決意 -つながり-
そう、リオンはかつての仲間を手に掛けることが決心できなかった。
口ではもっともらしいことを言っても、いざ目の前にすれば剣を交えていながらも情を捨てることが出来ない。挙句に裏切りの理由すらも、自身に都合の良い理由を求めてしまう。
そうした弱さの結果が、あのもう一人の影たるリオンだったのだろう。
ドラガンもそうした弱さを見抜いていたからこそだったのだろう。あそこまで苛烈で怒涛の攻めをしたのは。
本来のリオンであるなら、あそこまで一方的な蹂躙にはならない。だが、世界の平和と仲間の命、その狭間で揺れる今のリオンにかつての実力は無い。
だったら、今のリオンがかつての実力を取り戻すには一つだった。
「僕は、平和よりも仲間を取ります。だからこれ以上は共に行動できません……」
「リオン……ッ!!」
ーーゴッ!!!
重く鈍い音がリオンの頬から響く。
それはカレンがリオンを殴りつけた音だった。しかもグーで。
殴られたリオンはもとより、エアリアも驚きのあまり声を失った。
「リオンさんは……リオンさんはバカっス!!」
涙目になりながらカレンは叫ぶ。自身の思いの丈をぶつける。
「どうして助けてって言わないんスか!?」
「そんなこと……言えるわけ……」
「なんでっスか!? お友達を助けようとすることの何がダメなんスか!!」
そこまで詰め寄られては流石のリオンもカチンとくる。
「相手は魔族だぞ! しかもその頂点である魔王も助けようとしている。それに付き合う奴がいるわけないだろ!!
「ウチが一緒に行きまスよ!!」
即答だった。一切の躊躇いもなく魔族を助ける旅に同行すると答えたのだ。
「カレン……」
「そりゃ、ウチじゃあなんの役にも立たないかもシれません。でも、騎士サマううん、エアリアさんなら凄い強いじゃないですか! 一緒に来てくれって言えばいいじゃないですか」
「エアリアさんはガランの騎士団長だぞ! 一緒に行ける訳……」
「なんだ? 私だけ除け者なのか?」
その言葉にリオンは耳を疑った。目の前の女性は、仕えるべき国からの任よりも得体の知れない男のふざけた戯言を優先すると言うのか。
「なに言ってるんですか? あなたは自分の立場を分かって言ってるんですか?」
思わず乾いた笑いが漏れてしまう。
彼女が優先すべきは、なによりも王女からの“魔王”討伐の任のはずだ。普通ならこの場でリオンを斬ったっておかしくはない。リオン自身にもそれだけのことをされる覚悟もあった。
なのに、
「王女殿下の命は確かに魔王の討伐だ。だがなリオン、それは手段であって目的ではない」
そう言ってエアリアは微笑む。慈愛に満ちた優しい顔で、今にも泣きだしそうなリオンの頭に手を乗せる。
「殿下の願いはこの世界の平和、ひいてはガランの民が安心して過ごすことなのだ。だから魔王の討伐は絶対のものではないのだ」
「エアリアさんは分かっていない。魔王を倒さなければこの世界に平和は来ないんだ……」
「君のかつての友は、魔王になる前からそんなに危険な思想の持ち主なのか?」
「違う! あいつは凄く優しい奴だ!」
「なら、助けられるのなら平和になるのではないか?」
理屈の上ではそうだろう。“勇者”も仲間たちも本当は心優しい者たちだ。元のように救い出すことが出来れば平和への道も見えるだろう。
だが、それはあまりにも分の悪い賭けだ。いや、負けるのが見えている、と言ってもいいくらいだろう。倒してしまった方がよほど簡単に平和への道は開けるはずだ。
「それがどれだけのことか本当に分かっているんですか?」
「私は、君とならそれも叶うと信じているが?」
迷いのない瞳でリオンを見つめながら、手を差し出すエアリア。カレンも隣でニッコリと微笑んでいる。
(……敵わないな)
戦いの中だけで生きてきたリオンでは到底取れない選択、それをこの二人はあっさり選んで見せる。
リオンはその優しさを分かち合いたいと思った。
「ごめんなさい……」
「違うっスよ、リオンさん。そこはありがとうって言うんスよ」
カレンの言葉に微笑み返し、エアリアの手を取る。カレンも嬉しそうに手を重ねた。
「二人ともありがとう。そして、僕の友を助けるため力を貸してください」
リオンの心からの言葉に、エアリアとカレンは力強く頷いた。




