炎、一閃
カレンが恐怖に怯えた声を上げ、その身を縮こませる。
部屋の温度も低下の一途をたどっており、恐怖とは違う意味でも震えていた。
(……長引くとマズいか)
エアリアは自身のカイロをカレンに手渡し、自身は炎剣の出力をさらに上昇させる。温度低下への対策も兼ねてはいるが、正直気休めにしかならないだろう。
「ならば、一気に!!」
叫びとともに、炎を吹き上げる剣を一閃。迫る魔物の一体の首を真一文字に斬り落とすと、そのまま床を蹴って跳ぶ。
首を失った魔物の体に、重力のまま剣を深々と突き入れる。その瞬間、首に切断面が不気味に蠢き、肉が盛り上がっていく。
「っ! これか!!」
そのタイミングを逃すことなく、エアリアは突き入れた剣から、回復魔術を発動させる。
リオンほど卓越した術式を行使できるわけではないが、騎士である以上自身の傷を癒す程度の術は修めている。
ミチターでの実験体と同様ならば、これで倒すことが可能なはずだ。
リオン並みの術式を要求されなければ、の話だが。
(いけるか……?)
エアリアの心配は、どうやら杞憂に終わったようだった。わずかに盛り上がった切断面はそれ以上再生することなく、逆に肉体を不自然に痙攣させ、それが止まったと思ったら、そのままボロボロと崩れ落ちていった。
「やったっスね! 騎士サマ! ウッ……!?」
カレンが歓喜の声を上げながら駆け寄って来たが、その表情はすぐに曇ってしまった。崩れ落ちた魔物の肉が凄まじい悪臭を立ち昇らせたのだ。
エアリアも声こそ上げないが、鼻をもぎ取られそうなほどの臭いに、美しい顔を歪ませている。
「安心はまだ出来ない。あと二体も残っているし、アッチも考えなければ……」
すぐに気を引き締め直し、チラリとこの低温の空間を作り出している主へと視線を送る。
未だ氷の魔術を一切緩めることなく、風の魔術と交差させ続けており、こちらを顧みることはなさそうである。
(リオン……どうしたっていうんだ……)
今までのリオンからは考えられない戦い方に、つい思考が引っ張られた。
「騎士サマっ!!」
カレンの叫びで我に返ったが、わずかに遅かった。残った二体、その片割れの魔物の爪が急激に伸び、エアリアの喉元を貫こうと迫っていた。
「くっ……」
致命傷を負わなかったのは、ほとんど幸運だった。爪が突き刺さるその直前、動いた足で、魔物の横腹を蹴り飛ばせたことで、爪の軌道がわずかに逸れた。そのおかげで、首ではなく下あごから頬にかけてを斬り裂くに終わった。
「気を抜くな、私……」
死なずに済んだ、というだけで傷を負ったことに違いはなかった。頬から滴る鮮血を拭い、回復術式を発動しようとして、手が止まった。
すでに、頬の血が凍り始めていたのだ。このままでは、本当に命に関わってしまう。特に、戦いに慣れていないカレンはカイロがあってもその唇は不健康そうな青色に染まり、顔色も白くなっている。
震えるカレンの手を取って、強く握り語り掛ける。
「すぐに切り抜けるから、あと少しだけ耐えてくれ」
カレンも手を強く握り返し、辛そうにしながらも微笑む。
「大丈夫っス。ウチ、お二人を信じてまスから」




