朝練と朝食
早朝。
ヤランは仕事に行く前に重い木剣で素振り百本を日課としている。
剣道の知識があるからこその訓練だ。
「八十八、八十九、九十・・・」
いつもの光景には変化があった。
先日友好を交わしたアレンが、早朝の訓練に顔を出すようになったのだ。
ヤランと同じように、見様見真似で木剣を素振りする。
「九十七、九十八、九十九、百っ!」
ブンと重たく重心の悪い木剣を真一文字に振り下ろし腹の前でピタリと止めて大きく息を吐くヤラン。
その隣で全く息を切らさずにアレンが笑って言った。
「いつも思うんだが、簡単なようで中々ハードな訓練だな!」
「そういうアレンは元気だね・・・。自信無くすよ」
「俺は幼少の頃から爺ちゃんに鍛えられてたからな。そういう意味じゃあヤランとは基盤が違うよ」
「それはそうなんだけどさ」
どかっと家の裏庭に直接腰を下ろすヤラン。
家の裏の勝手口が立て付け悪いのか、軋んで開いてヤランの母であるメリンが顔を覗かせて言った。
「二人とも、朝ごはんよ。汗を拭いて戻ってらっしゃい」
急にアレンが畏まる。
「ああ、あの、俺は爺ちゃんの所に帰って食べるので、」
「お仕事は木こりにされたのでしょう? 息子と一緒に行くのですから朝ご飯も一緒に取っていきなさいな」
困惑するアレンの横顔を見て、ヤランは苦笑して言った。
「父さんも木こりだし、紹介もするよ。遠慮しないで」
「う、む、やれやれ・・・。それじゃあお邪魔させてもらうよ、ヤラン」
「うん!」
ヤランはアレンを連れて、家へと入りパンと野菜のスープというありふれた朝食につくのだった。