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変化

 傭兵達の一件から、村では自警団の増強が行われた。

 具体的には、体力のある大人の男20人からなる自警団に、体格の比較的に大きな14歳から20歳の男子20人が参加して週一の剣の稽古が実施され、当番制で毎日5人の夜回りが村の行事に追加されたのだ。

 そして、これまでは仕事を免除されてきた8歳から10歳の児童にも仕事が割り当てられるようになり、自警団活動をする若者の負担の軽減に充てられる。

 神官のフレグナーは当初は渋っていたが、最終的には支配者のいない、言ってしまえば守備兵のいない村の防備を固めるためには自らも武装する必要があると遂には首を縦に振り、村の農耕器具を製造していた鍛冶屋では小剣の製造が始まった。

 自警団の訓練講師に呼ばれたのは、ゲームの進行同様に老騎士ロバートだった。

 ダイルはと言うと、元帝国兵の剣士だったという事実が本人から明かされたが、元帝国騎士であるロバートがいれば訓練は十分と自警団に入らされる傍ら木こりとしての仕事を継続することになっていた。

 今となっては、村八分にされていたロバートが英雄視されている状況に、ヤランは違和感を覚える。


「人間って、結局。厳禁な生き物だよな」


 小さくつぶやいていつもの枝はらいをしていると、森の伐採加工広場にレスティナが大きめなバスケットを抱えて歩いてくるのが見えた。

 同い年くらいの緑色の髪をボブカットにした少女がやや遅れて付いてきている。


(うむ。俺的知識によれば、あの子はレスティナの従者になる剣士系ユニットのユリスだな。優しいけど引っ込み思案で意外と毒舌だったような・・・)


 ヤランより年下で急遽仕事に割り当てられた子供達が、レスティナ達美少女の登場に手を止めて見惚れていたので、モブはモブらしくヤラン少年も手を止めて見惚れることにした。

 緑色の髪の娘と目が合い、そっと視線を左下に逸らされる。


(おっ、可愛い仕草ゲット!)


 レスティナの歩みが早歩きになった。

 スタスタとヤランの前に歩み寄り、


(ん・・・。え? なんと?)


 徐にバスケットを地面に下ろすとバチンと頭を平手で叩かれた。


「・・・っ! 痛い! ナニスルトデスカ・・・」


「ナニじゃない! お仕事! 手が止まってるわよ!?」


「あ、はい・・・」


 周囲がざわめく。

 村を守る自警団のリーダー、グレンの妹にして村の子供達のマドンナ的存在であるレスティナがヤラン少年と親しげにするのに驚いて、あるいは嫉妬して注目してきているのだ。

 キョロキョロと周囲を見渡し真顔でレスティナに反論する。


「不公平です他の子も叩いてください。だいたいにして美少女が二人も歩いてきたら健全な男児の注目を浴びるのは当然じゃないですか」


「やだ、美少女なんて・・・、ん? 二人?」


 遅れて追いついて来た緑色の髪の少女がよいしょと地面にバスケットを下ろして二人を交互に見比べる。


「どうしたのですか、レスティナ? その子は・・・」


 ドキリとしてヤランから身を離し、バッと右手で指して紹介する。


「お、弟分のヤラン君よ!」


(弟。弟分か。無難な立ち位置だな)


「可愛らしい子ですね」


「そうでしょう!?」


「ね、キミ、いくつ?」


 ヤランはそこまで自分が体格が劣っているとは思っていなかったので、やや不機嫌に顔を背ける。


「10です」


「え、10歳? 小柄なのね」


「これから成長するんですよ! 失礼だな・・・」


「ウフフ、ごめんなさい。可愛いのね」


「それ男に対して褒め言葉じゃないから! 成長期なんだからね! そのうち色男になる予定です!」


 負けじと口走って、レスティナに両手で頬を挟まれた。

 結構な力で。

 結構痛い。


「あっわっあにょっ」

「別にカッコよくならなくてもいいのよ?」

「ふぁっ!?」

「色男になる必要は無いの。わかるでしょう?」

「にゃにがでしゅか?・・・」


 じっと見つめて、いや、睨みつけてくるレスティナの迫力が少し怖い。


「れ、れしゅていな?しゃん?」


 レスティナはヤランの左頬に顔を近付けて、耳元で囁いた。


『私がいるのですから。他の女にうつつを抜かす必要がないのです。私だけを見ていなさい? あなたは私が守るのですから・・・』

(こ、こわいこわいこわいこわい・・・)


 ああ、早くアレンと出会って恋に落ちてくれないかな。

 割と本気でレスティナの本性が見えた気がしてドン引きするヤランだった。


(レスティナってこんなキャラだったっけ・・・。お嬢様騎士でアレンに一途だったはずなんだが・・・。はっ! まさか、一途イコールヤンデレなのか!?)


 唐突にレスティナはヤランから身を離して森の向こうにお嬢様然として立ってにこやかに迎えた。

 伐採に行っていた男衆が戻って来たのを気付いて出迎えているのだ。

 ポリポリと頬を掻くヤラン少年の右隣に緑色の髪の少女が歩み寄って、小声で言った。


『ごめんなさいね。レスティナったら、ちょっと強引で』


『あ、いえいえ・・・』


『仲いいのね』


 クスリと笑う緑色の髪の少女。

 レスティナの耳にも聞こえたのか、少し頬を赤くしていたが、残念ながらヤラン少年の位置からは見えなかった。






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