第一話 はかなき少年のはかなき願いと包み込まれる母性愛。
とある異世界。
とある国で、またひとつの種族が滅び<終焉>を迎えた。
否、精確に言えば
たった一人を残して滅んだ。
この物語は
そんな孤独な生き残りの美少年獣人
「デルタ」と
彼の凍り付いた心をフェニクスの焔のように
暖かく、何度も溶かし続けた女性
「エミリア」
その二人の物語<エピソード>だ…。
工場と駆動魔術の町<アイソレーション>
デルタ「おい、いったいいつまでこんなママゴトに突き合わせる気だぁ?
俺はお前みたいに暇じゃないんだぜ!!」
エミリア「もぉ~そんなこと言わないの!あなたのその傷はあと20日は安静にしててもらわないと困るレベルなのよ!」
エミリアは濡らしたタオルでデルタの上半身を拭いてやっていた。
デルタは恥ずかしさからつっけんどんな対応をしている。
デルタ「けっ!助けてもらって礼は言うがな…俺はあんたのお医者さん遊びに付き合うつもりは1ミリも無いんだ!俺には…俺には行かなければならない場所がある」
デルタがふいっと背を向ける。
するとエミリアは
エミリア「あなたにこの傷をつけた人を探しに行くんでしょう?
でも、それは本当にあなたの望み?」
そう。デルタは希少な鉱石魔術を扱う一族「ブラック」の少年だ。
そして、開拓地に金目当てで押し入ってきた悪い貴族の手下たちに
彼の大切な仲間は皆殺しにされてしまった……。
ブラックはその命を終えるとき
膨大な魔術を含んだ結晶を体内に残す。
それは本来、子供や孫などがまた体内に取り入れ継承するものであったが
一族以外のものであっても、素晴らしい魔術資源として活用ができる。
そこに目をつけられた。
デルタ「俺…許せねぇんだ……人の命をなんとも思っちゃいない連中の、なんとも思ってない蛮行で俺の家族は…」
怒りの涙で肩を震わせるデルタを、エミリアは背後から優しく聖母のように抱きしめた。
母性の象徴である柔らかな胸が、デルタの背中を包んだ…。
エミリア「ごめんなさい、あなたのつらい気持ち…きっと1パーセントもわかってあげられていないと思う。でもこれだけは言わせて!私はあなたに幸せに生きてもらいたいの!」
デルタ「ぐっ…………!」