハンネス様ははにかむ様に笑う。愛しさが胸にこみあげる。

 ずっとずっと欲しかったもの。それはもう、この手の中にある。



「じゃあ――――俺と踊ってくれますか?」



 ハンネス様が尋ねた。

 初めて私を誘ってくださった夜と同じ、温かくて優しい笑みを浮かべて。



「もちろん!」



 私達は顔を見合わせると、満面の笑みを浮かべるのだった。

 本作はこれにて完結しました。

 もしもこの作品を気に入っていただけた方は、ブクマやいいね!、広告下の評価【☆☆☆☆☆】や感想をいただけると、今後の創作活動の励みになります。


 改めまして、最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 自己中ヨナスから逃げられ最後にはエラもクラウディアも幸せになってよかったです。 [気になる点] ヨナスはどの時点からおかしくなっていったのでしょうか? [一言] 軽くホラーが入っていてヤ…
[良い点] ハンネスによってエラの心が満たされていく描写がとてもよかったです。本当に好きな人からの言葉一つで喜びに震える事ってあるんですよね。 読んでいてエラ感情移入しまくりで私も幸せな気持ちになれま…
[良い点] 読ませていただきました、面白かったです! ふたりだけじゃなくてクラウディア様も幸せそうで良かった [一言] 「選ばなかったのは君だろう?」ってのがほんともうその通りで!
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