再開は血と共に
ハルトが地面を転がるその直前、なにかの影がサッとその体を攫う。
「なんだっ!?」
エアリアとカレンは影が着地したその場所、壊れた壁に目をやるが何も映らない。
しかしリオンだけはその真逆、ちょうど三人の背後にあたる部分を見つめていた。
「相変わらず目ざといな」
「……ドラガン」
そう、そこに立っていたのは千年前共に戦った男、ドラガンだった。
見るものを射抜くような鋭い眼光は変わらなかったが、褐色の肌や額に短く生えた二本の角など、その姿はやはり千年前とは大きく変わってしまっていた。
「ハルトを助けに来たんですか?」
「あるいは、粛清……かな」
その言葉に、リオンは握る剣に力が入る。
「冗談だ。まぁ、勝手をしたことに対して思うところはあるがな」
「ドラガン、あなたも僕を裏切った理由を話してはくれないのですか?」
「それを聞いてどうする?」
「え……?」
虚を突かれた思いだった。確かに理由は知りたい、でもそれを知った後自分は何をすればいいのか。
リオンは答えられなかった。答えを知ることは終わりではないのだ、知った後こそが始まりでもあるのだ。
「答えられないのか? 当然だろうな。今のお前には戦う理由すらも薄いのだからな」
「っ……そんなことはない!!」
「ほぉ、ならばお前が我ら魔族と戦う理由はなんだ?」
「この世界に平和をもたらすことです」
「魔王を討滅して、か?」
「そ、それは……」
リオンの目が泳ぐ。この世界を平和な世にする、それを叶えるならば“魔王”すなわち“勇者”を斃さねばならない、ということ。
だが、リオンの目的はまた別にもある。闇に堕ちた“勇者”と仲間たちを救い出す、それを叶えるならば“魔王”の討滅は考え直さなければならない。
リオンは相反する目的が頭で渦巻き、エアリアとカレンにも、ドラガンにも顔を向けられなかった。
「情けないな」
呆れたように呟いたドラガンが、リオンの目の前に立つ。
リオンがなにかを考える間も無く、その体が宙に浮かび天井に叩きつけられた。
「……あ」
一瞬呼吸が止まった。視界が明滅し体が動かない。動かなければ、と考えはするのだがその思考が体へ伝わらないのだ。
そうしている間にも、ドラガンの拳や蹴りが叩き込まれていく。それは一方的な蹂躙だった。
天井からは鮮血のみが滴り落ち、肝心のリオン自身が降りてこない。
「リオン!!」
エアリアが助けに行こうと足を踏み出すが、そこで止まってしまった。
見てしまったのだ、その射殺すように鋭い眼差しを。ドラガンの灰色の瞳の中の底知れぬ闇を。
その圧倒的な威圧感に、思わず足が竦んでしまったのだ。
「生半可な覚悟ならばやめておけ」
「う、あ……」
地の底から響くような声に、エアリアは心臓を握られているかのような錯覚に陥る。
カレンに至っては腰を抜かし、涙と鼻水でその顔はグシャグシャだった。
そんな二人の耳に、ボトッという不気味な音が入ってくる。
「……ハッ!?」
我に返ったエアリアが見たのは、血塗れのボロ布のようになったリオンの姿だった。何とか生きてはいるようだったが、それは運ではなく単純にドラガンの技量によるものだろう。
「哀れだな……」




