僕との対話
ーー昏い。ここはどこだ。僕は何故こんな何も見えない所にいるんだ?
僕はハルトと闘っていたはずだ。あいつが、マリーベートが創ったとかいう、人を魔物に変える物体を使ったことは覚えている。その後、あいつが自身で生み出した魔物に苛烈な暴虐を働いた所からプッツリと記憶が途切れている。
考えられる要因、それは“自在術式”しかなかった。あの時暴虐を見た瞬間、怒りで頭が真っ白になった。恐らくはそのせいで自分の意識が“自在術式”の声に乗っ取られたのだろう。
マリーベートと闘ったあの時よりも状況は悪かった。頭に響く声に行動を制御されていたとはいえ、意識はハッキリとしていた。
だが、今回は行動だけではない。意識すらも完全に奪われてしまっていて、闘いの様子を伺い知ることも出来ない。
何とか主導権を“自在術式”から取り戻さないと、ハルトを殺してしまう。
向こうが魔族とはいえ、こっちの能力はそれを上回る異質。世界の理を完全に無視した力である以上、ハルトの勝ち目は相当薄いと言わざるを得ない。
その時、頭上から声がした。いや、自分自身の姿さえ認識できないこの場で頭上と表現するのもおかしな話だがそう感じたのだ。
「ふふ、気分はどうだい? 僕」
「自在術式……なのか?」
「ちょっと違うかな。自在術式によって増幅した君の負の感情、と言ったところかな」
姿は見ることが出来ないが、笑っているんだろう。軽い調子で語る口調は頭に響く声と同じだった。
「それがそこまで明確な自我を持つんだ?」
「なぜなんだろうな? ボクもそこらはよくわからないんだよ」
嘘を言っているような感じはしなかった。
「だったらお前は何なんだ? 僕の感情なんだろ?」
「そうだよ。単なる感情に過ぎないはずのボクは一体何なんだろうな? ボク自身が一番知りたいよ」
分からないなら、こっちの意識を乗っ取るようなマネはやめてもらいたいものだが。
「そうか、だったらもう僕に体を返してもらおう。この闘いは僕の闘いだ」
「いやだね、ボクだって生きているんだ。生を謳歌して何が悪い」
「ふざけるなよ……単なる感情風情が割り込んでいい事柄じゃない」
だが僕のその言葉に、向こうはいたくご立腹のようだった。
「ふん、世界を救う勇者様が随分な言い方じゃないか。かつての仲間とはいえ、敵を殺すことも出来ない甘ちゃんが」
その言葉とともに、何も見えなかった視界になにかが映る。相変わらず、真っ暗なのにソレは妙にハッキリと見えた。
そこに映ったモノ、それは
「僕……だと?」
「そうさ、ボクは君なんだよ……リオン」
逆さまに浮かぶもう一人の僕の姿だった。いや、上下の感覚も曖昧なので本当は僕が逆さまなのかもしれないが。
「チッ、同じ姿なんて相当な悪趣味だな」
「どうせこれからボクにすべてを奪われるんだ。そんなこと気にするなよ」
そう言って、向こうは手に出現させた剣を構える。
僕という自我を消滅させ、自身が“リオン”になるつもりでいるのか。だとするならふざけた話だった。
僕も同様に剣を構え、言い放つ。
「一つだけ、お前に言っておくことがある」
「何かな」
「僕を……“勇者”と呼ぶな」
真っ暗な空間に、二つの閃光が迸ったーー




