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第六話「処刑場にて」

 すんなりと処刑場へと足を踏み入れた(わたくし)の目に飛び込んで来た光景は、それはもう恐ろしいものだった。

 十数名の近衛兵が並ぶ中央に、後ろ手に縛られ膝をつかされたエラルド様の気の毒なお姿があり、その横には処刑人が大きな斧を持って立っている。


 私はもう我慢が出来なくて、大きな声を張上げてしまった。


(かし)こくも王太子殿下に対し、何と言う無礼な有り(よう)なのですかッ!」


 途端一斉にその場に居た者たちが私を見た。しかし怒りで我を忘れていた私は、全く臆する事なくズンズンとカイゼル様の前へと進んで行く。


「何だこの女は!? あ? お前はエラルドの教誨(きょうかい)に来ていた修道女じゃねえかッ!」


「カイゼル殿下、この様な無体な真似は神がお許しになりませんわッ! そもそも反戦を掲げていらした王太子殿下に何の非があると言うのでしょうかッ!?」


 呆気にとられざわついていた近衛兵の皆さんが、どうしたものかと言う感じで私を見ている。

 なので私は彼らにも語りかけたのだった。


「本当に皆さんは此度(こたび)の戦争の責任がエラルド様にあると思われますか? 隣国が要求したのは戦争責任者の首です。それならばもっと相応しい方がいらっしゃるのでは!?」


 そう言って私はカイゼル様をキッと睨み付ける。そのお顔は唇を震わして赤鬼のように恐ろしい形相をしておいでだ。


「こ、こ、この修道女を捕らえよッ! いや、この場で殺せッ!」


「待てカイゼルっ、シスターテレーズには手を出すなッ! 彼女はただ純真なだけで政治に含むところあっての所業ではないッ!」


 当然エラルド様は私の声を聞き、私がここにいる事を既にお気付きになっておられる。しかしそのお考えは間違っておいでですわ、エラルド様。私は大いにこの政治に含む所がございます。


「カイゼル殿下、今一度お考え直しあそばせ。神は見ておられますわ、善行をなせば殿下の今までの悪行も許しへと近づけます!」


「うるせえっ、近衛は何をしているかッ! 俺はこの女を殺せと言っているっ」


「いやしかし殿下、辺りをご覧下さいッ! このおびただしい数の衛士と兵士どもは一体なぜここに?」


 近衛兵の方の言葉が私の耳にも届き、チラリと辺りを見回すと、先ほどお別れしてきた皆さんたちが処刑場にいらしていました。私のために祈りを捧げに来て下さったのでしょうか?


「知るかよッ! 貴様らが殺らねえなら俺自ら殺してやるわッ!」


 カイゼル様はそう仰ってご自分の剣を抜き放つ。しかし私は元より殉教(じゅんきょう)の覚悟で参っております、恐れなどはございません。

 私は両手を合わせ祈りの姿勢でカイゼル様に申し上げたのです。


「悔い改めなさいカイゼル殿下!」


「黙れッ!」


 カイゼル様がその剣を私へと振り上げた瞬間、驚いた事にエラルド様が矢のように素早くカイゼル様に体当たりをなされ、私を守って下さったのだった。


「逃げろッ、フレーリアッ!」


 えっ!? いまエラルド様が私の事をフレーリアと呼んだ気がしたのですが……


「お、おのれッ! エラルド貴様ッ!」


 しかしその事を考える(いとま)もなく、今度は体当たりして倒れているエラルド様に向け、カイゼル様が剣を振り下ろそうとしている。

 咄嗟(とっさ)に私はエラルド様に(おお)(かぶ)さり、剣で斬られる事を覚悟した。


「お、お待ち下さいっ、カイゼル殿下ッ! この場は一旦お引きになられませッ!」


 一体どういう事でしょうか? なぜ近衛兵たちがカイゼル様を止め、護るような構えを見せているのか……

 すると今まで頭に血が昇り気が付かなかった私の耳に、地鳴りの様な声が聞こえてきたのだった。


「殉教だ、我々も殉教するのだ」


「恐れるな、シスターテレーズと共に殉教しよう!」


「仲間と家族の無念を、この殉教で晴らしてやろうじゃないか」


「我らテレーズ聖母の会は、死ぬも生きるもシスターテレーズと共にある!」


 数百名もいる衛士と兵士の皆さんたちが、怒涛の様にカイゼル様と近衛兵たち目掛けて押し寄せて来ているのはどういう訳だろうか。


「気高くお美しいシスターテレーズをお守りしろッ!」


「悪魔に我らの癒しを奪わせるな!」


 何が何だか分からないと目を見開いているカイゼル様を、近衛兵の方たちが衛士や兵士の皆さんから護ろうとして戦いが始まってしまったものだから……


 もう私も何が何だか分かりませんわ!


 決着はあっという間について、カイゼル様を始め近衛兵の方も全員捕らえられ、皆さんが勝鬨を上げていらっしゃいます。

 すると私がまだ覆い被さったまま下に敷いていたエラルド様が、「一体何が起こったんだい?」とお訊ねになった。


 私は慌ててエラルド様を抱き起こしてから、何とも間の抜けた返事をしたのである。


「さあ? 私にもさっぱり」

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