うわまじでわきやくでいいですごめんなさい1
目が覚めると、質素な木のベッドの上で目を覚ます。
部屋の大きさは2・5メートル四方の素人が建てたような木製ほったて小屋と言って差し支えないほど、素人目にも適当なもので、お世辞にも人が生活する環境には思えない。
少年は半身起こして両手を見下ろし、自らの姿が10歳程度の子供だと理解して深くため息を吐いた。
「マジか・・・。風邪拗らせて目が覚めてみれば・・・」
自らの記憶を辿る。
名前はヤラン。姓は無い。辺境の支配者不在の開拓村出身で父は木こりのデビス。母は薬師のメリン。何と言う事は無いモブ村人だ。
自らの記憶を辿る。
村の名前はメティア。豊穣の女神ティアを信仰する小さな村で、有名なシミュレーションRPGの三作目にあたるフォーチュンエンブレムシリーズ外伝(通称FE外伝)の舞台となった大陸南方の島国トゥヴィルのそのまた最南端に位置するスタートの村であり、ひとたび事件が起これば亜人を含む盗賊団の襲撃に合って村の半数が命を落とす戦闘が発生すると思われる。
そして、ヤランにデビス、メリンという登場人物は記憶に欠片もなく、その事件で命を落とすその他大勢に含まれている事だけは解っていた。
「死亡フラグを回避するには、主人公であるアレンの祖父、と言われている老騎士ロバーツに弟子入りするしかないけど・・・。生き残れる程度で目立たないようにしないと今度は戦争で命を落としかねない。なんとしても適度な立ち位置で最終決戦を迎えなくては!」
さすがに転生前の名前までは思い出せなかったが、自分が異世界チキュウの住民であったこと。ゲーム・アニメ好きのインドア派で運動は得意ではなかった方だという事。そして今の身体、ヤラン少年の身体もまたさして運動が得意な方ではなくのんびりした農作業に適しているという事。
「まずは自分改革だ! 話はそれからだな!」
「ヤラン、気が付いたのか!?」
ドアが勢いよく開け放たれて、豪快な髭を蓄えた筋肉質な大男が飛び込んでくる。父親のデビスだ。
その後ろからおろおろと表情を変えながら恐る恐る入ってくる母親のメリン。
「ヤラン、やっと気が付いたのね?」
「あ、あー・・・。うん。父さん、母さん。もう元気になりました」
「そうか! それは何よりだ! なぁ、母さん!!」
「えぇ、えぇ。本当に良かった。熱が三日三晩も下がらなくて遠い町までお医者さんを探しに行こうかと随分悩んだのよ?」
三日三晩。高熱。
物流も医療技術も発達してない世界では命に係わる!
(生きててよかった・・・。むしろそのまま逝ったほうがしあわせだったかも・・・?)
ヤランの心の声など聞こえるはずもなく、デビスとメリンの喜びよう。
とにかく最初の目的、剣術を習うを達成しなくては。
ヤラン少年は父デビスの目を真っ直ぐに見て、静かに言った。
「父さん、病み上がりでなんですが、お願いがあります」
「おお、なんだ! 言ってみなさい!!」
「剣術が、いえ、戦う技術が学びたいです。たしかロバーツという老騎士が村に居たと思うのですが、ー」
「ならん!!!!」
即答。
いや、怒られた。
ヤランがきょとんとしてデビスの目を真っ直ぐに受け止めていると、母のメリンがベッドにしがみ付いて、いや、ヤラン少年にしがみ付いて泣きそうな顔で見上げて来る。
「どうしたの? なぜそんな危ない事をいきなり言い出すの?」
「え? いえ? この村って亜人の脅威とか、盗賊とか・・・」
「そんなものは自警団に任せておけばいいんだ! お前は俺の跡を継いで木こりになるんだからな!」
「・・・ソウナンデスカ?」
「あたりまえでしょう? 体の弱いあなたに危ない事なんて無理なことなのよ?」
「でも、やってみなければわかりません。身体を鍛える事にもつながりますし、少しでも戦う術は学んだ方がいいと思うのですが、ー」
「そんなことはない!! お前にそんな真似が出来るはずがないだろう!!」
即答、そして怒られる。
「いいか、ヤラン! ロバーツなんて偏屈な爺さんの事なんか忘れてしまえ! お前は木こりになるんだからな!」
「木こりになるなら余計体は鍛えないと・・・それに自分の身を守れるくらいには強くなっておいた方が、ー」
「ならん!!!! 父さんについてくれば身体は鍛えられる! あんな爺さんの事なんか、二度と口にするんじゃないぞ!!」
襲撃事件で死亡確定フラグ。
これは何とかしなくては、と、ヤラン少年は深い悩みを抱える事となった。
なるほどこれはまごう事なきモブ人生。しかも接敵即死決定のモブの中のモブ。
(どうしよう・・・)
前途多難であった。