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大人と子供、女子の思惑はわからない

 昼食後。

 ヤランはレスティナに誘われてダイルに剣の稽古をつけてもらう。

 剣の握り方と基本動作を15分。

 あとはひたすら3種の素振り。上段の構えから振り下ろし、横薙ぎ、袈裟斬りから上段の構えに戻るをひたすら続けること15分。

 合わせて30分の稽古だが、小柄なヤランはくたくたになってしまい、午後の枝はらいは正直捗らなかった。

 他の子供達からは反感の目が痛かったが、ユリスがずっと側で補助してくれていたおかげで虐められるような事はなかった。


(帰ってからとか帰り道は分からんけどな・・・)


 ちなみにレスティナは戻ってから自警団に入った男子達の稽古を見守るという謎業務のために先に帰宅している。

 重く感じる右手を振るってナタを枝に叩きつけ払うヤランは、仕事を続けながら隣で地べたに座り込んで頬杖をつく年上の少女を見て言った。


「ところで、レスティナを一人で帰らせて良かったんですか?」


「どういう事?」


「いえ、従者としてついてていなくていいのかなって」


「うーん? 別に私は従者じゃないよー? 友達だけど」


 あれ、と思って手が止まる。

 すぐにユリスは立ち上がってヤランのナタを取り上げると手の平をマッサージし始めた。嬉しいがちょっと痛い。気持ちいいのか痛いのかどっちか分からない。

 ユリスは微笑みながら彼の手をほぐしながら言う。


「レスティナの従者はちゃんとついてきてたよ。屈強な男子が2人も!」


「へ、へええ。そうなんですか」


「だから帰りは大丈夫!」


「じゃあ、ユリスはどうして残ったんですか?」


 素朴な疑問だ。一緒に帰った方が良かったのではないだろうか。


「うーん?」ヤラン少年の手の平を観察する「なんていうかな」モミモミ「人間観察?」上目遣いにヤランの顔を見ながらモミモミ「んーなんだろう。レスティナに見守って欲しいって頼まれたのね」モミモミ「そうなのよ」


「はぁ・・・」

(いつまで揉んでるんだろう。そろそろ離して欲しいんだけど)


「そうなの」モミモミ


「何がです?」


「うーん」モミモミ


「あのー・・・」


「んー」モミモミ「君って可愛いよね」モミモミ


(何が言いたいんだこの娘。男らしくないですかそうですか。見てろよきっといい男になって見返してやるんだからな!)


「はい、おわりっと」


 やっと解放されて作業に戻るヤランを、ユリスは再び地べたに座り込んでじっと眺めているのだった。

 夕方になり、男衆が新たに切り倒した巨木を作業広場に引き摺り込んで枝払いをしている所に並べると、今日の仕事は終わりとなって皆で揃って村への帰路についた。

 帰り道は鬱蒼とした獣道で、育ちすぎた草や樹木の枝が時折通せんぼしてくるが、大人達は気に留めるでもなく腕を左右に振って押し退けて進む。

 子供達はそれらが勢いよく戻ってくるのを回避するのを遊びのように楽しんでいたが、年長の少女ユリスは髪の毛に葉がくっついたり顔に枝が引っかかったりして引っ掻き傷が出来るたびに鬱陶しそうにため息を吐いていた。

 男児の誰一人、年長の少女を気遣う者はいない。

 男衆に至っては、年頃の女の子に近付き難いのか気にも留めていないのか、やはり気遣う者はいない。


(俺の常識がおかしいのかな・・・。どうして誰も女の子を守ろうとしないんだろう?)


 ユリスを守るように前を歩いていたユリスだが、ヤランはつと駆け出して彼女の前に出るとナタを振り回して枝や草を弾き始めた。


「あ、え? なに?」


 年下の男の子に気を遣われて戸惑うユリス。

 前を歩いていた男衆が数人、草を払う音に気付いて振り返り、そこで初めて気が付いて言った。


「おお、そうか! 今日は女の子がおるんだったな!」


「なになに? おー。そうか忘れとった! おーいみんな! 邪魔な枝さ払いながらいくべ!」


「なんじゃなんじゃ」

「なに、まだ女の子おったんかいな」

「枝払うべ、枝払うべ! 歩きやすくしてやらんとな!」

「女の子には優しくしねえと、婆様に叱られるでな」

「のう?」

「ナタさだせえ、ナタあ」


 男衆はいつもは男だけの仕事場に、今日から女子が混ざっていることを忘れていたのだろう。

 一斉に道を切り開きながらの帰り道となり、子供達も真似してナタを振るおうとしたがコレは他の大人達が叱ってやめさせた。面白半分でナタを振るう子がいたので危ないと判断したのだ。

 大人に咎められてヤランもナタをしまう。

 ユリスが隣に歩調を合わせてきて頭ひとつ分背の低い男の子に見下ろして言った。


「優しいねキミ。フフッ」


「な、なんですか?」


「ね、キミってレスティナと付き合ってるの?」


「子供ですよ僕ら」


「フフッ。そうだね! ねえ、ヤランくん」


「はいはいなんでせう」


 適当に返事をしていると、唐突にユリスの顔が前に飛び込んで来て、


「ちゅっ」


 キスされてしまった。


「ちょっ! ななな!?」


「フフッ。楽しい反応!」


「からかったんですか!?」


「やっぱりキミって可愛いねっ」


 3歩ほどスキップしてヤランの前を再び歩き出すユリス。

 この世界の女の子は、というか女の子の考えていることは全くわからない。

 ヤラン少年は唇に残る柔らかな感触とふうわりと鼻腔に残る少女の甘い香りに赤面して俯き、隆起した木の根に躓いて転びそうになった。

 一度だけ振り向いてユリスがヤランの慌てぶりを見て微笑み、すぐに前に向き直ってしまう。

 気恥ずかしさが相まって、ヤランは一層顔を赤らめて眉間に皺を寄せるのだった。






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