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現実、罪人と罰と

 ダイルは傭兵達を縄でひとまとまりに縛ると、近隣の住民の男衆を数人呼び出して中央広場に面した神社へと連行して行った。

 ヤランとレスティナを単独で帰らせるわけにも行かず連れ歩く。

 神社は日本の物と比べると随分と様子が異なる。

 入口には高さ5メートルの石の円柱が4・5メートルの間隔を空けて立てられており、天端に四角く生成した真ん中が少し痩せている石柱を横たえて接続してあり、日本の物とはかなり違うが鳥居だと言えなくはない。

 この世界の呼び方では神門と呼ばれているものだ。

 神門を潜ると2メートル入ったところで神門よりやや狭めた位置にやはり石の台座が据えられており、その上に少し可愛げにデフォルメされたガーゴイルが据えられて、それが狛犬のように門に睨みを効かせていた。

 敷地は縦長で石畳の道がまっすぐ作られ、30メートル歩いた先に木造の神社建てられており、作りは日本の神社に似ているが屋根は平らに近く荘厳な感じは無い。

 神社の前の格子戸の前にはやはり賽銭箱が設置されていたが、そこは素通りして右手に沿って裏側へ回り込み、神社の裏手から橋を渡された別邸の右側面へと進むと階段で5段上がって扉になっており、ダイルは足速に階段を上がるとコンとひとつ強めにノックした。

 中から神官のフレグナーが声を上げる。


『どなたです?』


 ダイルが一呼吸置いてハッキリとした発音で答える。


「ダイル・フォーンです。神官様」


『お入りなさい』


 少し喜ばしい声でフレグナーの声が返ってきたが、ダイルと村の男衆が4人の傭兵を連行して入ると和やかに祭りの打ち合わせをしていた板張りの室内が凍りついた。


「なんです? 一体。どうしたというんです?」


「この者達が集団でレスティナを襲っていたので取り押さえました」


 あえてヤランには触れず、曖昧な言い回しでダイルが告げるが、一同の視線はレスティナと同じ頻度でヤランにも集まる。

 衣服が必要以上に汚れており、少し口の中を切ったのか口元にも血が滲んでいたからだ。

 すぐにフレグナーが口を開いた。


「なんと不心得な。其方達、それは誠か?」


 傭兵の隊長は神官の態度に余裕を感じたのか太々しい態度で偉そうに言う。


「誤解であります。我らはそこのお嬢さんが納屋で難儀しているのを助けるために、ー」

「私をレイプしようとしたんです!!」


 恥ずかしくて悔しくて喋ることなど出来ないと踏んでいた少女レスティナが唐突に喚き出し、傭兵達の顔が青くなる。

 ダイルはすっと目を閉じて嘆息を吐いた。


「もうなるようにしかならん。墓穴を掘ったな」


「な、なんだと!?」


 焦る傭兵隊長と配下の男達。

 レスティナは目を血走らせ、頬を真っ赤に染めて訴える。


「ヤラン君が助けに来てくれなかったら、私は今頃・・・!」


「ヤラン!? ヤランがどうした!」


 血相を変えたのはデビスだ。

 レスティナの金切声に似た訴えは続く。


「助けに来てくれたヤラン君を蹴って、蹴って、痛めつけて! ダイルさんがたまたま通りかかって私達を救ってくれたんです・・・!」


「分かった。分かったから落ち着きなさい。ちゃんと話を聞こうじゃあありませんか」


 神官フレグナーが慌てて場を鎮めようと胡座をかいて座る腰を上げるが、一層早くデビスが立ち上がって傭兵達を見下ろして言った。


「何をした」


 誰に、とは言わない。ヤランもレスティナも等しく村の子供だからだ。

 他の村人達も笑顔が消え、目を血走らせて立ち上がり、フレグナーが両手を上下に揺らして村人達を落ち着かせようとするが、物言わず縛られた傭兵達に歩み寄って取り囲み、引っ掴み、外へ引きずって行く。


「待ちなさい! 待つのです! 暴力はいけません!!」


 引き摺られる傭兵達も気が気でない。


「お、おい! 何する気だ!」

「待て待て、話せばわかる!!」

「待て! 待ってくれ! 話を、!」


 聞いてくれと言葉を遮って、デビスが睨んで黙らせる。

 ダイルは動かない。レスティナが男衆について外へ行こうとするのを両手でか細い肩を抱いて止めるとヤランに向き直らせた。


「守るのだろう?」


 レスティナはじっと唇を噛んで耐えていたが、糸が切れたように柔和な表情に戻るとそっとヤランを正面から抱きしめてきた。


(いやいやっ! だからいらないからそういうシチュエーション!?)


 ドギマギして身体を離そうとするヤランの事をしっかりと抱きしめて、自らの体温を感じさせて耳元に息を吹きかけてくる。


「しー。いいの。外の音は聞かないで。私にだけ集中して・・・」


【ドカッ】

「うわっ」

【ガッバキッ】

「ぎゃっ! ま、まて! 正気か!?」

【ガッガッドガッバキッ】

「ひ、ひい!? まて! 許して!?」

【ガッガッガッドガッガッガキッズガッ】


 激しく殴打する、凄まじい音だけが室内に響き渡る。

 村人達が縛られた傭兵達をリンチしているのだ。

 擬音だけが不気味に聞こえてくるが、ヤランは容易に想像出来た。角材のような長く重い木材で滅多うちにしているのだ。

 前世の記憶に気持ちが昂っていたヤランの頭の中が一気に冴える。いや、覚める。


(そうか・・・。ゲームでもそうだけど、ファンタジー世界に警察や裁判所は無いんだ。村を守るためなら、町を守るためなら無法者には鉄槌を喰らわす。私刑で裁かれるんだ・・・。この世界は・・・、成熟してなくて・・・、恐ろしいほど純粋なんだ・・・。選択を間違えたら、たった一つのボタンの掛け違いで殺されてしまうかもしれないんだ・・・)


 現実が手にとるように見えて、急に怖くなって震え出すヤラン少年。

 彼の怯え方をその身で感じて、レスティナが涙を流した。


「お前が選択した結果だ。よく覚えておけ」


「・・・はい。剣士様・・・」


 ダイルの言葉は低く、優しく、だからこそ重く少女の肩にのしかかる。

 止めどなく涙を流す少女の左肩に右手を置いて、だが、と付け加えた。


「奴らの犯した罪は重罪だ。言い訳の方便も無い。殺されても、文句は言えまいよ。お前だけのせいではない。奴らの自業自得だ」


 いつの間にか外の傭兵達の声は聞こえなくなっていた。

 ひたすら殴打する不気味な音だけが響く。

 この時、ヤラン少年は世界の理不尽なほどの現実を知り、ならばと余計に剣術を身につけなくてはと、どうにかして生き延びなくてはと心に刻んだ。





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